58話 2-22 ママ

 両手に買い物袋を下げ、段ボールを避けながらリビングに入ってくる凛の母親。


凛の母は四十代かと思われるが全く見えない。綺麗なストレートヘアのセミロングに濃い茶色のオシャレ染め、顔は凛をそのまま大人にしたような美人だ。



「ママ!おかえりなさい!」


「ただいま凛ちゃん!」


「玄関に知らない靴があったけどシノちゃん?」


「あ‥‥‥あぁ‥そうね‥ママ!買い物袋、アタシが片付けるよ!‥ご飯たべた?」


「えぇ‥少しお腹に入れてきたわ」


「アタシまだ食べてないんだよね〜‥‥‥あ‥カットフルーツ頂き〜!」


「凛ちゃん?」


「え?もしかしてママが食べるんだった?」


「いいえ?凛に買ってきたわ」


「じゃ‥これと〜‥‥‥‥‥」




「凛!」



「‥‥‥‥‥‥‥‥‥誰?」


「まさか昨日来た会社の人じゃないわよね?」


母親は険しい顔になり凛を見つめる。


「‥‥‥‥‥‥」


「これ以上何を話しても何も変わらないわよ?」


「帰って貰って!!」


母親は強い口調で凛に言い放った。


「ママ?聞いて?違うの‥‥‥‥‥」


「もう何も聞く必要なんてないわ!

この一ヶ月、私があなたに聞いた事の幾つ答えてくれた?」


「昨日来た人もマネージャーの研修をしていた以外何も教えてくれない!何処で?誰の?私がアナタに根負けして研修の間だけ何も聞かないって約束はした!なのにそれ所か私に対してあの人はさらに契約を求めたわよね?未成年を預かるちゃんとした会社ならそれなりに説明責任があるはずよ?」


「‥‥‥‥‥‥‥帰って貰って‥」


言葉に詰まる凛‥‥‥




ガチャ‥‥





振り返る凛と母親。



『申し訳ありませんでした。』


頭を下げるETO

驚いてなにも出来ない凛がアタフタする。


「‥‥‥‥‥‥‥‥‥」



『凛さんが何も言えなかったのは他でも無い私のせいです』


ETOは顔を上げる事なく


『私自身、凛さんやお母様にこのような辛い思いをさせていたとは露ほども知りませんでした。』


『私は立場上の都合により一切の素性を誰であろうと晒す事が出来ません。』


『凛さんが悪いのでは無く優秀過ぎるが故の誤解なのです。』


『責められるべきは私です!』


ETOは頭を上げて真っ直ぐに凛の母親を見つめた。


「‥‥‥‥‥‥‥‥えっ?‥‥‥‥ETOさん?」


『‥‥‥‥‥はい』


『私を存じ上げているのであれば、分かると思うのですが、私の素性を知る人間は凛さんを含め数人です。それが一切漏れず普通に生活していけるのは、凛さんがしっかりと私のリスクマネジメント管理をしてくれているお陰です』


『私のマネージャーとして‥‥友人として、掛け替えの無い大切な存在です。』


「ETO‥‥‥‥‥」


『無理を承知でお願いに参りました。どうか‥凛さんをこのまま私の側に置いて頂く事は出来ないでしょうか‥‥‥』


さらに、深く頭を下げるETO





‥‥‥‥‥‥‥





「ふぅ‥‥」


「凛ちゃん‥‥あなたの勝ちよ!この頑固もの!」


「ママ‥‥」


「相手はETOちゃんよ?規約破ってあなたが口を割ってたら逆に勘当するところ!」


母親は凛をギュッっと抱きしめ


「知らなかったとは言え酷い事を言ってごめんなさいね‥」


「んーん‥私もごめんなさい」


凛はいっぱいに涙を溜めた笑顔を見せていた。



‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥



『あの‥‥‥』


「ETOちゃん?これから先、凛をお任せしてもよろしいですか?」


『もちろんです。こちらこそ、よろしくお願いします』


ニコッと微笑むETO





「ねぇ‥凛ちゃん‥‥ママもう無理‥‥ずっっと我慢してたんだけど‥‥‥‥」





「‥‥ママ?」




「キャ〜〜〜!凛ちゃんホント?ホンモノよね?夢みたい!何で早く言わないの!言ってくれたら全然すぐ許すのに〜〜!んまぁ〜ホントにお人形さんみたい!大好き!!」


「あ!サインとか頂けます?」


「握手が先?‥‥‥ヤダ!先にお風呂で全身を清めなければ‥‥‥」


「あぁ!それより座って?凛?お茶出して上げて!」


こうして見ると興奮状態の凛そっくりだ‥‥


「ちょっとママ!恥ずかしい!!」



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