第4話 いや、ポジティブか!
カーテンの隙間から差す日が眩しい。外から鳥の囀りが聞こえる。
「・・・今日もいい朝だ」
「がらぁぁ・・・っぺ」
うがいをして、顔を洗って、鏡を見る。
「うわぁ、酷い顔」
周りがイケメンばかりになったせいか、自分の顔が人の物じゃないように見えてくる。それか、昨日のショックで疲れが溜まっているのだろうか・・・
「行ってきまーす」
「気をつけてね」
いつもと同じように家族で朝ごはんを食べて、家を出る。この世界が変わっても、この暖かい毎日は変わらないでいて欲しいな。
「あ・・・」
「あー・・・」
扉を開けると、優乃と目が合った。こう2日連続して会うとなると運がいいのか悪いのか。お互い気まずさや、罪悪感を抱えているので話しにくいところがあるのだろう。
「優乃・・・おはよう」
先に沈黙を破ったのは幸太郎だ。そして優乃の隣を歩き出す。ここで話す機会を失っては流石に困る。
「昨日はその・・・急に変になってすまなかった」
「変に・・・って何よ。そのことはもういいわよ」
どもりながら謝る幸太郎が少し面白かったのか、口に手を添えて微笑しながら許容する。
「それに私も、何もしてあげられなくてごめん。何か大事なことかもしれなかったのに」
「優乃が謝ってる・・・!」
「何よその反応・・・」
優乃が幸太郎に向かってジト目を向ける。
「そんなことより!!」
優乃が突然大きな声で訴えかける。
「・・・昨日、見たでしょ」
優乃の頬はうっすらピンクに染まっていて、普段のクールさからは想像もできないような可愛らしい表情を見せる。
「見たって何を・・・・・・あぁ、夜のあれか?」
幸太郎はなんの悪びれもなく返答する。しかし優乃の顔はどこか不満げだ。
「あんた女子を何だと思ってるのよ!!」
ついに優乃の目に涙が溜まってうるうるしている。高校生ともなれば、メイクだってしているのだ。すっぴんに加え、寝巻き姿を見られたとなるとショックは大きい。
「え、いや、あれはそのー・・・」
流石に空気の読めない幸太郎ではない。こんなところで、「あれはただの偶然だ!」とか言ってしまうと火に油を注ぐのと同じだ。
「・・・・・・本当にすまなかった・・・」
ここは謝る以外に道はないと、挫折する。
「・・・いいわよ。・・・・・・幸太郎で良かったわ・・・」
「今なんて・・・?ごめん!もう一回!!」
「許してやるって言ったの!」
怒っているその表情の先には、なんだか楽しそうな感情が視えた気がする。
「さ、早く行かないと電車乗れないわよ!」
「急に走るなー!」
「あ゙ぁぁぁ」
「どうしたんだ幸太郎、この世の終わりみたいな声出して」
机に伏せて、ため息をつく幸太郎に声をかける剛。
「ほんとに終わってるよ・・・朝から優乃にめちゃくちゃ走らされてさー」
「そういや昨日、部活来なかったな。ステータス決まったんだろうなー?」
「ど、どうだろなー」
本当のことを言ってもいいが少し躊躇う。かと言って嘘をつくことも剛に悪い。ということで濁すことを選ぶ。
「教えるって約束じゃないかー!」
「ちょ、痛いって」
剛、渾身のヘッドロック。幸太郎は、剛の筋肉に押しつぶされそうになっている。前までは笑える程のノリだったが、今はもう笑えない痛さになってきている。
ガラッと教室のドアが開き、先生が入ってくる。
「HR始めますよー座って下さーい」
やっぱり見慣れないなぁ。
先生に限らずほとんどの生徒の顔が分からなくなっている。入学当初と同じ気持ちになれてラッキー!
いや、ポジティブか!・・・あれ?今俺、誰にツッコんだんだ?
「なあなあ、今日の体育スポーツテストらしいぞ」
剛がやけにニコニコしながら言う。ステータスによって強化された身体が疼いて仕方がないんだろう。
「まじかぁ・・・」
「ほんとに何も振ってないのか?」
「あ、あぁ」
「きゃー!!一ノ瀬せんぱーい!!」
廊下を歩いていると男女問わず数人の生徒が群がっているのが分かる。すると、剛が幸太郎の肩を肘でつついてきた。
「おい、幸太郎。一ノ瀬先輩だぜ?」
「そ、それがどうした?」
幸太郎は若干照れて、口を尖らせながら言う。
「話しかけなくていいのかよ。喋りたいんだろ?」
「皆まで言うなよ!」
調子に乗る剛へと、ツッコミをしようと背中を叩くがびくともしない。
「俺、今こんな顔してんのに会える訳ないじゃん」
「まあそうか」
剛が苦笑する。
「認めんなよ。俺だって傷つくんだからな・・・?」
「わりぃわりぃ」
こいつ絶対反省してないわ・・・
立ち止まって話をしていると、チャイムの音が校舎全体に鳴り響く。
「やっべ!幸太郎また後でなー!!」
「ちょ、待っ」
手を伸ばしたときにはもう遅かった。
「剛まで置いていくなよーーーー!!」
剛のやつ、フィジカル高すぎんだろ・・・てか待てよ、火曜日っていつも先生遅れてくるじゃん!ついてるー!!
幸太郎は誰も居ない廊下を一人、スキップしながら体育館へと向かっていくのだった。
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