第5話 ・・・99?

「「「いち、に、いち、に」」」


体育館に響く生徒たちの掛け声と多数の足音。その中に、授業を不安そうにしている生徒の姿が。


「はあぁぁ」


「幸太郎、体育好きだったじゃん。楽しめばよくね?」


調子者の剛が、無神経な発言をする。


「俺の気持ちにもなってくれよ剛・・・」


「まあ、お互い頑張ろうぜ」


この体格差でよく言えるな・・・




「じゃあ一つ目いくぞ。握力からだ!!」


そういやこの先生は前からムキムキだったな。特に変わったところもないかな・・・


「握力はな、深指屈筋、浅指屈筋、そして長母趾屈筋を鍛えることができるんだ!!」


知性が上がってる・・・!って筋肉に詳しいのは元々か。


後ろの方でコソコソと話す生徒の話し声が聞こえる。


「いくら聞いても覚えられないよねー」


「ねー」


なんで覚えようとしてるんだよ・・・




「じゃあ小坂から」


測定が始まる。測定は、三人一組で行っていき、幸太郎の順序は三番目だ。測定器は、電気で動くタイプだ。


「ぐっ・・・!」


一番目は小坂だ。小柄だし勉強ばっかしてるからそんなに行かないだろ・・・


「40!」


うん・・・なんで?


「小坂やるなぁ!次は俺だ。借りるぞ!!」


篠崎か。こいつも元々ムキムキだったんだよな。それに増して大きくなっているが。


「ふんっ!!」


計測器から嫌な音がした。篠崎の身体に浮かんだ青筋は徐々に引いていき、手元の測定器を見る。


「おぉ!!92だ!!」


この測定器そこまで測れるんだ・・・針じゃないから壊れてないか心配だな・・・


「次は福田だな。俺を超えてみろ!!」


はいはい、精々足掻きますよ。


「くぅぅうっ・・・・・・」


やっぱりきついな・・・!置いていかれないように筋トレとかしとけばよかったな。


「あー、疲れたぁ・・・」


「見せてみろ!!」


篠崎が、幸太郎の手から測定器を奪い取り記録を先見する。


「おいおい、まじかよ」


篠崎の顔が驚愕に包まれる。同時に幸太郎はしかめっ面に変わった。


「そんなに驚かなくてもいいじゃないか・・・」


「いや、見てみろよ・・・」


篠崎は、幸太郎と小坂の目の前に測定器を差し出す。それを見た二人も、驚愕の目に変わった。測定器に映っていた数値は・・・


「「・・・99?」」


目の前に映る不可解な数字に呆然とする二人。数秒経ってやっと理解する。


「はぁぁぁああああ?!」


体育館にいる生徒が一斉に幸太郎の方を見る。篠崎が、うつむいたまま幸太郎の隣に移動してきて耳打ちする。


「・・・・・・お前に負けないように頑張るぜ・・・」


篠崎の目には若干涙が浮かんでおり、いつもにない小さな声で話してきた。


「ちょ、何かの間違いだって!!篠崎ぃいい!!」


寂しい背中を向けて去っていく篠崎に、必死になって声をかけるが、篠崎はもう振り返ることはない。


この後、幸太郎の記録は、ステータスがある限りありえないことではないとされ、正式に張り出されることになった。周りからチヤホヤされる幸太郎が、まさか篠崎のパワーで測定器が壊れていたなんて知る由もないだろう。

運がいいのか悪いのか・・・




「次は、長座体前屈か」


さっきは意味不明だったからな・・・記録よりも不安のほうが勝ってる・・・


ペアはさっきと同じ。機械の関係により、そこにもう一つのペアが加わって計6人で行う。


「篠崎!・・・篠崎!!」


だめだありゃ・・・壁に頭打ちつけてなんか言ってるよ・・・


「誰からやる?特にやりたいとかないなら俺が先やるけど」


「あぁ」

「先やってくれ」


全員が同意する。長座体前屈用のダンボールとメジャーを用意し、背中を壁につける。


「もう行けるよ」


「おっけ。・・・うぅぅー・・・・・・はあぁっ。どう?結構いった?」


計測係の小坂に、やりきった様子で問う。


「うーん49は・・・・・・平均以下だね」


「そ、そうか・・・ありがと」


分かってはいたけど、辛い・・・それに小坂の言い方がムカつく。


「次誰が行く?小坂は?」


「僕は最後でいいよ。みんなから済ませたほうが効率もいいしね」


メガネを人差し指で押さえながら、遠回しに指示する。


やっぱりこいつ、ムカつくな・・・


「じゃあ僕がやっていい?」


率先して手を挙げたのは、委員長の天野司。天野は、某家電会社の社長の息子であり、顔も整っている。モテるのは当然の結果だ。


「おぉ。記録、64!」


運動もできる方だ。


「ちょっとやっててくれ、篠崎のとこ言ってくるわ」


幸太郎は、メンバーの返事も聞かずに駆けていった。




「何落ち込んでんだよ篠崎。どうみても俺が出せる記録じゃないだろ?」


「そうだけどよ・・・」


グサッ


「ステータスって見た目に反映しない場合もあるんだろ?お前で初めて見たよ」


「あー・・・」


そういう場合もあるのね?でも全振りした人も変わらないのかな。俺が全振りじゃなかったら篠崎、もっと傷つくよな・・・


「お、俺は筋力に全振りしてるんだ。だから俺が、か、勝っても仕方ないことだと思うよ?篠崎もあの記録本当にすごいな!!あははー・・・」


「・・・した」


なんか言った・・・?嘘ついたのバレたか!?


「俺も筋力に全振りした・・・」


あ、これもっと傷つけちゃったわ・・・

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