ドラマーIN US#11 災い転じて福となる話

矢野アヤ

災いが転じて福となる話

 血は純粋な日本人だが、アメリカに生まれ育った24歳になる息子がいる。東京で働いて2年になる。コロナ禍の自宅待機期間中にアメリカの大学を卒業したため、通常大学4年時に行う企業インターンや就職活動を行えなかった。それならと、卒業後の21年の夏、一人日本へ旅立った。

 入国制限があり外国人は入国できない時期だったが、日米両国籍を持つ息子は日本人として入国し、ちゃっかり外国人専用のシェアハウスに入居。

 しばらくして東京にあるアメリカ企業に就職。在日する外国人が少ない時期だった。多少物価に合わせて調整されているらしいが、この時期、アメリカ企業の給料を日本で貰うという幸運に預かっている。

 息子は進学校と言われる公立高校に進んだが、教師との折り合いが悪く二年で中退。その後の一年間は自宅学習をした。アメリカは高校までが義務教育のため、学校を辞めても無料のホームスクール・プログラムを利用できる。担当のスクール・カウンセラーが付き、大学受験のための指導や勉強のチェックが毎週入る。

 息子は、その間の半分を日本の私の実家で過ごした。近くにある大学の日本語クラスに通い、論文の書き方などを学ぶ機会に恵まれた。学童保育で英語を教え、仙台でのボランティア活動に参加したりもした。

 その後大学進学に備え帰米し、地元の高校へ転入。息子は朝が起きられず、休みも多かったが、進路指導の先生に気に入られ、とても良い推薦状を書いて頂いた上に、なんと数多くの遅刻と欠席はない事になっていた。日本での学びやボランティア活動などもかなりポイントを挙げたらしく、彼は憧れの大学に入り、四年間の授業料全てを免除され、一生分の親孝行をしてくれた。

 彼の歩みを振り返る時、様々な災いが転じて福となっているように思える。日本人ドラマーの息子として、世間知らずの親の元、アメリカで生まれ育つという過酷な生育環境が、この強運体質を作ったのかも。息子が聞いたら怒るから言わないが。

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