異世界転生したけど、コミュニケーションが取れません


 お正月と言えば、やはり餅だろう。餅が大好きな俺はお雑煮を食べて……餅を喉に詰まらせて窒息死するという何ともベタ過ぎる死に方で人生を終了した。


 次に目を覚ますと、そこには髭を生やしたじーさんが胡坐をかいていた。


「あー、チミチミ。随分と不憫な死に方をしたね」 


「あの……ひょっとして神様ですか?」


「うむ、如何にも! チミ、なかなか慧眼じゃのう」


「いや、何と言うかテンプレ通りですから。これって、異世界に転生するって流れですよね?」


 小説とか漫画にありがちな展開に、俺なんかが選ばれるとは思わなかった。


「うむ、話が早くて助かる! 不憫な死に方をしたチミを異世界に転生してあげようと思っての」


「はぁ……」


「そう不安にならんでよい! 異世界での世界を存分に楽しみなさい! では、レッツ異世界転生!」


 神様から放たれた神々しい光に包まれ、俺の意識は遠のいていった……。






 ……ん、ここは? 誰かに抱きかかえられているみたいだ。


 って事は、今の俺って赤ん坊か? 瞳に妙齢の女性の姿が映る――この人が、この世界での俺の母親かな?


 傍らには若い男の姿もある。この人が父親かな?


 ふたりは笑顔で会話する。


「ボエ、ボエボエ!」


「ボエボエボエ!」


 ……は? いやいやいや、待って、この人達何言ってんの?


 何か、ボエボエ言ってるんですが? 一体、何処の国の言葉!?

   

 




 一方、その頃、神様達が住まう天界では……。


「おーい、神13号~。遊びに来たぞい」


「おお、神1号! 久し振りじゃのう!!」


 全く同じ姿の神が、餅を喉に詰まらせて窒息死した青年を転生させた神――神13号のところに遊びに来ていた。


 外見は全く同じだが、よく見ると彼等の額には『13号』、『1号』と書かれている。


「今日、不憫な死に方をした青年を転生させてのう」


「そうかそうか。で、何処の世界に転生させたんじゃ?」


「うむ、第22905番世界に――あっ」


「ん、どうしたんじゃ?」


 神13号は真っ青になる。


「ま、間違えた……その隣の第22904番世界に転生させてしもうた!」 


「な、何じゃと?! た、確かその世界は……」


「う、うむ……その世界に住む人間はボエボエというワケの分からん言語で会話する。や、やっちゃったぜ」


「何ちゅう適当な仕事をしとんじゃ、お前は! 早く、転生させた若者を第22905番世界に転生し直さんかい!!」


「それが出来れば苦労せんわい! 一度転生させたら、取り消しが効かんのはお前さんも知っとるじゃろうが!!」


 ギャーギャー言い争う13号と1号。神達の間にはルールが存在し、一度転生させたら取り消しは出来ない。


 




 ……転生してから10年が過ぎ、俺は10歳の子供に成長しました。割といいトコの坊ちゃんに生まれ変わったらしく、今の生活には満足しています。


 ――そう、ただ一点を除けばですが。


「ボエボエボエ」


「ボエ―!」


「ボエボエボエボエボエ」


 ……家族や使用人、学校の友達全員がボエボエとしか言わず、全くコミュニケーションが取れません。


 神様、せめて翻訳スキルか何か下さい……(´;ω;`)





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