第2話 「片腕の王女の成長」

シーナがスカンディッチの街へ来て7年の月日が流れた。


シーナは赤ん坊の時に両親を馬車の事故で亡くして鍛冶屋の店長トムソンが後見役となった孤児の娘、と言った設定だ。


トムソンが他の人間の子供達の中で育った方が良いと考えて敢えて鍛冶屋では無く孤児院で生活をしていたシーナだった。


シーナは王家の血筋のお陰なのか案外社交性があり、人当たりも良く年長者には可愛がられて、年下の子供には慕われている。


人間の子供達の中で成長したので、ある一点を除けばどこにでも居る普通の人間の女の子と言った感じに成長した。


この頃になると虚弱体質であれだけ小さかった身体も普通に成長して、孤児院の友達と走り回るのが大好きなお転婆の盛りの7歳児になった。


「じゃあ行ってくるー」


今日も孤児院の子供達と遊び終わると1人で小さな冒険の旅に出る。

目的地はあるのだがトテトテと孤児院の周辺をあちこちに走り回っている。


今日はなぜか石に興味があるのか街道沿いに転がる石を一つ一つ拾い眺めている。


実は鉱物に興味を示すのは地龍の特徴で別段おかしな行動ではないが、人間の女の子と考えれば少し変わった行動に見えてしまう。


そしてシーナは1時間ほど掛けて、孤児院から街道沿いを進む事1500m先に有るトムソン鍛冶屋に辿り着く。

1500mの移動は7歳の女の子には大冒険だ。


「おっちゃん!」

店の外に作った東屋で昼食の準備をしていたトムソン店長に走り寄るシーナ。


店主のトムソンの「とある趣味」の影響で店内は小さな子供にとっては色々と危ないモノが並んでいるので店の中で食事をする事が出来ないのだ。

シーナが店の中に入る為にはトムソンが抱っこして入らなければならない。


「おっちゃんと違うぞ店長さんと言いなさい」

もう育ての親として定着したトムソン店長はシーナの頭をグリグリと撫でる。


「あい!てんちょうさん!」


トムソン店長こと地琰龍ノイミュンスターにはこのお転婆娘の事で悩みがあった。

その悩みとはシーナが自分からは一切食事をしないのだ。


うん!これは良くないスカンディッチの街に居る分には問題はないのだが、この後の事を考えると改善しないといけない。


地龍王クライルスハイムの加護により地脈からスムーズに魔力を吸収出来ているのでシーナは身体の成長には問題はないが普通の人間から見るとやはり異常そのものだ。


人に紛れて生活をしている地龍は、他の人間の混乱を避ける為に日々の食事はきちんと取っているのだが、シーナはまだ自分が普通の人間と違う事に気がついてない。


地龍王の知識の解放を行えばかなり変わるのだろうが、

今解放すると幼い脳にどんな悪影響があるか分からないので解放はまだ不可だとトムソン店長は考えている。


地道に教えるしかないか・・・

トムソン店長はそう考えて朝昼晩の食事の時はシーナを鍛冶屋に呼び、シーナに人間の食事の概念を教えている。


シーナは特に美味しい不味いとかの味覚の異常はないので色々な物を食べさせて好き嫌いを調べているトムソン店長。


・・・・基本的には何でも好き嫌い無く食べるが量が圧倒的に足りてない、すぐ食べる事に飽きてしまうのだ。


時には一口食べたら満足してしまい無理に食べさせようとすれば逃げてしまう。

余り無理をして食事に対して嫌悪感を抱いてしまうと取り返しがつかないので優しくのんびりと教えている。


「美味いか?」トムソン店長がシーナに尋ねる。


「うん!」

今日はケーキを食べさせている、昼ご飯にどうなのか?と思うが仕方ない。

女の子には最高の甘味だがシーナの反応はイマイチ良くない。

予想通りケーキに飽きてしまったシーナはすぐにソワソワし出した。


実はシーナの食べ物の好みはかなり意外な物で、その事をノイミュンスターが知るのに数年は掛かってしまう。

シーナの好きな食べ物を知った時にトムソン店長は、「何と?!」と結構驚く物だった。


知ってしまうと「あー・・・そうなんだ、女の子なのに意外だねー」と納得する食べ物なのだが、この話しは後日詳しく語るとしよう。


「遊びに行ってくるー」

とうとう食事に飽きてシーナは鍛冶屋の外に走り出してしまった。


「ふう・・・今日は3口で終わりか・・・」

シーナが走り去りテーブルの上に残されたケーキを見てため息が出るトムソンだった。

「子育てとはなんと難しいものよ」と感じる地琰龍ノイミュンスターだった。


遊びに出たシーナが先ず向かうのは宿屋の看板娘のエレンの所だ。

美しい白のプラチナブロンドの髪に銀色の瞳を持つ彼女は街の人々から「白銀の妖精」と呼ばれる町で評判の美少女だ。


設定の年齢は15歳・・・そう言ってもエレンは既に200歳を優に越えている。

見た目通りの「白銀の龍」なのだ。

ちなみに200歳と言うのは地龍の中では結構幼い方だ。


シーナの教育係の1人として地龍王クライルスハイムから直接スカンディッチ伯爵領に派遣された地龍の女性だ。


「エレンちゃん!エレンちゃん!」

宿屋の玄関先でぴょんぴょん跳ねながらシーナがエレンを呼ぶと、


ヒョコっとエレンが玄関から出迎えて、「はいシーナ」と両手を出すとエレンの胸にポスンと収まるシーナ。

やはり女性の胸が恋しい7歳児、顔を胸に押し付けてウリウリとする。


「こんにちは、今日は何する?シーナ」

そう言いながらエレンはシーナをキュッと抱きしめる。


「んーと、お人形さん遊び!」何とも女の子らしい答えが返って来た。


「はいはい、お人形さんね」

シーナお気に入りの人形を取りに行くエレン。

エレンの部屋に並ぶ人形達はとても田舎の街に相応しくない、お城の宝物庫にあっても不思議ではない見事な人形ばかりだ。


実はこれ全てがエレンの手作りの人形なのだ。

シーナの為に作り始めたのだが興が乗り、今では超一流の人形師になってしまったエレン。


《興味を示すのは普通の女の子が好きな物ばかりで良かったわ》

シーナお気に入りの人形を手に女の子らしく成長しているシーナにホッとするエレンだった。


「はい、優しくしてあげてね」


「はぁい!」エレンから渡された人形を嬉しそうにぎゅっと抱きしめる。

それからひとしきりエレンと人形を使って遊び倒したら自分の大切な使命を思いだすシーナ。


「じゃーねーエレンちゃん」

とまた走り出したシーナに「またね」と手を振るエレン。

ひとしきり人形で遊び満足したシーナが次に向かったのは教会だ。


ピアツェンツェア王国の国教でもある、天龍王アメデを祀る「天龍教」の教会だ。

しかしここの司祭や信者達は実際には地龍なのだが。


何故、地龍が天龍王を祀るのか?一言で言うと・・

「自分達に出来ない事が出来る天龍王は凄え!」と言う理由だ。


地龍は空を飛ぶ事が超下手くそなので優雅に空を飛ぶ天龍王アメデを見て憧れた地龍が天龍王にあやかりたいと拝み出したのがきっかけだ。

そのエピソードがなぜか人間にも伝わり「天龍教」が誕生した。


ちなみに「地龍教」もしっかりと有り、西の大陸でもっとも盛んな宗教なのだが、

その西の大陸には天龍達の総本山の「天空城」があるのは不思議な話しだが、これには人間達が知らないちゃんと理由がある


この事からも龍種が人間の宗教的な行動に大して余り興味が無い事を示す良い例と言える。


そしてシーナは教会に安置されてる龍化した天龍王アメデの銅像を磨くのがお気に入りなのだ。


実際の天龍王を見て知ってる地龍の造形士が渾身の力で作った像なので限りなく本物を模していて、まるで今にも飛び立ちそうな見事な像だ。

しかも毎日シーナに磨かれてピカピカに光っている。


天龍教が出来て地龍達に自分が崇められてる事を知った天龍王アメデから、

「恥ずかしいから本当にやめて欲しい」との仰せを受けたがここの地龍達は変わらずに天龍王を崇め奉っている。


人間に例えると神と言うよりはアイドル的な存在と言った方が正解かも知れない。


恥ずかしい思いをしたお返しに天龍王アメデが地龍王クライルスハイムを祀る「地龍教」を作り西の大陸に広めてしまったのだ。


それが人間を中心に爆発的に勢力を増して、ヴィグル帝国では「国教」になってしまったのだから恐ろしい・・・


「教」と言う物は人間には「神」を崇める為の物だが龍種的には「ファンクラブ」と言って差し支えない。

ついで言うと地龍王クライルスハイムもこの天龍王アメデの像が大層お気に入りだ。


「「これは!素晴らしいではないか」」献上された天龍王像を見た地龍王の第一声だ。


この天龍王像を作った地龍の造形士が天龍王の像と共に自らの王クライルスハイムの像も進呈したのだが、恥ずかしがった地龍王クライルスハイムは、その地龍王像を西の大陸の「地龍教」の本山に寄贈してしまった。


「「ふふふ、お主と我は繋がっている、像など無くても良かろう」」

照れ笑いと言った感じのクライルスハイムが像を作った地龍の造形士に笑い掛ける。


地龍王クライルスハイムにとって大事なのは眷属との魂の繋がりだ。

魂さえ繋がっていれば他の誰を崇めようとも特に問題はないのだ。


そんな天龍王の像をシーナは歌いながら今日も一生懸命に磨く。


「天龍王さまはきょうもピカピカ♪ピカピカの天龍王さまー♪ピカピカ♪ピカピカ♪」

上機嫌で歌を歌いながら、キュッキュッキュッキュッと懸命に像を磨くシーナ。


毎日毎日、天龍像に話しかけながら磨き続けた結果、いつしかシーナの声は本当に天龍王アメデの耳に届いていた。


「「地龍王クライルスハイムの娘か・・・随分とまた可愛い子ではないか。

いつか実際にシーナに会って見たいものよ」」


ここより遠く離れた天空城で教会にある像を通してシーナの可愛い歌声を聞きながら、そう呟いた天龍王アメデ。


すると天龍王の隣りに居た天龍の美しい女性が、

「「多分、お父様が会う前に私がシーナと会っちゃいますね」」笑いながら話し掛ける。


「「むう・・・そうか・・・羨ましいのう、リールよ」」

娘の言葉に少し悔しそうな天龍王アメデだった。


「「では!ピアツェンツア王国へ行って参ります!お父様」」


この先のシーナの運命を更に大きく変える鍵となる天舞龍リールがピアツェンツェア王国の王城へ向かうべく空に飛びたった。


片腕の王女シーナの運命がまた大きく動き出そうとしている。



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わたくしの名前はファニー・フォン・ピアツェンツェア。

ピアツェンツェア王国の王妃です。


18歳の時、陛下と結婚してから12年経ち現在は1人の息子さんと2人の娘がいます。


しかし王家に伝わる禁忌などと良く解らない理由から、お腹を痛め命賭けで産んだ大切な大切な娘のシーナと別れさせられて7年が経ちました。


その際に恐れ多くもシーナの里親になって下さった地琰龍ノイミュンスター様から定期的にシーナの近況のお手紙が届きます。


とても元気で健やかに育ってくれている様子です。

本当に良かった・・・良かったです。


食が細いとの事で心配ですが地龍だと普通の事だそうですがやはり心配です。


シーナが地龍王クライルスハイム様の娘になってしまった事は本当に驚きましたが、

どんな事があろうとも、わたくしの娘でもある事に変わりはありません。


わたくしの方はーこの7年の間に念願の跡取りの王子「ロミオ」が生まれ表向きはとても充実した毎日を送る事が出来ております。


もう1人の娘の「ラーナ」も少しぼんやりさんですが、今年の始めから王妃教育が始ってお勉強をとても頑張っております。


王子と王女の世話で毎日とても賑やかな王城の後宮ですが・・・

もう1人の王女シーナの事は完全に忘れ去られています。


今思えば当時の宮臣達の対応も仕方ない事だったと思いはします。

何しろ三大公爵家からせっつかれていたのですからね。

安易に無視をすれば国内で騒乱が起こっていたかも知れませんからね。


ですがやはり自己保身の為にシーナを放逐した者を許せそうにありません。


今のシーナが無事で元気に成長してくれてるから我慢しているのです。

もしあの時シーナが死んでいたら、わたくしはどうなっていたのか?と思うと恐ろしくて仕方ありません。


そんなある日の事でした・・・わたくしは陛下の執務室へと呼ばれて、

「えっ?スカンディッチ伯爵領への視察ですか?」

突然のスカンディッチ伯爵領への視察のお話が舞い込んで参りました。


シーナに会える?!

・・・・いえ・・・とても嬉しいお話ですが何故わたくしが?

スカンディッチ伯爵領はとても重要でとても干渉してはならない土地なのです。


王家の者が視察などしても良いのでしょうか?


「うむ、余は西の大陸でまた不穏な動きがあってな・・・

今は城を離れられる訳には行かなくてな、王妃に任せたいのだ」

なぜか少し困り気な旦那様です。


ああ・・・なるほど。


おそらくシーナとわたくしが会える様に旦那様がノイミュンスター様やスカンディッチ伯爵閣下が手を回して下さったのでしょう。


夫はシーナの事を思い毎日、夜隠れて泣いてるわたくしの為に・・・・


「余が城の者を抑えておくから、お前はシーナに会いにゆけ」との旦那様の声が聞こえて来ます。


それでしたら心置きなくシーナに会えるのですね!遂に!!

ようやく本心から喜びが沸いて来ました!


喜びに涙が溢れそうになるのですが、周りには文官達も大勢居ますので必死に抑えます。


「かしこまりました、スカンディッチ伯爵領への視察、確かに承りました」


王妃として極めて優雅に冷静に振る舞わないと、わたくしは自分に出来る最高の礼をします。

そうだ!ならばもう一つ!


「此度の視察の際、ラーナの同行もお願いしたく存じます」

わたくしは迷う事なく願いを旦那様に告げました。


旦那様の顔に驚愕の表情が浮かびます、

「あなた!頑張って下さい!大事な事なのですよ!ラーナとシーナが会える絶好の機会なのですよ!」と内心で叫んでしまいましたわ。


「うっ・・・ぬ・・・それに関しては王族の警備の都合でな・・・

先方から出来れば王族の視察は1名でとの申し出があってな・・・

つまり向こうの受け入れの準備が出来ていない」

と、とても申し訳なさ気に旦那様がわたくしに告げました


そう・・・ですか・・・ノイミュンスター様の方ではまだシーナとラーナを引き合わせる準備が出来ていないのですね・・・とても残念です。


これ以上食い下がると周囲の者に不審に思われるので諦めますわ・・・


「分かりました、委細全て承知致しました」

わたくしはニッコリと微笑んで旦那様に頭を下げました。


それから湧き上がる喜びと興奮で走り出しそうになるのを抑えて、笑顔で崩れそうになるのを頑張って無表情に、静かに王城の廊下を後宮へ向けて歩きます。


シーナに会える・・・どうしましょう?胸がドキドキしています。


廊下を歩いていると偶然、勉強が一段落したのか自分の部屋に向かう娘のラーナと会いました。


「あっ!お母様!」

ラーナはわたくしを見つけて小走りにわたくしの所へやって来ました。


あらあら、いけませんよ大きな声を出しながら走っては。


満面の笑みを浮かべ早くわたくしに甘えたいとラーナは更に早足になります。


と言うか!それもう完全に全力疾走ですわよね?!ダメですって!早過ぎますわ!

後ろから追いかけて来る侍女達が全然追いついて来ていませんわ!


そんなアグレッシブなわたくしの可愛いラーナを思い切り受け止めて、抱きしめてウリウリしたくなる衝動に襲われてしまいます。


「お母様!」

ヒューン!キキィー!と言った感じにわたくしの前に立つラーナ。


「ラーナ?お勉強は終わりましたか?」


ラーナの機動力に物凄く動揺したわたくしですが何事も無かった様に振る舞いますわ。


ああ・・・後ろの方で普段運動する事のない侍女達が死んでしまいそうに・・・

でも・・・貴女達もう少し毎日運動をしましょうね?


「はい!じゅぎょうは終わりました!」


「そうですか、お疲れでした。

でもねラーナ?廊下を走ってはいけませんわ、人にぶつかったらどうするのです?」


「はい!申し訳ありません!もういたしません!」


まああああ、なんて素直な良いお返事・・・

さすがに廊下の真ん中で頬を頬でウリウリとする訳にも行かず、頬を撫でるので我慢します。


はい、この後わたくしのお部屋で思う存分にウリウリする事とします。


「今日は何のお勉強でしたか?」


「はい!今日はさんすうのじゅぎょうでした!」

この元気で利発な王女は王城の侍女の間でも大人気です。


「ところでお母様はお父様のところへいらしてたのですか?」そうラーナは聞いて来ました。


なんて!わたくしの歩いて来た方向から行動を予想してしまうなんて!なんて賢い!

1時間ウリウリする予定でしたが2時間ウリウリすると致しましょう!


「はい、母は3日後にスカンディッチ伯爵領へ視察に赴く事になりました」


「スカンディッチ・・・・・ちりゅうの王様がおすみになる山のちかくの町ですね!

じゅぎょうで先生からならいました!」


まああああ♪本当に良く勉強してますね!

嬉しさの余り興奮が頂点に達してしまったわたくしは目の前のドヤ顔の娘を思わず抱きしめて頬を頬でウリウリしてしまいましたわ!


ウチの子が可愛い過ぎるのがいけないのです!


出発までの間はたくさん息子と娘をウリウリしなければ、わたくしが寂しくて死んでしまいそうです。


そして向こうに着いたらシーナをウリウリウリするのです!





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『私は「世界の言葉」・・・魔王バルドルよ、答えなさい』


「・・・・・・・・・・・・多分間違い念話だと思いますよ?」


ガチャ・・・・ツーツーツー


『・・・・・・・』


パシリ女神の「怒りのリダイアル中」


プルルルルルループルルルルルループルルルルルルー


「はい?」


『もう!そんな1000年も前の大昔のネタは良いから!聞きなさいバルドル!

とりあえず聞きなさい!いいから聞きなさい!黙って聞きなさい!

世界の特異点を感じました!貴方の「影見」で特異点を確認して下さい!』


「朝っぱらから本当にやかましいのう・・・・ん?特異点じゃと?

・・・いや・・・この世界は最早特異点だらけなので今更確認せんでも良かろう?


お主達が「更生施設」代わりに、こんだけ異世界の特異点をバンバンとこの世界に放り込んでおいて今更「特異点が発生ですぅ」とか言われても全然説得力が無いのう。


儂は1000年前にもう「特異点の出現の阻止」などは諦めておるぞ?」


『そ・・・それは否定出来ませんけど・・・でも今回は特別大きな特異点なのです!』


「特別大きな?・・・うーん??そう言われると確かに少し気にはなるが・・・

儂がわざわざ確認せずとも、お主が何とかすれば良いのではないのか?」


『それは「世界の守護者」の役割です!ちゃんと仕事をなさい!』


「分かった、分かった、お主は最近うるさいのう・・・昔はもっと・・・

して?その特異点とは何なのじゃ?」


『うるさいのは貴方達が全然お話しを聞いてくれないからです!

ピアツェンツア王国の「地龍王の山」の麓に住む、「シーナ」と言う少女です』


「女神様が力技に走るのは、とっても良くないと思います。

んー?えーと?シーナ?・・・シーナ・・・と。

うむ、見えたな・・・・・・・・・・・・・・・おお?これは?!?!」


『ふっふ~ん、どうです?大きな特異点でしょう?ね?ね?ね?』


「何でお主が得意気なんじゃ?しかしこれは、なんとまぁ・・・驚いたのう・・・

確かに大きな特異点だが・・・しかしこれは儂の管轄外ではないのか?


・・・お主、何を隠しておる?何で儂に依頼して来た?

この件は関係が深いエルフの女王に依頼するのが1番ではないのかな?


ちゃんと理由を説明せんと引き受けんぞ?何せ管轄外じゃからな?

世界の言葉ともあろう者が越権行為を認めるのか?越権行為は不味いとは思わんか?」


『うっ?!ううう?!』


「ほらほら、仕事を受けるにしても事情を知らん事には受けようがないぞ?

ほらほらほらほらほらほらほらほらほらほらほらほらほらほらほら」


『分かりました!!言いますよ!!煽らないで下さい!

もう!本当にやり辛い子ですね!・・・えーと?実は・・・・』



・・・・・・・・・・・



・・・・・・・・



・・・・




儂の名は「魔王バルドル」、南の大陸に住む真魔族と呼ばれる種族の頭領じゃ。

真魔族とは吸血鬼、バンパイアの総称だな。


この世界には「魔族」と呼ばれる者達もいるが真魔族とは別の種族になる。

その区別する為に「真魔族」「魔族」に呼称が分かれた経緯があるな。


そして儂は「真祖」と呼ばれるバンパイアの最高位種で1000年前の「ユグドラシルの崩壊」時の「すったもんだ」の末に「ユグドラシルの瞳」と「世界の守護者」の仕事を無理矢理押し付け・・・いやいや、託された1人じゃ。


ちなみに真魔族には「覚醒魔王」と呼ばれる龍王と同クラスの超絶強いヤツもいるがある日突然、何か良く分からん内に儂の配下になっている・・・


本当に何でだろうねー不思議だねー、理由は本人に聞いとくれい!

一族を支配すんのが面倒くさいんじゃね?知らんけど。

と言うか君がちゃんと魔王業をして下さい!お願いします!エルフの女王が何でもしますから!


その内、呼ばれもせんのにエルフの女王は登場します、御降臨を待て!

なかなか強烈な女性です、儂も1000年に渡り泣かされています、友達だけどな。


さて、話しを戻すと儂の役割としては「世界の監視」だ。


世界より与えられた影を使った監視特化のチートなスキルを駆使して世界の破滅に繋がりそうな奴を見つけては、同じ「世界の守護者」の龍種にチクりまくるのを生業としておる。


そして先ほどの、うるさい者は「世界の言葉」と言う存在じゃ。


一応、我々「世界の守護者」達に司令を出している存在なのだが、どうにも頼り無い。


今回も「天龍」と「エルフ」の管轄だろう仕事を何故か儂に振って来たのだが・・・

説明を聞いても「お前まだ隠してる事あんだろ?ああん?」感がビンビンじゃな。


なーんか胡散臭さ満載なので断っても良かったが、儂も気になるから「シーナ」と言う少女を監視する事にした。


さて・・・このシーナと言う特異点の少女がどんな人生を歩むのやら・・・

その事にも結構興味があるので暫く見ていようか。




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さて、領内の書類仕事も終わった事だし早速監視の仕事を始めよう。

儂は「世界の言葉」から送られて来た今回の情報が書かれた書類の束を手に取る。


えーと?なになに?・・・しっかし「世界の言葉」の字がきったないのう・・・

読むと言うより解読ってレベルだろ?これ。


しかしこの書類・・・どう言う原理で毎回地上に送られて来るのじゃ?



まぁ良い。



「影見」サーチオン!




ピアツェンツア王国の王妃ファニーを乗せた馬車は王都から既に町の領主官邸前に到着して現在王妃ファニーは領主のアドリアーノ・フォン・スカンディッチ伯爵と言う者と挨拶の最中だ。


「ようこそファニー様、遠路はるばるのお越し恐悦至極にございます。

私は領主のスカンディッチにございます。

本日は領主官邸にて従者の方々共に御ゆるりとお過ごし旅の疲れを癒して下さい」


スカンディッチ伯爵は白髪でナイスミドルな、お爺様伯爵だ。


「世界の言葉」からの情報によればこの伯爵は、かなり高位の地龍が人間に化けているのだそうだ。


しかし凄いな!

神族由来の「影見」でも判定不能の見事な「変形」スキルだ。

古代龍種とは絶対に戦いたく無いモノだな。


そしてこのスカンディッチ伯爵領は400年ほど前にピアツェンツェア王國で起きた地龍達の制裁による王城崩壊事件の後に地龍達がピアツェンツア王国の王家を監視する為に作られた町なんだそうな。


歴代の王と宰相のみに、この真実を伝えられていて伯爵領は王家でも干渉不可の密約がなされているとの事。


「ありがとうございます、スカンディッチ伯爵閣下。

本日はよろしくお願いします、初めてスカンディッチ伯爵領に参りましたが自然豊かで素晴らしい所ですね」


王妃ファニーは本当は7年前にもこの街の近辺に来ているのだが、そんな事など全く感じさせない所が彼女も相当な食わせ者の証だな。


おや?今日は領官邸の部屋に滞在するのみなのか?

うーん?それだと儂が暇なので、先にそのシーナの様子を見に行って見ようか。

しかし王妃とシーナはどう言う関係なのじゃ?


そんな訳で鍛冶屋のトムソンさんのお宅までやって参りました。


言うまでも無く、鍛冶屋のトムソンさんの正体は地琰龍ノイミュンスターだ。

今は店先のテーブルでトムソン店長がシーナにテーブルマナーを教えているな。


『街の者達から「マッドサイエンティスト店長さん」と呼ばれるトムソン店長は何でも出来るスーパー店長さんでもあります!』と書いておる。


・・・・・・・・しかし「マッドサイエンティスト店長」って何だよ?

そしてそれを受け入れている地琰龍もどうなの??


「シーナ・・・明日は王妃様と夜にコッソリと会うからな」


「おーひさま?おひめさまじゃなくて?」


「これは誰にも言ってはいかんぞ・・・王妃様はシーナの本当のお母さんだ」


「おかーさん?おーひさまが?あたしの?」


シーナは孤児院育ちなのだが周りの環境は素晴らしく良いので、今まで両親が居なくて寂しいと思った事は無いとの事だ。


しかし甘やかされる事は無く自分の事は自分でやるのが教育方針らしく、この年で掃除が得意らしい。


「おかーさん・・・あたしここからいなくなっちゃうの?」


「ん?そんな事にはならないぞ?お前はここの子だ。

これからもずっとな、でもお母さんにも会っておかないとな・・・

シーナは王妃様に会うのは嫌か?」


「んーん、ここにいられるなら、おーひさまとあう」


なるほどな・・・シーナはピアツェンツェア王国の王女なのか。

つーか、こんな大事な情報を書き落とすとは本当にアヤツと来たら・・・

いや・・・意図的に情報を落としおったな?


何を隠したがっておるのやら、じゃな。


その後の2人の会話から偶然を装い王妃とシーナが再開する計画だと分かった。


今日はこんな所か?では、王妃の様子も見てから儂は風呂に入るとしよう。



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「ファニー様、少し落ち着いて下さいませ」


王妃ファニーは部屋を右へ左へとウロウロと落ち着きがない、

明日の事を考えて今から緊張している様子だ。


「シーナに嫌われたらどうしましょう・・・・」


王妃はシーナに嫌われるの事を怖がっているのだな。

うーん?どうじゃろうか?嫌がっている様子では無かったが何とも言えんな。


「私達も早くシーナ様にお会いしたいです」


今回同行して来た王妃の侍女・・・と言うか女官の方が正しいと言った感じの40代の女性もシーナの事情について把握してる見たいじゃな。


「ファニー様は明日は町内を視察し偶然に鍛冶屋の前で少女と出会います」

若い女官の女性が明日の流れの具体的な説明を王妃にしている。


「視察で歩き、少々疲れが見えているファニー様はトムソン鍛冶屋の前のテーブルで小休憩をして頂きます」


「そこにシーナ様も同席して頂く予定です」

女官の2人は息ピッタリに交互に明日の説明して行く。


視察に来た王妃が偶然、鍛冶屋に居た孤児の少女を労わる設定なのだな。


「そこで少し打ち解けて頂き、夜になったらシーナ様をこちらに御招き致します」


視察に来た王族が現地の子供を自分の宿泊所に招待する・・・これ自体は特に珍しい事では無いのだが・・・


しかしなぜ面倒な事をするのじゃ?

ふむ・・・何者かが何かを企んでおるから警戒していると考えるのが正解だな。


なれば儂が街の周囲を探してやろうか・・・そんで地龍王にチクれば良いのじゃな?


「ああ・・・今日は眠れそうにありませんわ」





まぁ・・・その辺りは儂に任せてゆっくりと眠るが良いぞ王妃よ。







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さて母娘の再会当日の朝だ。


実に清々しい朝だのう!と言いたいが、実は結構昨晩は大変じゃったわい。


ちょっと伯爵領の周辺を索敵したら怪しい連中が居るわ居るわの不審者の大バーゲンセールじゃった。


仕方ないので儂が転移陣を使い緊急参戦して怪しい奴等は片っ端から残らずとっ捕まえて地龍の都の地龍王の間に転移陣でダイレクトに放り込んでやった。


地龍王の間の座標はバッチリと把握しておるのでな。


あんま古の魔王を舐めんなよ?儂が地龍王の間に何回行ったと思ってんだ?

・・・・・・毎回誰かが何かをやらかしてその度に謝罪をしに行っただけどな!

ついでに愚痴ると特にエルフの女王絡みがめっちゃ多かったけどな!


いきなり現れた儂に少し驚いた地龍王クライルスハイムが、

「「魔王バルドル?これはまた久しいのう?よくぞ来たな歓迎するぞ。

・・・・・・・して?この者共は何じゃ?」」

そう言ってギロリと不審者を睨む地龍王クライルスハイム。


「ひい?ひいいい??ままま魔王バルドル???」


「ちちちち地龍王様ままままま??!!」


「おた?!おたすけけけけけけ????」


「あわ?あわわわわわ?ゆるしてゆるして」


儂の正体を知り、地龍王クライルスハイムを間近に見て恐怖に慄く不審者達。

そんなにビビるんだったら地龍王の膝下で悪さなど企むなよ?馬鹿なのか?


「何か良く知らんがコイツらがシーナを狙ってました」

儂は不審者達を指差して地龍王に盛大にチクッてやった。


「「・・・・・・・我の娘のシーナを狙っただと?」」


「ひゃああああああ???」「ひいいいいいい?!」「むすむすめめめ??」


あっ・・・シーナって地龍王の娘でもあるんだな?ふーん?

「世界の言葉」が儂に隠しておきたかった事実がドンドンとバレるのう?

はてさて、他にはどんな秘密があるのかな?その為にも・・・


「何かコイツらシーナを誘拐するとか言ってましたよ?」

さあ!ドンドンと地龍王にチクッて行くぞー。


「「誘拐・・・だと?」」


ここで儂も闇の魔力を解放して不審者達に脅しを掛ける。

「・・・隠すと為にならんぞ?地龍王に全てを打ち明けるのが良かろうて」


「いいいいいいいーーーーー?!?!」「うわあああいい?!?!」


それから恐慌状態になった不審者達は吐くわ吐くわ、聞いてもいない過去の悪業から今回の首謀者の事、西の大陸にあるゴルド王国との関係まで何から何まで全てゲロった。


不審者達の告白を黙って聞いていた地龍王が、

「「ふむ・・・さて・・・お前らをどうするかな?」」


「・・・・・・」

地龍王に睨まれて恐怖の余りにもう口をパクパクさせる事しか出来ない不審者達。


穏やかに話す地龍王だが儂には分かる、この話し方の時はめちゃくちゃ怒っている!

何回、儂が地龍王に怒られたと思っておる!しつこい様だが特にエルフの女王関係でな!


「「ふう・・・魔王バルドルよ、我を使って情報を聞き出すのは止めぬか。

この者共の処遇は魔王バルドルに任せる」」


あっ・・・バレてましたー。

良かったねー、幾ら頭に来ていようが地龍王は君達の様な超小物共に手を掛ける事は無いんだよー。

最初から相手にもされてないとも言えるがな。


「そうですな・・・真魔族領の炭鉱で30年間の強制労働の刑って所ですかね」

ようこそ!新規労働者の諸君、我が真魔族領でキリキリ働いて貰おうじゃないか。


あそこの所長は「覚醒魔王君」だから脱走は不可能なんだなこれが。

何で覚醒魔王が炭鉱の所長なんだ?って?本人がやりたいって言ったから理由は知らん。


そして先程、不審者達を懲罰炭鉱にブチ込んで来た訳じゃな。

何か「私は伯爵だーー!国際裁判をー!」とか喚いていたヤツがおったが関係ないんだなこれが。


仮に逆の立場になって「儂は魔王じゃ!離さぬか!」と喚いた所で、

「はいはい、分かった分かった魔王さん、早く炭鉱に行きましょうね?」

となるであろう?


貴族などはその国でしか通用しない身分なのだよ。


この件でピアツェンツア王国が真魔族に戦争も辞さない本気で圧力を掛けて来たら話しは別じゃが、王家の者を誘拐しようした不届き者を果たして国が助けるかな?


逆に「厄介者を引き取ってくれてありがとう」では無いかな。

つまり彼奴らは臣下の分際で王族のシーナを狙って時点で詰んでおった訳じゃな。


一件落着した所で話しを視察の方へ戻そう。

かなりの情報を仕入れたのでサクサク監視が行けるぞ。


本日の視察の目的は主に軍事関係において、うちの国では地方領主と王家はこんなに上手く連携が取れているのだ!と国内外にアピールする為の物だ。


その為に今回の使節団には他国の大使も数名同行している。


西の大陸でゴルド王国とヴィグル帝国の間で色々小競り合いが起きている状態なので有事に備えて国内の結束を高めると同時に友好国との関係を強化も目的になっている。


視察団は市街の外回りからスタートするので、その間にシーナのおめかしを宿屋の看板娘のエレンがしている・・・と。


んん?!エレン?・・・ああー・・・思い出した。リリーの娘か・・・懐かしいのう。


さて、エレンの事は大分気にはなるが、今は関係ないので一旦置いておいて。


今日のシーナは水色のワンピースに薄いピンクの靴、変装の為に髪を黒から明るい茶色に色覚魔法で変えているのだな。

ポニーテールにピンクのリボンがなかなか可愛いではないか。


ここからは「世界の言葉」の資料から引用じゃ。


『シーナの右腕はノイミュンスターさんが赤ん坊の時から成長に合わせて作り込んでます。

シーナも自分の右腕が義手である事すら知りません。

地龍の造形技術は世界でも最高峰なのです!』


との事・・・・・・・もう少し詳しく書いてくんね?どうやって作ったとか。


「エレンちゃんどーお?」シーナがスカートを左右に揺らしてエレンに服を見せている。


「バッチリ!可愛いよシーナ」


「えへへ」今度はクルンと一回転・・・あれ?何か既視感が?何じゃったかな?


まぁ良いわ。


それ以上目立った変装をしていないのは、シーナの成長した姿を王妃に出来るだけ素で見せてやりたいとの地琰龍の思いが伝わって来るな。


「・・・シーナはお母さんに会うのどう思ってるの?」


おおっ!エレンがシーナの目を見ながら踏み込んだ質問をぶつけましたよ!

関わったせいか儂もなんか凄く再会が気になってきおったわい。


「んー」


シーナは考え込んでます・・・ヤベェ魔王も心臓がドキドキして来てますよ。

さて!シーナの回答は如何に?!


「すっごく嬉しい!早くおかーさんにあいたい!」


おおー!良かったではないか王妃よ!王妃様の思いは無駄にはならない様じゃな。

ん?視察団が街の外周の施設を見学して市街に戻って来た見たいじゃな。


いよいよ再会の時が近くなって来ましたよ!魔王もめっちゃドキドキじゃ。


使節団が戻って来たと地琰龍から聞いたシーナはエレンの手をキュッと握っている。

やはりかなり緊張してるのだな。



この感じだと母娘再会は悪い結果にはならんと思うのだが、違う所で何か嫌な予感がしておる。


余計な陰謀でささやかな幸せを潰そうとする輩が居るのならば魔王の恐怖とやらを味わって貰おうかな?


ん?そう言うのは「勇者」の仕事じゃ無いのか?だと?

ふふふ、この世界は「何でも有り」の世界なのだよ、そこら辺の常識は通用せんよ。

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