106話 3-16 梨花呼びで‥

 玄関に入るとちょうど洗濯籠かごを持った凛が洗面所から出て来た‥


「あ!おかえり蓮司」


「ただいま」


「梨花ちゃん‥‥‥‥いらっしゃい」


「‥‥‥‥ぉはようございます‥‥」


驚きと不安が隠せない梨花


「すみれさん!‥‥梨花ちゃん来たよ?」


「待ってて‥すぐ干して来る」


凛はニコッと洗濯籠を少し上げた‥入れ替わりで母さんがリビングから出てきた






「‥‥‥‥‥‥‥すみれおばさん‥」






「梨花ちゃん‥‥」






「大きくなったね‥‥‥」


梨花を見る眼差しは小さい時に僕らを玄関に出迎えた時のままだった‥


「グスッ‥‥‥‥‥‥」


梨花は玄関に立ったまま泣き出す。

母さんは黙って梨花を撫でた‥


蓮司は涙目の母さんを見ると黙ってリビング入って行った‥


庭では凛が鼻歌混じりで洗濯物を干している

機嫌の良い蓮司は窓から凛に


「何か手伝う?」


と聞くと目を丸くして


「珍しい‥‥‥でも気持ちだけで嬉しいわ?」


凛はニコッと笑った


ソファーに座って凛を見ていると隣から





「まさか凛ちゃんも一緒に住んでるなんて思わなかった」




蓮司はびっくりして振り返ると梨花が座っていた‥‥‥母さんはキッチンでお湯を沸かしながら嬉しそうにしている


「ごめん‥言うタイミング逃してそのままだった‥‥‥」


苦笑いの蓮司は少し拗ねた感じの梨花に謝った


「‥良い子だね‥‥‥‥」


「‥うん」


凛の姿を見る梨花の表情は寂しくも見えた


「これが今の凛ちゃんとの差か‥‥‥」


「何が?」


梨花の顔を覗き込む


「ハハッ‥なんでも無いよ?」




‥‥‥‥‥




そう言えば今日はカラコン黒だね?


「うん‥‥いつもアレじゃあ無いよ!あれはデイステの梨花のトレードマーク!」


「そうだったんだ‥‥あんまり何も知らなくて‥」


「あ!でもりんちゃん?」




「「なに?」」



‥‥‥‥‥‥‥‥





振り返ると洗濯物を干し終わった凛も同時に返事をした「りん」呼びにはどちらも返事をする


「‥‥‥ごめん凛、こっちの‥りんちゃん」


「アハハ‥そっか!」


凛は洗濯籠を洗面所に置くとキッチンに母さんと並んだ



「‥‥‥‥そうだった」


「り‥‥‥梨花?」


蓮司は呼び慣れない名前呼びで恥ずかしくなると梨花も吊られて赤くなる‥



「‥‥あ、やっぱ今まで通り‥‥‥‥‥‥‥‥」

         「あ‥梨花呼びで‥‥お願い‥‥」



「‥‥‥はい」




「えとくん‥何か言おうとした?」


「‥‥あ!うん‥デイステの歌は覚えたんだよ!」


「ホント?嬉しい!じゃあデイステのライブにも来れるね〜!」


「‥‥‥人が多いの苦手なんだよ‥‥」


「あ、そうだったね、人見知りだった‥」


「‥‥‥うん、でもちゃんと上がった動画や新曲は見るよ?」


「えへへっ‥‥ありがと!」




「梨花ちゃん!蓮司!‥お茶が入ったよ!」




凛が椅子を引き


「梨花ちゃんこっち!隣に蓮司ね?」


テーブルがいつもの席と違った。梨花の左隣に蓮司を座らせる



「エヘヘ‥‥良い匂い」


「気付いた?昨日すみれさんと焼いたの!梨花ちゃんが大好きだって‥マドレーヌ」






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