111話 3-21 三人の愛娘

 凛とETOが食べ終わった食器をキッチンに下げている時




‥‥‥‥




「やっぱりツラいょ‥‥‥」



蓮司と凛を寂しそうに見る

胸の真ん中をギュッっと握り辛そうに小声で呟いた梨花をすみれさんは見逃さなかった‥‥‥




「‥‥‥‥洗面所借りて良い?」


梨花が急に申し訳無さそうに聞いてきた


「良いわよ?」


すみれさんは不思議そうに返した


「顔を洗いたくて‥」


「あ!アタシの洗顔使って?」


凛は洗面所に梨花と入って行った



凛は先に戻ると「お茶で良い?」とみんなのお茶を用意した。





しばらくすると洗顔を終えた梨花が頭からタオルを被り戻って来た。



『梨花?』




「‥‥‥‥‥」





「みんなに私の素顔を見てほしいの‥‥‥」



梨花はタオルを外しみんなを見つめた



‥‥‥‥‥






小さく震える梨花







言葉を失った‥‥‥








梨花の右顔には大小複数の縫い跡、まぶたは綺麗だった二重が無くなっていた‥





「‥‥‥‥ごめんなさい‥」





梨花は頭を下げた


慌てて駆け寄るETOと凛






「ずっとずっと謝りたくて‥‥私のせいでえとくんは酷いイジメにあってるって聞いて‥」


「ホントは私がえとくんを守らなきゃ行けなかったのに‥この顔を見せれなくて‥‥逃げた‥‥」


「今更言い訳がましいかもしれないけど‥ずっと両親にもえとくんのせいじゃ無いって訴え続けたのに聞いて貰えなくて‥‥私の将来を潰したって裁判まで起こされかけてて‥‥私の言葉なんて一切聞く耳を持たずに‥」


「‥‥‥両親を唯一納得させたのがダンスとアイドル活動で‥‥この顔でも出来る所を‥将来がある事を見せる約束で裁判を取り下げさせたの‥‥‥」


「許してほしいとは思ってないよ‥」





「久しぶりに会ったえとくんとすみれおばさんが変わらず‥‥凛ちゃんが優しすぎて‥むしろ辛くなっちゃった‥‥‥グスッ‥」


「責められだ方が楽だっだょ‥」


「うぅ‥‥‥‥‥‥‥」



‥‥‥‥‥‥‥‥



『責める訳ないわ?‥』


ETOは黙ってポロポロ泣く梨花を抱きしめた‥


それは梨花が溜め込んで来た全てだった‥


‥‥‥凛も黙って梨花の背中を擦る






『よくウチに来てくれたわ‥梨花‥ これからは私達が守ってあげる‥』




「当然よ!友達だもん!」






梨花は俯いたままだった‥




 すみれさんはキッチンに行き冷蔵庫からもう一本ビールを取り出して戻る時に梨花の頭をクシャッと撫でた



「梨花ちゃん‥‥‥‥洗顔する前に言ったツラいってなぁに?」


梨花はビクッと肩を竦めた





「‥‥‥二度とウチに来ないつもりだったわね?」





「‥‥‥‥‥‥‥‥」






蓮司と凛は驚いて梨花を見た‥





「‥‥‥ごめんなさい‥」





図星だった‥

梨花は蓮司の家を昔みたいに楽しんで最後にしようと考えていた‥懐かしくて優しい家


えとくんにはもう私が居なくても凛ちゃんが居る‥‥‥


私に出来る事はこの家族から両親を出来るだけ遠ざける事だった‥


「梨花?」


『梨花!』


二人はそれぞれ両頬をプニッと摘んだ


「怒るわよ?」


『怒ってる!』


「‥‥‥‥ETO‥‥後お願い!」


『この間、母さんと梨花の事を話して‥‥私と蓮司の中でこの問題は終わってるの‥‥母さんが私達に取れる責任があるならもう母さんが取ってる!って‥‥』


ETOが母さんを見るとニコッと笑った


『だから吹っ切れた‥あと私達に出来るのは梨花を笑顔にする事だけ‥』


『あなたはここが嫌い?』


「大好きに決まってる!」


ETOにしがみつき左目から大粒の涙を溢す梨花





『‥‥だったら我慢しないで‥』





「だって‥‥でなきゃ‥えとくんがまたウチの両親に酷い事言われちゃう‥‥‥‥ 耐えられない‥」




梨花の両肩を掴み真剣に梨花の顔を見るETO




『また梨花を失う事に比べたら痛くも痒くも無いわ?‥‥ それに私も蓮司も昔みたいに弱くない‥‥‥‥』



‥‥‥‥‥‥‥‥‥





「すみれさん‥ごめんなさい‥やっぱり黙ってられません‥言っちゃいます」




すみれさんは諦めた様に頷いた‥




「‥‥あのね?梨花‥‥‥ついこの間イジメ問題が解決したの‥‥」


「えっ?」



凛は梨花を椅子に座らせると森永が退学するまでの経緯を細かく説明した‥

その内容は蓮司が気を失っていた時の事も含まれていてETOも時折驚きの表情を見せる





「待って!それってえとくんが悪い訳じゃ無い‥‥‥‥」


「そうよ‥最初から蓮司は悪くないわ?優し過ぎただけよ」


ビール缶をペコッと鳴らすとすみれさんは優しい笑顔で


「私も聞く前から大体予想は付いてたの‥ただ今回、れんくんがあの時「押された」って嘘を言って無かったって証明されただけ‥」



「‥‥‥ごめんなさい‥ ウチの両親はえとくんを信じなくてを何度も引っ叩いて怒鳴った‥‥‥」


「すみれおばさんにも‥‥グスッ‥」


梨花はテーブルにうつ伏せて泣き出した


「えとくんは嘘なんか付いて無かった‥‥‥ なのに話しも聞かず一方的に手を上げた両親‥‥‥‥ごめん‥なさい‥‥」



『‥‥私や蓮司で良かったのよ‥それが』




「イヤよ!」



「‥‥‥‥ほんっと恥ずかしくて情けない‥!」



「えとくんが悪いなら同等に私も悪いハズよ!私だけ悪くない訳無い!んーん!むしろあんな遊びをした私が悪かったの!怪我は自業自得なのよ!」




「えとくんもすみれさんも悪く無いじゃん!お願いだから二人だけが我慢したら済むなんて思わないで‥‥‥  ‥仲間外れにしないで‥‥‥‥」





‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥






「私にとって大切なのは蓮司は嘘を付いてない優しくイジメにも負けない強い子だったって事実だけ!それを梨花ちゃんと凛ちゃんが分かっててくれれば良いのよ‥‥」



「‥‥‥‥でもね?だからって梨花ちゃんをウチから取り上げるのはまた話しが別よ?」


「梨花ちゃんが居てくれたから‥私にはれんくん以外に凛ちゃんや梨花ちゃん‥‥ETOって三人も愛娘が増えたのよ?‥」


「‥‥‥‥私‥も?」


「そ!ずっと昔から梨花ちゃんは私の娘みたいなものよ?ふふっ‥顔の傷が何?」


すみれさんはニッコリ凛に空になったビール缶を振って見せた


「‥‥‥すみれさん飲み過ぎ!ホントはダメだけど!今の話しがカッコ良かったから‥‥‥‥今日は最後だからね?」


凛は冷蔵庫に缶ビールを取りに行った


「凛ちゃん大好きよ〜!」


「酔っぱらい‥‥」


凛は小声で言いながら缶ビールと作り置きのおつまみを一緒にすみれさんに出した。








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