第14話 「ピアツェンツア王国王城攻防戦・魔族側サイド」
話しは王城攻防戦より1年3ヶ月前に遡る。
ここはアスティ公爵領の領都にあるアスティ城。
王都の王城とまではいかないが、歴史的趣きのある大きな城だ。
アスティ公爵家は初代国王と共にピアツェンツア王国を立ち上げた3大公爵家の一角でその歴史は王家と同じ年数を誇る由緒正しき公爵家だ。
先代の公爵の治世までは国の物流の中核を担い、国内外の貿易で大いに栄えていた。
そう・・・先代の公爵までは・・・だ。
当代の公爵のイタロ・フォン・アスティ・・・解り易くこの男を評価するならば、
「全然ダメな公爵」・・・これに尽きる。
元々は先先代の公爵の四男坊で公爵の地位を継げる立場では無く、また幼少期から特別優れた所も無かったので両親からの期待も薄く半ば家臣任せの放任状態で成長した。
ところが父と長男と次男が地域紛争に出兵時に大敗し戦死。
夫と息子を2人を一度に失ったショックで公爵夫人も後を追う様に病死してしまう。
急遽、公爵家を継いだ三男も父と兄を失った上の激務が祟り3年後に若くして病死してしまい、棚からぼた餅状態で当時16歳だった四男のイタロが公爵家を引き継いだ。
なので誰からも「公爵の在り方」とかを教わる事も無く、何も知らないただの若造が「公爵」などと言う大きな権力を持ってしまう結果となり、当然の様にイタロは増長した。
真っ先にイタロがやった事と言えば領地を放ったらかしにして王都で取り巻き達と遊びまわり、自分に気に入らない者が居ると公爵の立場を利用して取り巻きの貴族達と一緒になって潰してしまう。
なまじ悪知恵だけは一人前なのでタチが悪い。
王都遊びにも飽きて次にした事と言えば正妻を蔑ろにして、領都近郊に豪華絢爛な別邸を建て国中から集めた怪しい女達を100人強も囲い贅沢三昧の生活を送り領地の資産を食い潰して行った。
イタロ的にはそれが「偉大な公爵の在り方」だとマジで思っていた。
当然だがそんな事がいつまでも通用する訳がない。
治安が悪化したアスティ交易路はすぐに衰退。
ピアツェンツア王国は平原が多い国だ、別に整備された国の主要交易路はアスティ交易路だけではないからだ。
イタロが遊ぶ金の為に交易に掛かる税金が一気に上がり、何かに付けては金を無心されて、長年アスティ公爵家と交易が有った有力な商人達はアスティ公爵領を嫌遠して経済状況は悪化する。
それからイタロの粛正を恐れた優秀な譜代の家臣達が次々に離反。
何せイタロは自分より少しでも優れた者が大嫌いだったからだ。
イタロは少しでも諫言を言われ様なら激昂してすぐにその者を粛正、そんな奴に優秀な者がついて行く訳が無い。
その内、敵性勢力からも「ピアツェンツア王国の攻略は馬鹿なアスティ公爵家から」が常識になったのだった。
何せ、少し高めの賄賂を送れば何でもホイホイと言う事を聞いてくれるのだ。
敵側からして見れば、これ程までに優秀な公爵様は居ない。
だがしかし、ピアツェンツア王国には狸宰相エヴァリスト大公爵が居る。
疾風迅雷、エヴァリストは直ちにアスティ公爵家の立て直しを図る。
先ずは最優先でイタロに粛清されそうな有能な者達をすぐさま王都に匿いイタロに手出しが出来ない様に隔離した。
そして幸いな事にイタロの息子3人はいずれも優秀な子供達だった。
王家の名の元に招集して、ほぼ養子状態でエヴァリストが自ら教育を施した。
普通なら王家のそんな勝手な振る舞いを許す公爵などは居ないのだがイタロは、
「金が掛からず助かるな!それなら新しい邸宅を建てようか?」程度にしか思わず大喜びで息子達を王家に差し出したのだ。
イタロが遊び歩いている間に国政における権限をアスティ公爵家より他家に移動してイタロを政治的に封じ込めた。
そしてたまにイタロがやる気を出して国政に口出ししたと思ったら、王女シーナの放逐だ。
《アイツ!本当に何なんだ?》当時のエヴァリストの苛立ちは凄まじいモノだったと言う。
そんな感じでエヴァリストに封殺されてイタロが使える金が目減りした頃に魔族が仕掛けて来る。
「ピアツェンツア王国を統べる者はイタロ様をおいて他にはおりますまい。
我々が資金と兵力を用意致します故、捲土重来を謀られては如何ですかな?」
「む?・・・そうだな、確かに今の王家では不甲斐ないな!私が立つ時が来たか!」
捲土重来もクソもお前、遊んでばかりで誰かに負ける様な事を何一つしてねぇじゃん?!
それっぽい言葉と金を積まれてアッサリと王家への反逆を決めてしまったイタロ。
「どこかの郊外に拠点となる城が欲しいのですが・・・」そんな魔族からの要請に、
「うむ、それならアスティ城塞を使えば良かろう」
と、公爵領随一の軍事拠点を差し出してしまうイタロ。
得体の知れない連中が押し掛けて来てアスティ城塞の守備隊長は猛抗議するも「私の言う事を聞けない者など必要ない!」とお得意の 癇癪を起こして守備隊長を解雇してしまう。
それを見て他の守備兵も「こりゃヤベェよ!」と逃亡四散してしまい魔族達はまんまとピアツェンツア王国における拠点を確保してしまう。
その逃亡四散した兵力を長男のグリードが再結集して「アスティ公爵家正規軍」を編成する。
この時点でイタロに従う兵士は「私兵」の扱いになりピアツェンツア王国軍内での権限を消失する。
ここまで来てもイタロは自分に対する包囲網が狭まっている事に気が付かない。
何せ金と愛人達と酒の事にしか頭の中に無いからだ。
と言うか、イタロは魔族を引き込んでからもアスティ城塞に足を運んだ事は一回も無い。
魔族がアスティ城塞内で何をしていたか破滅した後になっても知らなかったのだ。
それから1年掛けて魔族達はアスティ城塞を拠点にして様々な工作をピアツェンツア王国に対して行った。
ここが不思議な所なのだが、当初魔族達はピアツェンツア王国を内乱により封じ込めて西の大陸への参入を防ぐ事を第一目標としていた。
しかし王城攻防戦の3ヶ月前から突如として「侵攻作戦」へと移行したのだ。
これにはアスティ城塞を厳重に警戒していたエヴァリストやヤニック王も意表を突かれる。
国内の不穏分子を炙り出す為に敢えて魔族の潜入を黙認していた事が裏目に出るのだ。
さて、ここからは魔族サイドで何が起こったのかを見て行こう。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
1ヶ月後にゴルド王国への進軍が決まり準備に追われていた時の事。
俺の幕屋に伝令が転がり込んで来た。
「大変です!ブレストさま!
ピアツェンツアで活動していた内乱工作部隊が拠点としていたアスティ城塞に天舞龍リールが来襲して特務隊隊長アミアン様!情報部オーバン様!以下随伴部隊785名が全滅した模様です!!」
「なんだと?!どう言う事だ?!その報告はどこから来たモンだ?!」
チッ!嫌な予感が的中したぜ!だから俺は反対したんだぜ?
「転移魔法陣の工作の為に城塞から出撃していた第二工兵小隊です!」
「クッソ!!よし!すぐに第二工兵小隊の連中を直ちに引き上げさせろ!
脇目も振らずにとにかく全力で逃げろ!と伝えろ!」
「はっ!了解しました!」
はあああ~・・・785人が全滅だと?!ウッソだろ?この人手が欲しい時に!!
ああ・・・ヤバい・・・これは俺、相当にショックを受けているぜ。
いや!マジで何でこんな事になった!
俺は痛む頭を押さえて今回の経緯を思い浮かべて見る・・・
俺の名前はブレスト、魔族軍の第六軍の軍団長だ。
魔王の野郎に呼び出されて何事かと思えば、アミアンが率いる特務隊と協力してピアツェンツア王国で「内乱を誘発させろ」だとよ。
最初にアミアンの野郎達からこの計画を聞かされた時の感想は「面倒な事になった」だった。
とにかく来春までにゴルドの北側と西側の穀倉地帯を削らん事には、
俺達魔族は冬になったら間違い無く食糧危機だ、下手こきゃ餓死者も出る。
ピアツェンツェア王国なんかに手を出してる場合じゃねえよ!
とは思うのだが「龍種に代わって魔族が世界の統治を!」なんつうプロパガンダが魔族にある以上は龍種にちょっかい掛けない訳にも行けない所がキツい所だな。
ピアツェンツェア王国のラーナ姫にシーナ姫か・・・・
何でもラーナ姫は天龍王、シーナ姫は地龍王、それぞれの「愛し子」なんだそうだ。
アミアンの計画だと「その姫達を誘拐」では無く、アスティの馬鹿公爵を使って「ラーナ姫を懐柔してシーナ姫と争わそう」との事だ。
確かにアミアンの情報通りだとすると、シーナ姫は王城から追放された恨みをピアツェンツア王家に対して持っていても不思議ではない・・・
それを逆手にとってラーナ姫の危機感を煽る。
これが上手くいけば天龍王と地龍王を争わせる事が出来る・・・か。
計画としては理に適っている様に見えるが・・・これ本当か?
そもそもだ。
こんなやべえ案件に頭突っ込もうとする精神が解らん、俺ならこんな情報は見なかった事にするの一択だ。
天龍王だの地龍王だのにちょっかいを掛ける選択肢すらねえよ。
どちらの姫に手を出しても必ずどっちかの龍王が出てくるって?
いやこれ!どんなホラーだよ!
つうかこれ・・・下手を撃ちゃ両方の龍王出てこねぇか?
魔王から協力しろって言われなけりゃ誰が戦力なんか出すか!
って話しだったんだよ。
まぁ・・・直接ピアツェンツア王国に手出しをしない約束で、仕方ないから第6軍から中堅処の小隊50名と情報部のオーバンを貸したんだが・・・
最初は奴等も結構上手くやっていたんだぜ?
なにせ天舞龍リールをピアツェンツェアの王城に誘い出して城に貼り付けに出来たんだからな。
俺も「これで今回のゴルド王国攻略は成功する!」と確信して俺の6軍を西の大陸へと動かしたんだが・・・
3ヶ月前のオーバンからの報告で現地の雲行きが怪しくなったのが分かった。
「アスティの馬鹿公爵は想像以上の馬鹿で国の重要軍事拠点のアスティ城塞を我々に貸し出す事に同意した。
その事を聞き魔王は「可能な限りアスティ城塞を維持したい」との事。
なので第6軍から追加部隊の派遣を要請する」
との報告書と支援要請が来た。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はああああ?!?!
いや!マジでアスティ城塞を俺達魔族に渡したのか?!
アレって国防の要の一つだよな?!
信じられん!罠じゃねえのか?
と思っていたらマジだった・・・あの馬鹿公爵はマジでアスティ城塞を引き渡しやがった・・・自分の部下を追放してまで。
クッソ!こうなったら追加部隊を派遣するしかねえ。
俺はどうにかやり繰りをして800名の部隊を編成してアスティ城塞に送った。
「良いか?くれぐれも無理はすんな!ヤバくなったら逃げろ!」
俺は派遣部隊の隊長に口を酸っぱくして、そう言い聞かせた。
軍事的には重要だが戦略的に重要では無い城塞だ、無理をする必要は無い
そう思っていたら今度はあの馬鹿公爵の野郎は私費を使って傭兵を雇って大規模な援軍を送って来やがった。
アイツ!マジで余計な事を!余計な所で行動力を発揮すんじゃねえ!!
これでアスティ城塞に駐屯する兵力は4000名近くになった訳だ。
そしてこんだけの戦力が有れば・・・
アミアンの野郎が作戦に更に色を付けたいと言う気持ちも分かる・・・
分かるんだが、ピアツェンツア王城を襲撃してあわよくば陥落させて中央大陸にも拠点を作るって作戦はどうなんだ?
仮に王城を陥落させてもその維持が出来るのか?
作戦概要を聞き俺がそうアミアンに忠告をすると、
「維持が出来なくてもピアツェンツア王国の軍事行動能力を著しく低下させる事が出来る。
そうなれば本命のゴルド王国攻略も上手く行くだろう」
と返信して来た。
正論だ。
正論なんだが嫌な予感しかしねぇ。
「・・・以上が概要です」
おっといけねえ。ショックで大分呆けていた様だ。
色々と考えてる内に他にもピアツェンツアで活動してた情報員からも報告が入る。
嫌な予感がしたので別口で情報員を派遣していたんだったな。
曰く、天舞龍リールの攻撃を受けたのは事実、他から調べた状況からもアスティ城塞は消滅、友軍の全滅は必至・・・だそうだ。
しかし王城に貼り付けにしてたはずの天舞龍になんで全滅食らわされたんだ?
あー・・・・多分、洗脳した天龍と地龍を使っちまったんだな。
そんで奴の逆鱗に触れた・・・って訳か。
アイツ等は本来、防衛用に持たせたヤツだ。
理性を失ったやつの使い道なんぞ撤退の時間稼ぎで敵に突っ込せてその隙に逃げるくらいしかねえのにな・・・
龍種の洗脳ですら龍王の介入の危険があるから影に隠れて細々と「はぐれ者」をコッソリと捕らえて龍王を刺激しない様に気をつけてたんだが・・・
本当に余計な事やってくれたもんだ。
これはゴルド侵攻の計画も全面的な見直しが必要だな。
いずれにせよピアツェンツェアへの作戦は全面中止だ、もう冗談じゃない。
とにかく早い所、ゴルドの北の港を抑えないと時間が無い、
また余計な馬鹿を出さない為にもピアツェンツェア王国の姫さんの話しは封印だ。
二正面作戦なんぞ今の魔族に出来る力はねえ。
とは言え死んだ連中の葬式だけは盛大にやってやんねえとな・・・
それにしてもオーバン・・・アイツ本当に死んじまったのか?
殺されても死なない奴だと思っていたんたがなぁ・・・
あいつだけは・・・悔やんでも悔やみ切れない戦力を失っちまったぜ。
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