66話 2-30 一緒に暮らす事
蓮司は薄っすらした意識の中で聴いた事ある鼻歌に反応した。ぼんやりと目を開けると隣で凛がスマホを見ながらニコニコとETOの歌を小声で歌っていた。
まだ少しボヤけている視界は窓から入る光を強く感じ、しっかり開ききれない目蓋は凛の姿を淡い優しい絵画のように蓮司を見惚れさせる。
虚ろな意識の中で無性に込み上げる幸福感があった。
「キャッ!」
突然、凛は真っ赤に蓮司の顔を見る
「‥‥‥‥‥??」
悪くない心地よい感覚をニギニギしながら蓮司の意識を急速に現実に引き戻した。
「ぁ‥‥ ‥‥へ?」
蓮司はゆっくり手を上げて見るとしっかりと指を絡ませ繋がれた凛の手‥‥‥
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」
凛は慌てて蓮司から手を離し距離を取ると繋いでいた手を胸元で握り俯いたまま
「‥ごめ‥‥‥‥」
「ごめん!‥‥‥‥‥寝ぼけて繋いじゃった!」
凛の声を遮って蓮司は謝った。
「‥へ?」
蓮司は真っ赤になり熱くなった頬を擦る。
まさか悪気が無いとはいえ無意識に手を繋いでしまうとは‥‥なんと言い訳したら良いのか分からなかった
ソファーでうたた寝していた蓮司に凛が掛けてくれていた薄手の毛布がパサリとカーペットに落ちる
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥良く寝れた?」
まだ引かない赤みを帯びた笑顔の凛が蓮司を安心させた。
「あ‥‥うん‥寝れた‥」
「その‥‥‥‥もしかして僕、寝癖悪い?」
「寝癖?」
「‥‥‥あ、寝癖?寝相?寝起き?わかんないけど‥‥‥‥‥‥その‥‥一緒に暮らすのに凛に嫌な思いさせたくないから‥‥‥‥‥」
凛はクスッと笑い
「確かに寝起きは悪い!」
「‥‥‥‥‥‥ごめん‥」
「でも朝だけよ?」
「‥‥朝だけ?」
「うん!‥‥‥‥今のは手をギュッって握られたけど、イヤって訳では無いし‥‥‥‥‥」
「‥‥‥‥‥‥‥それに、蓮司が寝てる間、手を繋いでたのはアタシだから‥‥‥‥」
「‥‥‥‥え?」
「‥アハハ‥ごめんね‥‥‥アタシのこの蓮司との距離は丁度良くて、落ち着くって言うか‥‥‥」
「離れていかない距離が良いみたいな‥‥‥‥」
蓮司は凛の様子を見てあの時、離れてしまう怖さを自分と同じ様に感じてくれていたんだと分かった
少し離れた距離を詰め、困った笑顔の凛の頭を優しく撫でる。
ニッコリと満面の笑みの凛に
「凛の距離は僕も心地良いよ?」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」
ETOであるなら飛びついて来る状態だが蓮司だからなのか、何やらモジモジしている。
『凛‥‥‥‥ おいで?』
ETOスマイルで両手を広げると
「〜〜〜!!」
弾かれたパチンコ玉の様に真っ直ぐETOに飛びつく凛、ETOは黙って抱きしめ凛を撫でた。
その日の夕飯は母さんが佳代子に呑みに連れ回されてるので要らないと連絡を受けていた。
引っ越し作業の疲れもある凛にもゆっくりしてもらうため、出前のお寿司を頼んで二人で食べた。
夕飯を終え、ニコニコした凛がお風呂セットを抱え嬉しそうに蓮司の前に来た‥‥‥‥
「あ‥‥凛、今日は引っ越し作業お疲れ様!先にゆっくり入って来てね?」
「先に入ってて良いよ?」
「‥‥‥‥‥ん?‥‥‥いや、凛が持ってるの着替えじゃ無いの?」
「背中ながして‥‥‥‥」
「いや‥大丈夫だから!」
食い気味の蓮司の拒否に頬を膨らます凛
「いつも言ってるけど僕、男だよね?」
「距離近いのは平気だけど、もうこれゼロ距離超えてめり込んじゃってるから!」
「いいじゃん減るもんじゃ無いんだし!」
「いやおっさんの!」
「もぅ!分かったわよ!」
「じゃ‥先に入っちゃって?」
「アタシお風呂前にまだ準備あるから!」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥」
疑いの目で見つめる蓮司‥‥‥‥
「分かってるってば!突らない!」
不貞腐れながらも聞き分けのある凛を可愛らしく思いながらお風呂に入る蓮司だった。
夜も更け、お風呂から上がった凛のスリッパの足音が隣の部屋に消えていく。
いつも家で一人だった寂しさに凛の気配が安心感を与えてくれる。
ベッドに横になりお風呂で熱った体が程よい眠気を誘う‥‥‥
「寝るか‥‥‥‥」
キィ‥‥‥‥
「蓮司‥‥‥寝た?」
小さく開けた部屋なドアから小声の凛が覗く。
「今から寝るトコ」
「ちょっとだけいい?」
「?‥‥‥うん‥良いよ」
凛は嬉しそうに蓮司の部屋に入ってきた。
‥‥‥‥‥‥‥‥‥
「ん?蓮司?」
凛は抱き枕を抱えていたが格好は大きめの薄手のトレーナーが一枚だった‥‥‥
乾きたてのしっとりした綺麗な髪に蓮司は初めて凛に対してドキッとした。
「‥‥‥‥‥‥‥あ‥‥ぇっと‥‥‥」
目のやり場が無く目が泳ぐ蓮司‥‥
凛は蓮司の様子に気付き
「あ!下はちゃんとショートパンツはいてますよ?」
トレーナーをチラッと捲ったが慣れてないと言うか初めて見る凛の寝る前の姿に目が冴えてしまった。
凛はベッドに座る蓮司の隣に座り蓮司を覗き込む
「あのね?‥‥‥‥‥」
‥‥‥‥‥‥‥‥‥
「‥‥凛?」
「あ‥‥‥ 蓮司に改めてちゃんとお礼が言いたくて‥‥‥」
「お礼?」
「うん‥‥‥この家に住まわせてくれてありがと‥‥‥‥‥」
‥‥‥‥
「僕が望んだんだ‥‥‥凛は僕が望む物を全てくれる‥‥‥‥‥」
「マネージャーも友達も‥‥‥この温かい気持ちも‥‥‥」
‥‥‥‥
「僕こそありがとう‥‥‥ずっと一緒に居てくれて‥‥‥」
恥ずかしくて目を反らしていると凛は抱き枕を蓮司との間に挟んだまま控えめに抱きついた
「アタシも寝るね?おやすみ蓮司!」
凛は抱き枕を抱えパタパタと部屋を出て扉を閉める前に蓮司にニコッと笑いかけ自室に帰って行った。
「‥‥‥‥おやすみ‥凛」
凛はベッドに倒れ込み抱き枕を抱えたままゴロゴロと転がっていた。
‥‥‥‥‥本当は、お礼ではなく
ETOと添い寝してみたいと頼みに行くはずだったのに‥
言葉が出なかった‥‥‥
この気持ちの意味が分からず一人ベッドで考え込んでいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます