第6話 告っちゃえば?
「聞いたわよ幸太郎!筋肉に全振りしたんだって?!」
朝。
席が埋まり、電車に揺られる幸太郎と優乃。最近は、家を出たときに毎日会うようになって、一緒に登校することが多くなった。
昨日のスポーツテストで、ショックを受けた篠崎が声をかけられ、数人に幸太郎のことを話したらしく、ゴシップニュースとして優乃の耳に入ったらしい。
「その見た目で、全振りかぁ。噂には聞いてたけど、実感わかないわね」
優乃は幸太郎の身体を頭から足の先までまじまじと見ながら言う。
優乃には本当のこと話したほうがいいかな・・・でも幸運の話はしないほうがいいなー・・・もし篠崎が聞いたら多分ボコられるな。
「ま、まあそういうことだ。恥ずかしいからあまり言わないでくれ」
「わかったけど、さっさと言ってくれればよかったじゃない。その身体ってのが恥ずかしかったの?」
優乃が嘲笑を浮かべながら幸太郎に話す。
「う、うん。そうだよ」
いかにもわざとらしく返答する幸太郎。
今日のスポーツテストは外で行うらしい。
外での種目はハンドボール投げと50mだ。
「おはよう剛」
「・・・おはよう」
剛も幸太郎の身体を見つめる。
「もしかしてお前も聞いたのか・・・?」
「あ、あぁ。・・・なんかヒョロいのにー、不思議な感覚だな・・・」
「言うなよ」
幸太郎の直球なツッコミに、二人して微笑し合う。
「今日のスポーツテストも楽しみにしとくわ」
剛は、それだけ言って席へ戻る。それと同時に先生が教室へ入ってくる。こうして、今日という一日を頑張っていこうと思い立つのだった。
「じゃあ今日もやってくぞ!!天候なんて気にするな!!」
そうだ。先生が言うように、今日は天候が悪い。不規則な強風だからスポーツテストには不向きだ。だからといって休みにするわけには行かないので続行だ。
ハンドボール投げは男女分かれて記録者、投擲者に分かれて測定する。ステータスのことを配慮して、距離が長くなっている。
「こうたろー!次俺投げるから見とけよ!!」
剛が声を張って言う。本当に幸太郎だけを呼んだのだろうか。向こうにいる女子に聞こえる程の声で叫んだのは気の所為だろうか。
「おぅ、らっ!!」
ボールが、剛の手から勢いよく離れる。すると、案の定強風がこちらに向かって吹いてくる。ボールは勢いを失い、軌道を変えて落下する。
「おいおい、それはないだろ・・・」
結果は28m。
剛は落ち込んだ様子で後ろに下がる。
「次は俺の番かー・・・」
幸太郎が不屈そうに呟く。そして位置についた。
記録者の合図とともに、幸太郎の手からボールが放たれる。
「うわっ・・・!」
突如、風向きが変わり、背後から砂煙に襲われる。その直後、記録者が大きな声をあげる。
「おーい!ここに落ちたぞー!!」
結果は、52m。
ここで、幸太郎がついた嘘がバレることはなかったみたいだ。
結果はともあれ嘘はバレずに済むな・・・本当に運がいいのか悪いのか・・・
「ふんっ、今のは完全に運だからな!二回目見てろ!!」
結局、剛の時は向かい風となり30m。
幸太郎の時は追い風となり49m。
「お前運良すぎだろ・・・」
剛は悔しさを押し込んで、幸太郎に笑いながら話しかける。
「運じゃないよ、ステータスのおかげだって。剛はすごいよな。風に負けてないもん」
うん、運じゃない運じゃない。
そんな幸太郎を、離れた場所から眺ていた優乃が。指に触れる髪を撫でながら、ふと呟く。
「すごいわね・・・」
「優乃ーっ、そろそろ優乃の番だよー」
お下げが目立つ小柄な生徒、梓。優乃は後ろから不意に飛びつかれたので、「わっ」と驚いた声を出すが、すぐに立て直して返事をする。すると梓が思い掛けないことをいう。
「優乃はほんとに好きだねー」
「な、なに言ってるの?!好きじゃないわよ!あんな奴のどこがいいのよっ」
あたふたした様子で弁解する優乃。
しかし梓はいたずらな笑みを浮かべて話を続ける。
「まだなんの話かも行ってないのに?」
優乃の顔は更に赤面していき、顔を手で覆う。
「ごめんごめんっ」
梓は両手を合わせながら軽く謝る。
「・・・いいわよ。またやられたわね・・・」
※よくからかわれてる
「そろそろ告っちゃえば?」
「だから好きじゃないってば」
優乃は切り替えて、断言する、が・・・
「まただ。梓何も言ってないよ?」
※からかいやすい
「もういいわ!早く行きましょっ!」
そう言って優乃はスタスタと歩き出した。その後ろを着いていく梓は思う。
もっと素直になればいいのになぁ。
「優乃っ、待ってくれ!」
高校よりも一回り小さい校舎、中学校に幸太郎の声が響き渡る。
「・・・・・・」
去っていく後ろ姿に、いくら声をかけようとも返ってくる言葉がない。
「お前とっ!前みたいに楽しく話したい!!俺がなにかしたのか?教えてくれないと分からないっ、少しでいいから、話してくれ!」
優乃の足が止まる。
幸太郎は、少し声音を落として語りかける。
「・・・俺、なにかしたか?」
「・・・何もしてないわ」
返ってきたのは静寂に包まれた声音だけ。
その後、再び歩きだし、廊下の死角へと消えていった。
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