第19話 「地龍、天龍会談」
「そおれーーー!!」ドオオオーーーンン!!
「シーナ!いきなり「ろけっとぱんち」を使うなぁ!
いちいち拳を拾いに行くのが面倒くせえっての!」
残念ながら「ロケットパンチ・リターン」機能はまだ完成せずに撃ちっぱなしなのだ。
突然のシーナの奇行に唖然としている冒険者パーティー幻夢の面々・・・
「すみません・・・ウチのシーナが・・・」
「シーナ様は義手だったんですね?」初めてシーナの右腕が義手だと知ったオーバン。
「うう・・・アスティ公爵家が本当に申し訳ない事を・・・」
「ん?私は最初から気にしてないよ?だからマッテオも気にしないで」
マッテオの実家のアスティ公爵家が右腕に障害を抱えた王女シーナを王城から放逐したのだ。
当然その事で、アスティ公爵家子息だったマッテオはずっと気にしている。
最初にマッテオから謝罪されたシーナは本当にマッテオが何を謝っているのか分からなかった。
「その程度の事だからね?」むしろずっと気にされるとシーナも困るのだ。
「はい・・・」
こんな感じにシーナが地龍王の山の山頂付近でノリノリで紫虫に「ろけっとぱんち」を放っている時、スカンディッチ伯爵領領主官邸の一室では地凱龍スカンディッチ、地琰龍ノイミュンスター、天舞龍リール、天朱龍ニームの4名で極秘の会談が行われていた。
これは双方の龍王しか知らない会談で他の龍種達には一切知らせていない。
会談が行われている部屋は「界結界」化されて他の者の侵入は不可能だ。
例えるなら通信回線が繋がっていないパソコンにアクセスするのと同じ事だからだ。
この様な密室で天舞龍リールが自らを議長として会談を進行させて行く。
「二人共、今回の会談に無理に来て貰ってごめんね」先ずはリールが挨拶をする。
「いや構わんぞ?しかし今日の会談の厳重さはどうした事だ?
界結界まで持ち出して、只事でない何かが起こったのか?」
「界結界」とは別名「世界結界」とも言われている。
この世界とは別の空間に世界を作り出して文字通り世界から隔離する究極の結界だ。
三龍王でもそう簡単に作り出す事が出来ない「神与の結界」なので、予め術式を仕込んだ魔石が組み込まれたミスリル製の箱に龍王が魔石に魔力を注封し結界を作っておくのだ。
現在はそれを展開させている、質量が大きいと結界内の負荷が大きくなるので全員が人化している。
「最初に言っておくと今日の私は天龍王アメデの娘として今回の会談に参加しているのね。
私の話す事は全てお父様と共有しています。
これから先の私の言葉は天龍王アメデの言葉と思って下さいね」
「はい、了解致しましたぞ。
ではリール殿には会談の進行役をよろしくお願いします」
スカンディッチ伯爵も今日は地凱龍スカンディッチとして今回の会談に参加している。
「して、その会談内容は?地龍側としては特に秘としてる事は無かったと思うが?」
「そうだね、今回は天龍側からの情報開示をする場だからね。
天朱龍ニームは天龍側の証人になって貰う為に同席して貰っているから内容はまだ知らない」
スッ・・・と天朱龍ニームは、地龍の2人にお辞儀をする。
天朱龍ニームは天龍の中では「法の守護者」と言う立ち位置にある。
物事を公平に見て判断を下す者・・・なのだが彼女本人は案外とずぼらな性格でリールと共に暴走する始末書の常習犯だ。
本人曰く「だって私は最初からそんな役目は嫌だって言ってるもん!」だそうだ。
「じゃあ始めるね、先ず最初はラーナ姫とシーナ姫に対する天龍側としての見解ね」
重大な会談と言うだけあって最初から核心的な話しだ。
「ラーナ姫とシーナ姫は天龍王アメデの愛し子だけどシーナ姫は地龍王様の娘になったので、天龍側としてはもう手を出せない・・・けど協力する事には私もお父様もやぶさかではないから困った時はいつでも言ってね。
私もシーナの事が好きだからさ」
「待て待て待て!天龍王様の愛し子じゃと??シーナが?」
乗っけから特大爆弾投下に焦るノイミュンスターだった。
「そうだよ・・・あれ?もしかしてノイミュンスターは知らなかったの?」
「知らなんだわい!どう言う事じゃ?」
あれ?ノイミュンスターってその事を知らんかったっけ?
・・・・・・・・ああ!知らんわ!確かに誰も何も言ってないわー。
「二人の魂がファニーの胎内に入って、赤ちゃんが誕生した時にお父様が祝福したのよ。
理由は「そうするべきと思った」そうだよ・・・
もう、お父様ったら、クライルスハイム様にも伝え忘れていたのね」
リールは父の天龍王に少し呆れてる様子だ。
「なんと・・・シーナ様が天龍王様の愛し子とは・・・」
スカンディッチも「天龍王の愛し子」の話しは知らなくてかなり驚いてる様子だ。
「シーナには驚かされる事ばかりじゃのぅ」
「これに関しては私も悪かったね。
シーナの事を地龍の王様の娘としか見ていなかったからね。
こっちの方が重要だったから、お父様の祝福の話しは話すのを忘れていたよ。
それからお父様の祝福の力はしっかりとシーナの中に残っているから安心してね」
「具体的な祝福の力とはどの様な?」
入場制限が有りなのでスカンディッチは書記官も兼任しているので議事録を書いている。
「シーナの中に一番強く残ってる祝福での天龍の超速自己再生能力だね。
即死でもしない限りシーナが死ぬ事は殆ど有り得ないねえ。
でも体は完全な龍種より強くはないから即死する可能性は有る!過信は厳禁だよ。
シーナにも伝え無い事、無駄な油断に繋がるからね。
本人も知らない最後の切札と思った方がいい」
「なるほど確かに・・・了解しました、他には?」
まさか超速自己再生能力とは・・・とスカンディッチは衝撃を受けているが書記官の仕事は疎かには出来ない。
スカンディッチがチラリと見るとニームも驚いた表情で天龍側の議事録を書いていた。
くどい様だが龍種に書類は大事な事なのだ!
「それから天龍との意思伝達能力だね。
前の診察の時、密かに私との念話の回路は繋いであるからすぐ使えるはずよ。
だけど訓練が必要だと思う、これはシーナに伝えておいてね」
「了解しました、他には?」回路とは何の回路じゃろうか?と疑問に思うスカンディッチ。
「後の祝福の力は、地龍の力の方が強いから補助的な作用に留まると思う。
でも「浮遊魔法」は結構使えると思うからドンドン利用してね!」
「空まで飛べるのか・・・」
「かなりの修行が必要になると思うけどねえ」
シーナに関しての話しは終わりの様だ。
シーナが地龍王と天龍王の両方の龍王から力を受けついだ事実はさすがにノイミュンスターも驚いたらしく何かを考え込んでいる。
「ラーナ姫に関しては今まで通りね、しっかりと守るから任せてね」
「我が国の姫でもありますのでよろしくお願いします」
主君でもあるラーナ姫にはスカンディッチも気を掛けている様子だ。
「えーと?ラーナ姫の前世についてノイミュンスターは聞いている?」
「ん?ラーナ姫の前世じゃと?聞いておらんぞ?」
「あはははは・・・実は「エリカ」なんだよねー」
「なんじゃと?!それは真なのか?!」
ノイミュンスターもイリスを通して「エリカ」の事は良く知っていた。
「ほう?その「エリカ」とは、グリフォンロードのエリカの事か?
しかしそれならば「エルフの女王」が黙っておらんのでないか?」
スカンディッチは何となく情報では「エリカ」を知っている。
ガッツリとイリスの関係者の天朱龍ニームはその辺のイリス達の事情はリアルタイムで全て知っているが「自分のサボりがバレる」ので澄ました顔で知らん顔をしている。
「もう既に暴走しようとしていました」
「そうじゃろうなあ・・・しかし最近、イリスの事を見掛けぬが?」
過去を思い出して、あの破天荒な娘達の事を笑うノイミュンスター。
「イリスなら魔王バルドルに捕まって魔王城に監禁されています」
おかしそうに物騒な説明をするリール。
「ふむ・・・それならば大丈夫じゃろ」
普通なら「何が大丈夫なんだ?!」って話しなのだが、イリスが保護者の魔王バルドルに捕まったと言う事は「イリスの制止を目的とした監禁」だと分かってしまうのだ。
それだけ過去にイリスがやらかして魔王バルドルが尻拭いをして来たのだ。
そしてその監禁の件も去年「イリスの見舞い」で魔王城へ行っている天朱龍ニームは知っている。
これもまた私的な問題行為なのでひたすら無表情で知らん顔なのだ。
そんなニームを見てニコリと微笑むリールだが次の瞬間に真面目な顔つきになった、
どうやらこれから主題に入る様だ。
《まさか全てバレてる?!?!》リールの笑顔に慄くニーム、顔には出さんが。
「ノイミュンスターはシーナからユグドラシルの気配を感じると言ったけどそれは内側から?それとも外側から?」
リールから少し意外な質問が飛び出してノイミュンスターは、ん?とは思ったが。
「質問の意味が解らぬが・・・答えは内側からじゃな」と真実を告げる。
「そう・・・前にシーナの精密な診察したでしょう?
その時に肉体と魂に大幅な乖離をしている所が有ったのよ」
「??どう言う事じゃ?」
「説明が難しいね。
魂が肉体に定着していないと言うか・・・それを拒んでると言うか・・・」
「言い淀むとはお主らしく無いのう・・・シーナの魂が肉体から分離していると?
我も地龍王様もその点は感じてはいないが・・・お主の言う事だから気にしない訳にいかぬな」
場合によっては、かなり深刻な話しになりかねないので真剣にリールの話しを聞いているノイミュンスター。
「うーん・・・やっぱり上手く言えないね・・内側の魂が肉体を必死に守っている?
この表現が適切かも・・・
それでね?肉体に繋がる魂を外側から感じたのよ?ほんの一瞬だけど」
「つまりシーナ様には魂が二つあると?」スカンディッチが困惑した様子で問い掛ける。
「これはね、私とお父様の仮説、仮説なので真実とは限らないと思って聞いてね?」
天龍王アメデですら仮説でしか説明出来ない秘密・・・
いよいよ、シーナの「真なる秘密」が明らかになる。
「ノイミュンスターの話しから推測してユグドラシルの魂がシーナの中に誕生していた。
これはもう確実、シーナはユグドラシルの生まれ変わりね」
「うむ、その通りじゃな」
「でもシーナは酷い障害を持って産まれたよね?本当はシーナは死産だった可能性が高い。
それをユグドラシルの魂が救った・・・と、私は診察の結果からそう仮説を立てたの」
「!!!!!!!」
「なっ?!!!!!」
「えっ?!!!!」
この仮説には本当に驚いた3人、いや・・・まだハッキリと分からない事が多過ぎる。
そんな3人を見てリールは話しを続ける。
「私は外側から感じた肉体と繋がった魂が本当のシーナの魂と思う。
思うだけで確信はまだ持てないの。
シーナの魂を救う為にユグドラシルの魂が地龍王様の力を利用した・・・」
「・・・もしそうなら地龍王様の右目がシーナの右目に吸い込まれたのも納得できる。
あの瞳は元々ユグドラシルから授かった物じゃ、元の持ち主に帰っても不思議はあるまい」
あの時の事が少し納得出来たノイミュンスター。
「地龍の王様のユグドラシルの瞳がシーナに吸い込まれた?!」
何それ?と言った感じのリール。
「おや、言うてなかったか?」今度は地龍側の伝達忘れが発覚する。
「聞いてないよ!
でもこれで仮説が正しい可能性は5割くらいに跳ね上がったね。
・・・・もしそうならどうすれば良いかな?」
こんな事例は有史以来、当然初なので何をしたら最善なのか解らないリール。
「どうにも出来まい、ユグドラシルは世界の意思そのモノじゃ。
何者も介入は出来ぬ、たとえ龍王様方でもな」
ノイミュンスターの言葉を要約すると「我にもどうにもならぬ」だ。
古き龍種たるスカンディッチもニームも余りに複雑な話しに黙って聞くしかなかった。
世界を誕生させたユグドラシルの復活でも世界を揺るがす一大事なのに、
そのユグドラシルが一人の少女の魂の中に宿ったかも知れないなど、何をどう言えば解らないからだ。
先に正解を言ってしまうと、リールの言う通り「この仮説の半分は間違いである」長くて面倒くせ・・・複雑な話しだけど皆んな最後まで読もうね!
その半分間違ってる仮説の半分正解の部分から本当の正解を模索するリール。
「世界の言葉」が呟いた『もう少し時間を下さい』の時間が迫る。
さあ!世界の守護者イリスよ、時間が来た!寝ている場合ではないぞ?
・・・この会談を覗けないからってイジけて「影見」を使ってセリスと遊んでんじゃねえ!
「とりあえず私はシーナと回路で繋がった・・・この場合は物理的な肉体・・・
脳と脳って言う意味ね、なので思念の伝達が容易にできるからシーナとも会話して様子を見て行きます」
今のリールが出来る事は一つ一つ事実の確認だけなのだ。
脳と脳とか怖い表現だが、シーナの脳に自分の魔力を少し仕込んだだけだ。
リールの魔力は既にシーナの魔力と混ざって定着している。
例えるなら相手のスマホの電話帳に自分の電話番号を入力しといたと言う表現が分かり易いだろう。
「我はクライルスハイム様とも話し合わねばならんな」
実はシーナのもう一つの秘密は三龍王も知らない事なのだ。
何分にもある事を実行した本人が三龍王に伝達を忘れて、現在はすっかりと忘れている状況なのだ。
なので地龍王クライルスハイムも分かっていない。
「とりあえずはシーナ様の護衛は増やすべきですな」
「私は海龍王アメリア様に連絡を取って見ます、なかなか捕まえられないかもですが」
《とりあえずリールの視線の先から逃げなければ!》
もっともらしい事を言って遠くに逃走する気マンマンの天朱龍ニーム。
多分彼女がシーナの正体について1番正解に近い予想を立てているのだが、話すと過去のサボり案件も盛大にバレるので単独で密かに調査するつもりだ。
なので最後のピースを埋める為に海龍王アメリアに会う必要があるのだ。
「ニーム?何か私に隠してない?」
「何も隠してないですよリール?」
無表情でしれっと大嘘を吐くニームを見てため息を吐くリール。
《こっ!これは結構バレてるわね!急いで逃げなければ!》
無表情とは裏腹に内心焦りまくっている天朱龍ニーム。
余談だが、ニームが仕事をサボって「イリスダンジョン」の隠れ家で大の字になって寝ている姿をたまたま難民の様子を視察しに来たリールに見つかっている。
だってニームったら暑いからって隠れ家のドアを全開にして寝てるんですもの。
周囲にお菓子の皿とジュースのコップを並べてイビキをかきながらお腹丸出しでポリポリお腹を掻いているニームの姿を見てリールが盛大な溜め息を吐いたのは言うまでもないだろう。
「ま・・・まあ・・・ニームも疲れているですものね?
イリス?ニームは毎回こんな感じなの?」
「お客様の個人情報なのでお答え出来ません!」
リールからの質問にウエイトレス姿のイリスが満面の笑顔で返答を拒否する。
お客様の個人情報は絶対に話さないウェイトレスの鏡のイリス。
しかし返答を拒否した時点でお察しなのだがな!
とりあえず今は新しい情報が入るまで様子見と言う事が会談で決まった。
いやほとんど何も決められなかったと言うべきか・・・
一人の少女を中心に未来に向かう運命が一気に動き出した。
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