92話 3-2 夏の入り口

 七月


朝の情報番組で梅雨明けが発表された。

暑い日差しとまだ湿っぽさを残す蒸し暑い空気

学校は夏服の生徒で賑わっていた


蓮司も、真新しい半袖のサイズの大きいYシャツでケンと二人で教室にいる‥‥


机に座りヘッドホンで真剣にデイステの動画を見ている蓮司


「あぢぃ~‥‥‥」


隣の席でタオルを枕にし寝たいケンが暑さと戦っている

前の席に凛は居ない‥‥


珍しく二人が一緒に登校しなかったのは、謹慎明けの教室に戻る初日で緊張しているシノを家まで迎えに行っているからだ。


なので蓮司はケンと途中で合流し先に二人で登校していた。




「おはよー!」


凛がいつもの様に元気にクラスに入ってきた

その後ろから


「‥‥‥‥ぉはょう‥‥‥‥‥‥」


緊張したシノが続いてくる

一瞬クラスが静まり返りシノに注目する‥‥‥


ワッと突然シノの周りに人が集まり


「おかえりシノちゃん!」

「大変だったね〜」


とみんなが歓迎した。


「‥‥‥‥‥ただいま‥」


呆気に取られるシノに凛がニッコリ笑う


「早くバッグ置いておいで?」


実は、凛と蓮司と先生でクラスのみんなには前もって話をしておいたのだ‥‥


凛を助ける為に蓮司にケガをさせてしまって罪悪感から自主的に謹慎していると‥‥


‥‥‥‥嘘では無い‥


シノの優しさを知ってるクラスのみんなは疑い無くそれを受け入れ待っていてくれた‥


一部の友達は謹慎中もシノに声をかけに行ってくれたらしい‥

改めて凛は思った‥シノはアタシに依存しなくてもこんなにみんなに好かれている、みんながシノの側に居てくれる‥

まだ恥ずかしそうにはにかむシノと目が合うと嬉しそうに笑顔になる‥‥


もう大丈夫!


安心した凛は真っ直ぐ蓮司の所に向かう

ヘッドホンで全く周りの状況に気づいていない蓮司


バッグを置いてきたシノが凛の隣に並んだ


蓮司を驚かそうと静かに凛が耳元に近づくと


チョン‥‥‥


シノは凛の頭を軽く押すと同時に気配に気付いた蓮司が振り向くと凛は蓮司のほっぺに一瞬キスをしてしまう‥‥‥‥


不思議そうに振り返る蓮司と至近距離の真っ赤な凛‥その横で目を反らして真っ赤なシノ‥‥‥


‥‥シノ自身、凛を驚かそうとしただけでこうなるとは思って無かったみたいだ‥‥‥‥‥


「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」


「‥‥‥‥‥‥‥」


ゆっくりヘッドホンを外す蓮司



「おはよう凛!シノ!」


「‥‥ぉ‥‥‥おはよう」


蓮司は凛が近いのは普通で一瞬だったため何をされたのか気づいていない


「おはよう江藤君!アッッついね〜〜今日も!」


‥‥‥‥‥??言い方が気になりつつも


「‥‥そ‥そうだね」と笑顔で返す


凛は赤鬼かと思わせる顔付きでシノを見ていた

シノは笑いを堪えボソッと言った。


「凛チャ可愛い‥‥‥‥‥」


シノのほっぺを摘み説教しようとした瞬間、後ろから声が


「やってくれたなクソマネ!」


見ると不機嫌なケンが睨んでいた


「人の死角からやらかすたぁ~どう言う了見だ?」


状況の飲み込みが早いシノはお腹を抱えしゃがんで笑いを堪えいる。


「か!勘違いしないで!」


「い〜や!今のは見てた!ありゃテメェがお姫を狙って近よった!」


「ちが!あれはシノが‥」

    「距離感を人のせいにすんじゃねぇ!」


「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥アンタ‥それこの前、逆の事言ったわよね?アタシに‥」


「距離感の勘違いを自分のせいにするなって‥‥」


「だったら今の蓮司にしたキスだってアタシのせいじゃ無いわ!!!」


「シノのせいよ!!」


‥‥‥‥‥‥‥‥


静まり返る教室



‥‥‥‥‥‥‥


「もうヤダ‥‥今日は帰る‥‥‥‥」


凛は蓮司の机にあったヘッドホンを入れる大きめのポーチの袋をスッポリ頭から被りフラフラと教室から出て行った。


「ちょっと待って!凛!」


蓮司が教室を飛び出す時ケンに向かって


「いっつも変な事言うなって言ってる!」


可愛らしい顔でピシャリと出て行く



「‥‥‥‥‥‥‥ ‥ありゃ自爆だろ‥‥‥」



蓮司と凛が付き合っていると言う噂が学年中に広まるのに時間はかからなかった‥





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