第8話 許可出ちゃいました
「こんなところでどうしたの?幸太郎くん」
夕焼けがよく見える、寂しい廊下に響く女子生徒の声。窓の隙間から吹き込む風が、彼女の長髪をなびかせる。
「あぁ、先輩ですか」
「そうだよ。あなたの先輩の一ノ瀬誠です」
廊下の真ん中に立ち尽くす幸太郎。そんな幸太郎に対して微笑みかけるのは、見幸中学校生徒会会長、一ノ瀬誠。幸太郎もまた、生徒会の一員だ。幸太郎が、これまで、仕事以外で話したことがない一ノ瀬が、何故話しかけてきたのかと問う。
「廊下で立ち止まっている後輩を見て話しかけない先輩がいる?」
「いるかもしれませんね」
「つれないなぁ」
そう言って、一ノ瀬が幸太郎の隣に並んで歩き出す。
「幸太郎くん。委員会の仕事がまだ残ってるんだけど、手伝ってくれないっ」
一ノ瀬は両手をあわせて首を傾ける。非常に可愛らしい仕草で頼みに出る。
「どうせそんなことだと思いましたよ。まあ良いですけど」
「ありがとね。助かるよ」
この時一ノ瀬は、ただ後輩に気を遣っただけだった。これを転機に、二人の仲はもっと深いものになっていくとは考えもしなかっただろう。
「・・・さん、誠さん・・・!」
もう日が沈んで外は青白い空が広がっている。
今日はたまたま席が空いていたので、二人揃って席に座っていた。一ノ瀬は、委員会で疲れている様子で眠りについていた。幸太郎も邪魔しないでおこうと、スマホを見ているうちに寝落ちしてたみたいだ。それは問題なかったんだが・・・
「ここ、終点です・・・」
まだ眠たそうに、目を擦っている一ノ瀬。頭も上手く回っていないようで、幸太郎が何を言っているか理解するのに、少し時間がかかった。
「・・・まじ?」
「・・・マジです」
「うーん、やちゃったねぇ・・・」
「やっちゃいましたね」
駅から出て、家の方向に歩いていく。いつもなら、行く手を阻む信号が邪魔に思える。でも今は、この瞬間さえも特別に思える。
「ここから家までどれくらいかかる?」
「えっとですね・・・・・・歩いて一時間半とか・・・」
「しんどいね」
ここはそこまで田舎ではない。かといって夜も賑わっているわけではない。住宅街が多く、この時間帯には、もうポツポツと電気が消えていく。すると、一ノ瀬が突拍子もないことを言い出す。
「あそこってホテルだよね。今日はもう終電過ぎたし泊まっていかない?」
そう言った本人さえも、頬を少し赤らめている。幸太郎は、段々と心の底から恥ずかしさが込み上げてきた。
建物の外見は、水色がメインの寒色のネオンが張り巡らされた、いかにも「普通の」ホテルではない。
「な?!な、何を言い出すんだ!!・・・ですか」
「あははっ、やっぱり面白いね、幸太郎くんは。・・・で、どうする・・・?」
一ノ瀬は、幸太郎の動揺っぷりに心から笑う。それとは一変した様子で、背中の後ろで手を組みながら幸太郎の答えを待つ。その様子は、どこか本当の恋人のように見える。
本当に俺たちが入っていい場所なのかな・・・仕方ないか!ただ寝過ごすだけだしね!
「あ、えっと・・・親に許可取ってきていいですか・・・?」
「逃げちゃだめだよ?」
「そんなことしませんよ」
一ノ瀬の軽い冗談のおかげで、さっきまでの緊張感がなくなり、二人揃って笑う。幸太郎はスマホに目を移した。
「許可出ちゃいました」
「じゃあ入ろっか」
一ノ瀬が幸太郎の袖をクイッと引っ張ってホテルの中へと連れ込む。
せめて堂々と行かなきゃだめだな。
「結局こうなるよね・・・」
どういう状況かというと、漫画とかでよく出てくる、そうはならんだろ!とかいう状況だ。
一ノ瀬が先に風呂に入ると言って、幸太郎がベッドに座って待つ。ただ静かにして待っているだけだと、シャワーの音が聞こえてきて精神の統一が阻害される。だから今みたいに独り言を言ってみたり、鼻歌を歌って気を紛らわしているのだ。
そうしているうちに、風呂場のドアが開く。
「はあぁ・・・気持ちよかった〜。・・・服こっちに忘れちゃってさ」
そう簡単な言葉で済まして良いのだろうか。一ノ瀬は、バスタオル一枚で外に出てきた。痴女かっ、痴女なのか!
お前は黙ってろ・・・
「俺っ、すぐ入りますから!」
幸太郎は、しっかりと一ノ瀬を一目し、風呂場に向かおうと立ち上がる。そして立ち上がったその時・・・
「幸太郎くん!危ない・・・!」
一ノ瀬が注意を呼びかけるも、届くのは遅く、幸太郎は足元まで広がっていた机の脚に引っかかり、一ノ瀬の方へと倒れ込む。
「いってて・・・一ノ瀬ごめ・・・」
幸太郎は自分の肘を犠牲に、一ノ瀬の後頭部へと右手を回した。しかし、反対の手が、一ノ瀬のソレをキャッチ&ホールド!していることに気づいたのは、幸太郎の脳内へとその感触が皮膚から伝わった時だった。
「幸太郎くん・・・」
一ノ瀬の頬が赤い。今にもとろけそうな顔になっている。それどころか、床に着いていた手が、いつの間にが幸太郎の背中へと回っていた。
「誠さん・・・」
二人の思考があわさった時、二人の身体も・・・・・・・・・
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