第4話【ムスク】甘く柔らかな温かみ③

しばらく身体を重ねたのち柊は家まで送ってくれた。


「ありがとう。」


「おう、じゃあな。明日早いんやから早よ寝なさい。」


「うん、おやすみ。」


帰っていく柊の車が見えなくなるまでわたしは見ていた。

時間は深夜2時近くだった。



朝7時に起きた。


帰って来たのが遅かったのでほとんど寝る時間はなかった。

でも楽しみで仕方なかった。


普段の仕事用のメイクはナチュラルで薄いし服装だって制服だ。

お洒落して行きたかった。

久しぶりにしっかりメイクして服を選ぶのにも時間が掛かった。


約束の9時。


柊からは連絡がない。


来る途中で何かあったのだろうか?それとも来れなくなったのだろうか?

昨日(というか今日)遅かったからまだ寝ているのかな?

色んなことを考え不安になった。


9時半まで待って何も連絡が来なければこっちから連絡しよう。と決めて待つことにした。



9時4分。


[今起きた]


[了解!笑]


[今から向かうわ]


[はーい]


内心安心した。

ただの寝坊で良かった。

何か事故に巻き込まれていたりしてなくてよかった。

そう思った。


[着いた]


[今出る]


家を出ると柊の車が停まっていた。

中にいる柊は明らかに眠そうだ。


「おはよう。」


「おう、おはよ。悪かったな遅れて。」


「全然大丈夫。寝てるかもなぁって思ってたから。」


「悪かったって。」


「怒ってないよ?昨日遅くまで一緒にいてくれたじゃん。」


「遅れたから高速で行くぞ。」


「はーい。お願いします!」


「場所わかんねぇからちゃんとナビしろよ。」


「了解!でもわたしがナビするとなんかたどり着かないんだよね。」


「はぁ?なんでだよ。」


「いや、わからん。ちゃんと極度の方向音痴?」


「携帯でナビ出してんのに方向音痴とか関係ねぇーだろ。」


「そうだけど、そのうち分かるよ。」


「嫌な予感しかしないな笑」


「まぁなんとかなるっしょ!」


「怖いなぁ、辿り着くんかこれ。」


「大丈夫だって!」


「どっからその自信くんだよ。」


「携帯のナビ!」


「さっき自分で携帯のナビあってもたどり着かない方向音痴って言っただろうが!」


「ふたりいれば辿り着くんだよ!」


「どんな理屈だよ。」



道中ずっと車内の雰囲気は明るくて楽しかった。

柊自身の話も色々聞いた。

やっぱりやんちゃな人なんだなぁと思った。

わたしには一生縁の無いような輝いてる人だなぁ、、。と。


これが最初で最後の思い出のお出掛けになるんだろうと心の何処かで思っている自分がいた。



「わがまま付き合ってくれてありがとう。」


「気にすんなよ。」


「柊がいなかったら今頃ストレスで潰れてる自信ある笑」


「まぁそこまで面倒みるのが役目やからな笑」


「プライベートの面倒まですみません。」


「それが当たり前やろ笑」


「少数派でしょ!」


「そうなんかなぁ?笑笑」


「うん笑。面倒見いいのに彼女いないのおもろい笑」


「へんなのう笑笑、困ったもんだ笑笑」


「モテるのに、車が難点?」


「モテねーよ笑笑、まぁそれもあるけど未来が見えないんだと思うよ笑笑」


「モテてるのに気づいてないだけとか笑」


「それは無い笑笑」


「なんで言い切れるの?」


「いい人止まり笑笑、当たり前に言い切れるよ」



違うよ。


きっとあなたのこと好きになってるいる人はたくさんいるんだと思うよ。

でもあなたが誰にでも優しいからみんな、自分だけじゃないんだ。

ってきっと知らず知らずのうちに諦めてるんじゃないのかな。

わたしはそう思っていた。


だってわたしがそのうちのひとりなんだから。



少し切ない気持ちになりながらも車内は終始楽しかった。


なので時間もあっという間過ぎ、そろそろ海が見えてきた。



「ねぇ!見て!海!!」


「おう、そりゃ海見に来たんだからな笑、海見ながらパン食うんだろ?」


「うんっ!!」


「後で海も寄ってやるから落ち着けって笑」



はしゃいで年下になだめられている。

今考えれば(今考えなくても)とてもクソガキだ。



「ナビ的にはもうそろそろだぞ。周り見て探せ!」


「はーい、なんかぱっと見分かりにくいんだよね。初見じゃ絶対に分かんないと思う。」


「そんな分かりにくいのかよ?」



わたしの言葉通りお店を見つけるまでに3往復した。



「おい、これじゃね?」


「あ!ここだ!!あった!!」


「なぁ?開店前から並ぶ店なんだよな?」


「ん?うん。」



少し車内に沈黙が流れた。



「誰もいねーけどほんとに今日やってんのか⁈」


「た、たぶん!ちゃんと来る前に確認したよ!今日営業日のこと!!」


「ちょっと入口行って見て来いよ!」


「分かった、行ってくる!!」



車をひとり降りて石畳の階段を上がり木製のドアの前に立った。


【本日12時30分開店】


と、貼り紙があった。



車に戻り、


「12時半オープンだって!」


「お前11時って言ったろ!」


「うん。でも営業時間や定休日の変更あり。って調べた時書いてた!」


「おい、それ先に言わんかい!オープン前から並ぶって言ってたから早く来たんだぞ!今何時だと思ってる!」


「ん?10時45分過ぎ笑」


「アホか!」


「でもお休みじゃなくて良かったじゃん!ね?」


「まぁなー、あと1時間半どうするよ。」


「先に海行こう!!」


「そんな海行きてかったんか?」


「うん!大人になってから入って無いから。」


「お前入る気⁈」


「え?うん。そのために来たもん。」


「マジか。着替え持って来てんの?」


「いや?何にも。」


「はぁ⁈やっぱお前アホやな。」


「後で着替え買い行くか?」


「うーん?とりあえず海行きたい!行こ?」


「はいはい。」



呆れながら柊は車を発進させた。

海水浴場に着いたものの人が大勢いた。

当たり前だ。真夏の海水浴場が空いてる訳がない。

ただ問題はふたりとも人が多い場所が苦手なのだ。



「どうする?結構人多いぞ?」


「うん、無理。」


「だろうな、とりあえず海沿い走ってみるか。」


「うん。」



そんな訳で海沿いをドライブすることにした。

しばらく走っていると脇道から海に繋がる場所を見つけた。

脇道に入り車を停めて2人で車から降りた。



「ここって立ち入っていい場所なんか?」



目の前に看板が立っていた。


【ゴミの持ち帰りは各自で!!】



「ゴミの持ち帰りは各自でってことは大丈夫な場所なんじゃない?どこにも立ち入り禁止って書いてないし!」


「あぁ、そういうことか。穴場見っけたな笑」



その場所は私たち2人きりだった。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

温かな香りの記憶 真雪 @izayoi_915

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ