56話 2-20 凛に会いに

まだ日の高い夕方

蓮司の部屋には久しぶりに女性用の化粧品の香りが強く漂っていた。


ブーッブッ


メッセには


「下に着いたぞ!」


鏡に向かって口紅を整え口を「ぱっ」と慣らす。


パタパタと階段を降りる美少女。


ヒールの高い靴を履き玄関を開けると相変わらず見た目ヤル気の無さそうなケンが制服の上から濃い茶色の革ジャンを羽織った格好でバイクに寄りかかりスマホを触っていた。玄関の開く音に気付くと目を見開き2度見する。


「お‥‥お姫?」


蓮司は頷き誰も居ないか周りを確認すると、手を伸ばし


「ヘルメット!急いで!」

ケンからヘルメットを受け取る。


「マジで男かよ‥‥」 


「ったりまえだろ!」




頼れるのはケンしか居なかった。

ETOだとバレてる時点で話しの理解は早かったし、これに関しても協力を約束してくれた。



ケンもヘルメットを着けエンジンを掛ける。


後ろに跨がる蓮司に


「しっかり掴まってろよ!」


蓮司はケンの腰に手を回してしっかり捕まる。


「っ‥‥‥」


とても男とは思えない柔らかい腕に一瞬動きがぎこちなくなるケン。



バイクは蓮司を乗せてスムーズに走り出した。

蓮司は初めて乗るバイクに感動していた。

思ったより振動が少なく乗り心地が良い。首元を抜ける風は暖かく車じゃあり得ないスピード感にワクワクしていた。


しばらくすると、マンションの前でバイクは止まり


「ここだろ?着いたぞ!」


蓮司の家からそんなに遠くはないはずなのにあまり来た覚えの無い場所だった。


蓮司は周りを少し確認し誰も居ない事を確認するとヘルメットを脱ぎケンに返す。



『ありがとう。ケン』



‥‥‥‥‥‥‥‥‥ゴトッ

ケンはETOモードの蓮司に動揺し受け取ったヘルメットを落とした。


「‥‥‥‥あぁ‥ すまん‥」

慌ててヘルメットを拾うケン。

蓮司はサングラスを掛け服の乱れを直す。


「‥‥帰りは?」


『うん‥メイクを落としてタクシーで帰るから平気。ありがと‥』


‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ゴトッ

再びヘルメットを落とすケンにクスッと笑いながらヘルメットを取ってあげた。


「‥‥お‥サンキュ‥また明日な‥お姫!」


ケンはその場を逃げる様にバイクのスピードを上げて帰って行った。


コツン‥コツンとヒールの音を響かせエントランスに入る蓮司。まだ凛の親御さんの帰る時間には少し早い。


凛にどんな顔で会おう‥‥いや‥会ってくれない可能性の方が高い。凛の未読のメッセを見つめ不安が大きくなってくる。


深呼吸してメモにある部屋番号をもう一度確認する。間違えたら大変だ。


サングラスを外してゆっくりと慎重に部屋番号を押すが、呼び出しボタンを押す指が震える‥‥





‥‥‥‥‥‥‥‥〜ピンポーン‥



‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥

‥‥‥‥‥‥‥‥‥

‥‥‥‥‥


応答は無い。


もしかしたら外出中かもしれない‥‥


もうしばらく待って見ようと振り返ろうとした時‥‥




「ガチャチャ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥カチッ」



無言だったが確かに応答はあった‥‥‥


しかし反応の無いオートロック。


エントランスのソファーに座り俯く蓮司‥


もう、無理なのかな‥‥‥ 泣きそうになる。

少し外の風に当たりたい‥‥


チン‥‥‥‥


エレベーターで住人が降りてくる。


ハンカチで口元を隠し自動ドアから見えない様に体の角度も変えて住人をやり過ごす‥‥‥


タッタッタッ‥‥‥


腕を急に掴まれ引っ張られ小声で


「こんなトコで何してんの!蓮司!」


久しぶりに見た気がした凛は泣き過ぎたのか、少し赤く腫れぼったい目だった。


「早く!」


凛は蓮司の手を引きオートロックを開けると住人の出入りが無いか確認しエレベーターに乗り込むのだった。








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る