57話 2-21 僕は痛いよ‥

エレベーターの中で

凛は蓮司のオシャレな服を掴み小声で


「なんて格好で出歩いてんの!誰かに見られでもしたらどうすんのよ!」


怒る凛に安堵する蓮司



チン‥‥‥

エレベーターが着くと凛は蓮司を残し先に外を確認し蓮司を少し屈ませて小走りで誘導する。


ガチャ


「入って!」


凛はもう一度外の周りを確認しながらゆっくりと扉を閉めた。


「ふぅ‥‥‥」


凛は胸を撫で下ろす。


「‥‥‥‥‥‥‥‥‥」


初めて入る凛の家は引っ越しの段ボールが山積みだった‥‥


「‥‥ごめんね〜足の踏み場も無くて‥」


凛はスリッパを出して来て蓮司の前に置き


「親は今居ないから入って!」と促した。


「お邪魔します‥」


蓮司は玄関の隅に靴を並べ、凛の後を付いて行った。


通されたのは凛の部屋だった。大小の段ボールに囲まれて凛の部屋だったと言う面影は少ない。


凛はベッドからクッションを取り出し


「はい!‥座ってて!お茶でいいよね?」


蓮司は忙しくリビングに出ようとする凛の手を掴み


「待って、凛‥‥‥その前に僕に言わなきゃいけない事あるよね?」


凛を部屋に戻しドアを閉める蓮司。


「‥‥‥‥‥‥‥」


凛をベッドに座らせ、蓮司はクッションに座る。




「‥‥‥‥‥‥‥ごめんなさい‥」



「‥‥‥‥‥怒ってるんじゃ無くて悲しかった‥」



蓮司は段ボールに手を添えて悲しげな表情になる。


「昨日、丹羽さんと大喧嘩してVisionの正式雇用を破棄して来た。まぁ、一方的に怒鳴りつけただけだったけど」


凛は両手で口元を押さえショックを受ける。


「Visionの雇用を受けたのだって凛が居たからだよ‥いないなら今まで通りでいいし‥‥」


「何より僕のマネージャーに無断でこんなに辛い思いをさせる会社なんて信用出来ないよ‥」



凛は困った様な笑顔で



「へへっ‥‥アタシも融通効かない意地っ張りだからさ‥‥‥特にETOの事になると余計にね!そして色々失敗して結局、外国に連れて行かれちゃう‥」


「きっとマネージャーのセンスなんて無かったのよ‥‥‥」




「あ〜〜〜ぁ‥‥ 沢山友達作んなくて良かった!!」




「‥‥‥‥‥‥‥‥」




「『悲しい』が少なくて済む!」


ニコッっと笑う凛


精一杯の強がりだった。




「僕は‥‥‥‥‥‥」


「僕は、友達が少ないけど‥‥‥すごく悲しい‥‥‥‥‥沢山の大事な物を大切に思える前に手放して来た僕は‥‥ 痛いよ‥‥‥‥‥だから‥‥‥‥‥」




ガチャン‥‥‥


玄関で扉の閉まる音が響いて来た。時計を見ると18時を既に過ぎていた。


凛は蓮司の口元を押さえ首を振った。


「‥‥‥凛ちゃん?‥‥‥‥‥‥凛ちゃん?お客さん?」


‥‥‥‥‥‥‥‥‥


凛は蓮司を段ボールの隙間に座らせて上からクッションを乗せた。


「凛〜〜?」


「は〜〜〜い!」


凛は電気を消して部屋から出て行った。


‥‥既に玄関の靴を見られているであろうお母さんにどう説明するのか気になるのだが‥‥‥


蓮司は仕方なく息を潜めておいた。

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