第15話 「地琰龍ノイミュンスターとシーナ」
我の名前は地琰龍ノイミュンスター。
地龍王クライルスハイム様に仕え始めて約15000年程経つ地龍だ。
この世界で産まれ自我が芽生えてから存在自体は20000年以上前からしていたのだが、産まれてからの5000年ほどは、産まれた火山の中で特に何もせずに黙って世界を見ていた。
そんな中、我と似た気配のするクライルスハイム様がこの世界にやって来た時にお互いに気配は感じていたがお互いに特別何かを干渉する事はなかった。
それからはとても長い話しで詳しく此処で話すのはとても叶わぬが、とある事情により我はクライルスハイム様に仕える事となった。
クライルスハイムに仕えている間に異世界より移住して来た人間達が各地で街を作り各々の文化を築き始めた。
初めて人間の文明を見て「面白い」と感じた我は、積極的では無かったが少しずつ人間達にも関わる様にもなった。
人間に関わる様になると短い有限の命で精一杯生きるこの生物の事が更に面白くなった。
それから3000年程の時間が過ぎた頃には、天龍や海龍達もこの世界へとやって来て更にこの世界は賑やかになった。
その時に我が「地龍」と言う種族だと知った。
その後更に長い年月が過ぎた。
15000年の間には色々な事があったが、特に1000年前にユグドラシル様が枯れてからの世界は特に動乱の時代だったからのぅ・・・
さすがの我もただ世界を静観する事は出来なんだ。
そしてその動乱の時代に天龍王アメデ様の加護を受けた1人の人間が我等の山のある大陸に一つの国を作った。
これがまた、なかなか愉快な男で我も色々と男に手を貸した。
最初の国王は面白い良き男で我も積極的に関わったが、奴に死の刻が訪れ残された男の子孫が全然ダメだったのじゃ。
良き親から良き子が産まれるとは限らぬだな、と残念な気持ちになった。
その子孫達の悪行に我も愛想が尽き男が作った王国にも興味も失い、関わるのをやめてしばらく経った頃、大陸中にタチの悪い病が広がった。
このタチの悪い病は人間のみならず動物に、果ては幼い竜達にまで病が広がって行った。
地龍王様が病について調べて見ると、その病の原因が我が見捨てた彼の国の王族達の仕業と解った。
あろう事が自分の政敵を倒す為に異世界から来た「ネクロマンサー」を雇い敵地に猛毒をばら撒き、その猛毒が変異して新たな病と化したのだ。
世界の調和の為に地龍王様は一度その王家を滅ぼす事に決め龍戦士達と共に王城に攻め入りこれを攻め滅ぼした。
王城を滅ぼした後は王国全てを滅ぼす事はせず一度機会を与えると地龍王様が仰せになり、王家の監視の為に我が山の麓に一つの町を作った。
人間の度重なる悪行に加え病の件も重なり我もその頃には人間の国に対する興味を完全に失い関わる事は無かった。
まぁ、気に入った個人とは関わっておったがな。
魔族などがまた、悪しき王国の中で暗躍し始めたと聞いたが我には預かり知らぬ事だ、好きにすれば良い。
それから500年ほど過ぎた頃・・・
妙な気配を感じて久しぶりに火口より外に出て見ると我等の山を登る女を見つけた。
赤子を抱きしめて何か必死な様子だ、共に女を見ていた古き友から女は彼の悪しき国の王妃だと聞いた。
ほう、何故に1人で王妃が?この女は今までの奴等とは違うのか?
そんな気持ちになった我は久しぶりに人間と言う者に興味を持ち、山を登る女と関わって見る事にした。
これがなかなかに愉快な女だった。
まず胆力が良い、女自体の技量や魔力は低いが精神力がとても強い。
我の威圧を受けて気を失う瞬間まで我の目を見続けておった。
それに何よりも己れの命より子の事を思う心根も天晴れだ。
この女は面白い!
久しぶりに人間に手を貸そうと、その王妃の赤子を手にして我はとても驚いた。
今はもう亡き、懐かしきユグドラシル様の気配がするではないか!
その赤子は小さな手を我に向かって出して一生懸命に我に話しかけて来るのだが残念ながら何を言っているのか分からない・・・
だが、何故だかこのユグドラシルの気配がする赤子を守らねばと、そう強く思った。
話しを聞くと王妃の名はファニーと言う。
ファニーに赤子の名を聞くと名はシーナと言う・・・
うむ、ファニーにシーナか、
良い名だ。
後で地龍王様に話を聞くとシーナと名付けたのは天龍王アメデ様だと言うではないか。
天龍王アメデ様から色々と面白い話しも聞かせて貰ったが、それを話すのは我の役割では無いな、時が来れば適任な者が語るであろうな。
よく良く話しを聞くとシーナはファニーとは離れなければならない境遇と知って、
シーナを我が子として育てる事にした。
なぜかその時はそうしなければならないと感じたからだ。
ファニーを王都へ転送させ、シーナを育てる為に古き友が治めるスカンディッチ伯爵領へと向かう途中にクライルスハイム様と出会った。
なんと有り難い事にクライルスハイム様は我が子シーナに祝福を授けて頂けるとの事だ。
素晴らしい!この子にとって有益な事となるのは間違いなかろう!
するとクライルスハイム様の右目とシーナの右目が共鳴を始めたではないか。
はて?これは?とクライルスハイム様を見ると我が王も解らぬと仰せだ。
この時はシーナの中に居るユグドラシル様の魂に気が付いておらんかったからな。
ふむ、これはどうした物か?と思っていたら、突如クライルスハイム様が御自身の右目を抉り出してしまわれたではないか!
慌てる我を尻目にクライルスハイム様が御自身の目をシーナにかざすと・・・
「シュッ」とクライルスハイム様の右目がシーナの右目に入ってしまった!
そうあるべきかの様に自然に・・・
思わぬ事に我が動揺しているとシーナがクライルスハイム様の娘になった事をクライルスハイム様から告げられた。
おおっ!なんと!それはめでたい事だ!
そうかそうか、なれば我はシーナを導く師となろうではないか。
それから子育ての悪戦苦闘の日々が始まった。
先ずはシーナの右腕の義手を作る事から始め、言葉を教え、世界の事を教えた。
エレンが来てからは女性は女性と一緒の方が良かろうとエレンに教育を任せた。
エレンは期待に応えてシーナは、他人を思いやれる良き子へと成長した
またシーナは地龍らしくも成長していったのだ。
半分は人間のはずなのだが・・・とにかく地龍の気配が強い。
それは自体は喜ばしい事なのだが、今後の為にも人間の生活も覚えてさせねばならないのだが、やはり地龍の気配がとても強くシーナは人間らしさが欠如しておる。
ううむ・・・龍化する事が出来ぬシーナは人間の町で住む事もあるだろう・・・
さて、どうした物か・・・子育てとは相変わらず難しいモノよのう。
親が心配しても子は育つ、シーナは地脈の魔力をたくさん食べて見る見る大きくなって行った。
すると魔族がシーナが地龍王様の娘である事を何処からか嗅ぎつけて、
あろう事かシーナの誘拐を企ているとの情報を天舞龍リールから届いた。
おのれ!魔族共め!!!!!
怒りの余り我は付近の山々を久々に噴火させてしまう所だったわい!
少し寂しいとは感じたがシーナの身の安全の為にエレンの提案に従ってシーナを地龍王様のおられる本国に送った。
安全が確認されるまで我が友の子のエレンと共に地龍王様に保護して貰う事になった。
ならば我はその間に盟友と共にシーナの敵の排除に勤しむ事としよう。
するとどう言う事なのか、古き友や天龍達が色々な事情を持つ者達を我の元へと連れて来る様になった・・・
全く・・・ここは保護施設ではないのだがのぅ・・・
まあ・・・賑やかになるので良いのだがな。
それから王都で魔族との戦いが勃発して怒れる天舞龍リールがシーナの敵共を城塞諸共木っ端微塵に吹き飛ばしてしまった。
全く・・・少しは敵の情報源を残せば良いモノを・・・やはり天龍とは罪有る者には苛烈だのぅ・・・
しかしシーナの敵を吹き飛ばした事には気分は爽快だ!
ふむふむ、我もたまにはドラゴンブレスを爽快に放って見るか!
と言ったら居候のマッテオとオーバンに涙目で止められた、むう、残念じゃわい。
それにしてもどいつもこいつも、この鍛冶屋はシーナを育てる為のモノであって龍種達の集会場では無いのだから何かに付けて大人数で押し掛けて来るのをやめんか!
まぁ、おかげで最近は退屈せずに済んで良いのだがな。
今の我の望みはシーナが幸せに穏やかに過ごしてくれる事だけじゃ。
いつか来るシーナの魂が世界に帰る日まで共にいようではないか。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
そして現在・・・
「ガイエスブルク?どうしたの?お腹痛いの?」
体調が悪い者を見ると「お腹が痛いの?」と必ず聞くシーナ。
心配そうにガイエスブルクのお腹をさする。
《いや・・・お腹は痛くないんだけど・・・なんか凄く眠いんだ》
ガイエスブルクに一目惚れしてからの1週間、シーナはベッタリとガイエスブルクに引っ付いて離れ様としない。
どうやらシーナは好きな男には尽くすタイプの地龍だった。
ガイエスブルクもまんざらでなく、常にシーナと一緒に居る。
地龍の女性が夫、「つがい」に対する行動は大きく分類すると2通りある。
普通に夫に尽くすタイプと夫を永遠のライバルだと思って物理勝負を挑むタイプだ。
いや!「ライバルだと思うタイプ」って何なんじゃい?!そして物理?!
殴り合いか?!殴り合いをするのが愛情なのか?!そんなん分かるかい!
この様に人間には理解不能の考え方なのだが「私の夫である以上は私より強くなきゃいけないわ」と定期的に夫に対して物理的に勝負を挑むのだ。
地龍の夫も楽な稼業ではないのだ。
そして妻に全力勝負を挑まれたら夫も全力で応じるのが地龍の慣習なのだ。
エレンの両親が正にこのタイプの夫婦だ。
しかし「夫に尽くすタイプ」も夫に気に入らない所があると物理的な勝負を挑むので結局は両方共に物理的な勝負する訳なので結局は一緒なんだなこれが。
過程が少し違うだけである。
そしてこれは夫婦生活にちゃんと大きなメリットが有るのだ。
特に理由が無くても定期的にガチの殴り合いの喧嘩をして気分がスッキリしているので地龍の夫婦の離婚率は低い。
精神的ストレスが少ない訳だな。
地龍の夫婦について語っているとガイエスブルクの異変がいよいよと大きくなって来た。
《ああああ?・・・ダメだ、起きてられない・・・》
もう半分寝ているので頭をカックンカックンさせるガイエスブルク。
「ガイエスブルク?大丈夫?大丈夫?」凄く心配そうなシーナ。
お腹をさするスピードも上がる!腹が痛い訳では無いが。
すると後ろから声が掛かる、
「ふむ・・・ガイエスブルクよ、いよいよ「地龍」へと進化する時じゃな」
作業場で何かをしていたノイミュンスターがシーナとガイエスブルクの様子を見る為に外に出て来たのだ。
《え?地龍?本当ですか?師匠・・・俺、地龍になるんですか?》
「うむ、お主の場合はむしろ遅すぎるくらいじゃな。
進化による万難を排する為にお主の兄のブリックリンが無理な成長を止めておったのじゃ。
しかしそれも終わった、進化の時が来たのじゃ覚悟を決めよ」
《兄さん・・・が?》
「おめでとう!ガイエスブルク!」心配そうな顔から打って変わって大喜びのシーナ。
「そしてお主の準備も巣篭もりの準備も出来た、進化の為にシェルターへと移動をするぞガイエスブルク」
ノイミュンスターはそう言うと体長5m、体重2500kgもあるガイエスブルクを片手でヒョイと持ち上げると作業場に向かってスタスタと歩き出す。
人化していても龍の姿の時とステータスは全く変わらないので2.5tの物体でも発泡スチロールを持つ様に軽々なのだ。
その後ろをテクテクと付いていくシーナ。
「おお?!凄い!」
作業場に入ると「立体型複合魔法陣」が描かれた大きな鉄製の箱があった。
シーナは興味深げに箱の周りを歩いて箱に描いてある魔法陣を観察している。
シーナは「んーと?これが物理防御に、ここが魔法防御、あれ?これは?何?」
魔法陣を指で差しつつ、一つ一つの術式を確認する。
シーナのここ最近の魔法への関心が凄い、将来は良い魔法術師になりそうだ。
「その術式は界結界じゃな閉鎖空間ごと別の異空間に移動させる魔法陣じゃ。
これによって進化による魔力の流れを外部より察知されるのを防ぐのだ。
「・・・これは異界門と同じ技術なのですか?私のより凄いですね」
術式の勉強に熱心になり過ぎて思い切り「素」が出ているシーナ。
「うむ、そうじゃな、研究が進んでおるからな」
そこは敢えて見ぬふりをしているノイミュンスター。
彼女の魂がユグドラシル本人である事にはもう気が付いているのだ。
しかしそれでノイミュンスターの何が変わると言う訳でも無く、これからもシーナはシーナなのだ。
《あの・・・もう・・・限界っす》いよいよ眠気がヤバい、ガイエスブルク。
「おお、そうか、すまぬなガイエスブルクよ」箱の扉を開けて中に入る3人。
中には毛布が敷き詰められていてモフモフだった。
「わーい♪♪♪♪」子供らしく毛布の上を転げ回るシーナ。
「これこれシーナよ、遊びではないぞ?」
「進化の眠り・・・私もガイエスブルクと一緒に居る!
そしてガイエスブルクを守る!」
「そう言うと思ってシーナの毛布も用意してある」
「わーーーい♪♪♪」シーナ、ガイエスブルクとお泊まり決定である。
そしてガイエスブルクは既に眠りについていた・・・
こうしてシーナはガイエスブルクが目を覚まして地龍となるまでの間の2年間を箱の中で過ごしたのだった。
人間が2年間と聞くと長いが地龍的には1時間、2時間の感覚だ。
シーナが箱の中にガイエスブルクと籠ったと聞いたエレンとクライルスハイムは、
「そうなんだ?」としか思わなかった。
もっとも人間である王妃ファニーは2年間も籠ると聞いて大騒ぎしたのだが・・・
これも地龍の特性なので諦めるしかないな。
そしてシーナは2年間ただ籠っていた訳では無い。
眠っているガイエスブルクの隣に机に椅子、大量の魔導書を持ち込み研究者ばりに魔法の勉強をしていたのだ。
勉強の邪魔をする者は何も無く物凄い集中力で勉強に励んだ結果、ガイエスブルクが無事に地龍への進化を果たした頃には大学院を卒業出来るくらいの学力を得ていた。
「ガイエスブルク、随分と大きくなったねー」
地龍に進化して体長5mだったのが体長15mにも大きくなったガイエスブルク。
「「体が大きくなり過ぎて感覚がおかしい・・・それにコレ・・・」」
今まで無かった翼に違和感があるのか翼をパタパタさせる。
「空を飛べる?」これもしかして「空のデートが出来る?」とワクテカシーナ。
前世が「木」だったので空に凄い憧れがあるのだ。
「「どうだろう」」
結論から言うとガイエスブルクは現時点で空を飛ぶ事は出来なかった。
いや一応は飛べたのだが全くコントロール出来ず岩壁に激突してそれ以来飛ぶのを嫌がる様になったのだ。
「ガイエスブルク!練習しよう!」
「「嫌だっての!」」
空のデートをしたいシーナに暫くの間、説得され続けたガイエスブルクであった。
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