第3話 ステ値、誤タップで幸運に全振りしちゃいました

日の沈みかける頃、教室に響くのは一人の少女の足音と、一人の男の間の抜けた声。


「・・・・・・は?」


果たして俺が今見ているものは何なのだろうか。まだ夢の中なんじゃ・・・優乃の様子もおかしいし。でもこの感じ、夢じゃない。


「どうしたの幸太郎?そんな阿呆っぽい声出して」


「優乃・・・・・・ステータスって俺以外の誰も触れることってできないんだよな?」


幸太郎はとても暗い声音で優乃に問う。


「ええ、そうよ?誰も見えないんだから触れれる訳ないじゃない」


「そうだよなー・・・」


どうしてこんなことになったんだろう・・・


少し明るくなったが、次は疑問に包まれた表情で黙りだす。


「それで?ステータスがどうかしたの?」


「・・・・・・いや、何でもな・・・う・・・」


「ちょっと?!言い切れてないから!しかも何で泣いてるのよ!!」


優乃が引きつった顔で、最初から最後まで説明してくれる。


「何でもない・・・」


まさか、「ステ値、誤タップで幸運に全振りしちゃいました」なんて言える訳ないだろ!!


「そ、そう。じゃあ先帰っとくね・・・」


少し早歩きで教室を出ていった。気の所為だろうか。


「・・・・・・・・・せっかくモテるチャンスだったのにぃいいいいいいい!!」


誰も居ない教室に、幸太郎の心の声が木霊する。




「はあぁぁぁ」


帰りの電車の中、周りのことなんて気にせず、何度も深いため息をこぼす幸太郎。


俺の一日が無駄になった・・・それどころか人生さえも終わってしまった・・・どうしよう・・・みんな自分にあったステータス振ってるし、もう生きてる価値なくね?


『次は〜見幸〜見幸〜ご降りの際は・・・』


もう着いたのか。準急乗れてたんだな。




いつもと変わらない帰り道。もう日が沈んで辺りはもう真っ暗だ。幸太郎の気持ちも沈んでお先真っ暗だ!


「おっ、千円も落ちてんじゃん。ラッキー」


そんな気持ちの中、少しの幸福が積み重なっていく。




「ただいまー」


「おかえり。もうご飯できてるわよ」


「ありがと」




「それでさ・・・父さん」


「・・・どうした、幸太郎」


2人は真剣な表情で、ダイニングテーブルを挟みながら晩ごはんを食べる。


「・・・ステータス、何に振ったんだ?」


「・・・先に話せ」


話すも何も、どう見ても・・・


「筋肉でかすぎない??隠しきれてないから」


「・・・・・・話を逸らすんじゃない!!」


逸らしてるのゴリ・・・父さんじゃん。


「一見何も変わってないが・・・まさか知性とかに振ったんじゃないだろうな?」


「それがー・・・」




「何ーーー?!幸運に全振りしてしまっただと!!」


※説明した


「モテないお前がせっかく逆転できるチャンスだったのに・・・!父さん悲しいぞ・・・」


グサッ


「これからの人生、棒に振ったんだぞ?周りのやつが充実している中お前はどうやって生きていくんだよ・・・」


グサッ


てか生きていくことはできるから。


「そうなるとこれから・・・」


「もう言わなくていいよ!!」


幸太郎は、父に怒鳴ってリビングを出ていった。


そんなこと俺だって分かってる。だって俺のミスだもん。




自室に入って机と向き合う。こんな情勢の中勉強する気にもなれないが、期限までに終わらせなければいけない課題を進める。もちろん続く訳もなく・・・


「あー疲れたぁあ。外の空気でも吸うか」


そう言って幸太郎は、サァッとカーテンを開ける。


「あ・・・」


窓を開ける前に目に写ったのは、窓枠に肘をつく、緩んだ表情の優乃の姿。わずか一瞬だけ目があった。なぜ一瞬かと言うと、優乃が爆速で窓とカーテンを閉め切ったからだ。


今日の事謝ろうと思ったのになぁ・・・・・・不覚にも可愛いと思ってしまった・・・でも俺は――


自分の奇行を弁解するチャンスを逃してしまって残念がる幸太郎。


また明日でも謝るか。


そう思い立って、今日という日を終わらせるのだった。






「んもう、何なのよあいつ・・・」


所々にぬいぐるみが散らばる女の子らしい部屋の中で一人呟く。邪念がよぎって筆が走らない。


急に泣き出したりして、私もびっくりするじゃない。・・・話聞いてあげたほうが良かったかな・・・


「・・・ああもう!集中できない!!」


優乃は席を立って、窓際へと移動した。窓を開け、その向かい側には幸太郎の部屋が見える。


あ、電気ついてる。


閉まったカーテンから、微かに漏れる光。それに、時々揺れる黒い影。幸太郎が部屋にいるのは一目瞭然だ。


今何してるんだろ・・・


窓枠に肘をついて呆ける。その姿はどこか魅力的で、目が引き寄せられる程に。


ステータスがどうかしたのかな。明日にでも聞いてみ・・・


幸太郎の部屋のカーテンが開く。何の前触れもなかったせいか、優乃の顔は酷く赤面し、爆速で窓とカーテンを閉め切った。


「何でこっち見るのよ・・・」


もうお風呂入って寝よう。明日ちゃんと話せるかな・・・

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