青空に描く

板谷空炉

本文

 私の横を通り過ぎるように風が吹き、長い髪がなびいた。

 天を仰ぐ。深いほどに空は澄み、心が洗われるようだった。

 手を伸ばしてみる。当然のように届くわけがなく、ただただ空気を掴んだ。

 手を下ろし、ひたすら青を瞳に映す。それは痛いほどに美しく、いつしか涙が溢れていた。


 現実から離れたようなひと時。私はこの日、とある感情を失くし、とある感情が生じた。そのため忘れてしまおうと思って、平日のため誰もいない河川敷に訪れた。


 やはり来て良かった。忘れられないけれど、暫し離れることが出来る。

 河川敷の草原に寝転がる。太陽を浴びるのもたまには気持ちいいものだ。

 ああ……、でも駄目だ。やはり苦しいものは苦しいし、つらいものはつらい。

 どうしてあの時私はあの場所にいてしまったのか、後悔は募るばかり。

 いっそ知らないままだったら、どんなに楽だっただろうか──


 天を仰ぐ。深いほどに空は澄み、どこまでも吸い込まれそうだった。

 手を伸ばしてみる。当然のように吸い込まれることなく、ただただ空気に触れた。

 手を下ろし、ひたすら青を瞳に焼き付ける。それは優しいほどに穏やかで、さらに涙が溢れた。


 私の横を通り過ぎるように風が吹き、短い安らぎは続く。

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青空に描く 板谷空炉 @Scallops_Itaya

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