61話 2-25 お礼の‥‥‥?
エレベーターに乗り込んだ二人。
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」
若干の気まずさが狭い空間を包む。
「蓮司‥‥‥‥今日は来てくれてありがとう‥‥」
「引き止めに来てくれて‥‥」
「‥‥‥‥‥‥‥自分の為だよ‥」
照れ臭い蓮司は真っ直ぐドアを見つめたまま‥
チン‥
エレベーターが開く瞬間、フワッと凛が横から抱きしめて来た。
そして柔らかい物が頬に当たる。
「は‥え?」
開いたエレベーターの前には外で待機しているタクシーが見えた。
凛は蓮司の背中をエントランスに押し出す。
振り返ると凛は閉まりかけたエレベーターの中で
顔を真っ赤に口元を押さえ
「おやすみ‥」と微笑んでいた。
「ぉ‥やすみ‥」
行ってしまったエレベーターの前で呆然と自分の頬を撫でる蓮司は、ようやく何をされたのか気付いた‥‥‥
「‥‥‥‥あ!ぁえ?‥‥ これ‥‥キス‥」
顔の温度がグングンあがるのが分かった。
普段からベッタリと距離の近い凛だが、それはいつも自分がETOの時だった‥蓮司の時には近いなりに少し気をつけているのは分かっていた。
今は蓮司だと分かってやった?
‥‥‥‥感謝の気持ちって事か‥
タクシーに乗り込み笑顔の蓮司。
悪い気はしなかった。
またいつも通りの日常が始まる。
‥‥‥が‥‥‥いつも通りか分からない
昨日は、夜帰って凛との事を母に話すと良くやった!と言わんばかりにハグされ同居に関しても増築してでも住まわせたい!と意気込まれた。
‥増築しなくても部屋はあるのだが凛を娘のように思っている母はもう凛を逃さない感をビシビシと出していた。
今日は、早朝から凛が玄関先で蓮司の母に泣かれハグされ撫で回されていた。
離れない母を無理矢理、会社に出勤させている姿は簡単に想像できる。
凛は気まずさで昨日まで切っていたスマホの電気を入れた瞬間の通知の多さに恐怖したらしい。
東さんには蓮司の丹羽さんへの暴言も含め長文のメッセで謝罪してくれたみたいだ。
因みに蓮司は謝るつもりなど無い。
今後、Vision側とどの様に付き合って行くかは改めて話し合いをする予定だ。
蓮司と凛の間で色んな事があった数日だが学校では、何事も無かった様に平和に一日が過ぎて行った。
放課後、
蓮司と凛とケンは、いつかのお高いカフェに来ていた。
不機嫌な凛を相手にせず蓮司にメニューを見せ、三人でも食べ切れるか分からない量のステーキセットを頼もうとしているケンを止めている蓮司。
三人でここに居るのには理由があった。
とにかく凛とケンの仲が悪い‥二人共、友達だから仲良くして欲しいのだが‥‥
「‥‥‥‥‥蓮司!アタシやっぱり納得できない!」
凛はケンを睨みつける。
「別に知った所でなんも変わんね〜だろ!」
すでにケンには蓮司がETOである事がバレている事を知ったばかりの凛がケンの記憶を消したがるので今後の為にも話し合いをしようと三人でカフェに来ていたのだ。
「ねぇ凛?ケンなら大丈夫だって!さっきも言ったけど言いふらしたりするタイプじゃないでしょ?」
「‥‥‥かも知れないけど、誰彼構わず暴力振るう人はキライなの!蓮司の側に置いておけない!」
「誰彼構わずじゃねぇ!売って来た喧嘩を買ってるだけだ!」
「その脳筋が嫌なの!バカなの?」
「バ‥‥お前だって四六時中あれこれお姫に付き纏って毒親じゃね〜か!オカンかよ!ババァ」
「バ‥‥なんですって!マネージャーなの!」
「まぁまぁ二人とも!他のお客さんに迷惑になるからやめよ?」
凛とケンはお互いそっぽを向き不貞腐れている。
『すみません‥‥注文したいのですが‥』
ウェイトレスを呼ぶ蓮司。
『二人共お腹空いたでしょ?』
蓮司‥‥いや、ETOの笑顔にフニャっとなる凛と顔を押さえ照れ隠しするケン。
それぞれ食べたい物を頼み待っている間、蓮司は二人に
「凛?僕はケンといて楽しいよ?まともな男友達っていなかったし、凛の居ない時は変に誰も寄って来ないし!今回の海外に引っ越す件だって凛の家に送ってくれて助かったんだ。」
「っ‥‥‥‥‥それは‥感謝してる‥‥‥」
「そら見ろ!!」
『ケン!!‥‥‥‥あなたは次、暴力で問題起こしたら二度と口聞かないから!‥‥わかった?』
ETOで怒られシュンとするケンをドヤ顔で見る凛。
「‥‥‥‥‥‥おぅ‥‥わかった」
「そして、二人共いちいち喧嘩しないで!」
反省したように俯く二人‥‥
しばらくするとウェイトレスが料理を運んで来て嬉しそうにする三人。
蓮司とETOを守れるのは二人だけだが相性の悪い二人を纏められるのも、蓮司とETOだけだろう。
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