55話 2-19 まだ間に合う?
午前十時過ぎ、今日は保健室登校のため重い足取りで玄関を出る。‥‥家のすぐ脇に見知った車がハザードランプを付けて止まっていた。
蓮司は目を反らし、その車を無視し歩き出す。
すると
「お〜い!お姫!無視するなよ!」
丹羽さんが車から降りて蓮司を追いかけて来た。
「あんまり出て来るのが遅いから玄関先にテントでも張らせて貰おうかと思ったぜ!」
「‥‥‥‥‥‥どちら様ですか?」
蓮司の冷たい声に困った様子の丹羽さんは
「ふぅ‥‥ やれやれ‥‥‥」
と、メモ用紙を蓮司のポケットに入れた。
「??」
丹羽さんはわざとらしく空を眺めながら
「いやぁ‥‥本当は強く止められてたんだけどな‥‥どうせ同じ規約違反だ構わないだろ‥‥」
見ると、メモ用紙には住所が記されている。
おそらく凛の家の住所だろう‥
丹羽さんは独り言の様に
「転校手続きを急ぐらしいがまだ間に合う‥まぁ俺じゃ無理だったけど歌姫ならあるいは‥‥」
と言いながら蓮司を見てニッと笑った
望みはゼロじゃない‥‥と言いたいらしい‥
丹羽さんが蓮司に規約違反してでも住所を渡し、蓮司では無くETOに接触させようとしているのは凛の親が海外に行く事でETOを明かしたとしても外部に漏れるリスクは限りなく低い、何より未成年ではあるがマネージャーとして凛を引き止める価値が高いと凛自身が証明した結果なのだろう。
でも、この人達が動くのは会社の為‥‥
蓮司は顔を背け
「別に学校の誰かに聞けば分かった事ですが‥‥」
「一応、お礼は言っておきますね。ありがとうございます」
「‥‥‥‥‥お姫?学校、送ろうか?」
「赤髪の不良に知らない人の車に乗るなと言われてるので‥‥」
蓮司は振り向かず登校する。
「あ〜‥‥あと18時以降なら在宅してるらしい!」
蓮司は少し振り向き小さく会釈して速歩きで学校に向かった。
今日は凛が居ない学校で久しぶりの保健室登校だった。
少し前までここに来ていたのに何だか懐かしく思える。
自習をしながら、凛の家にどう行くべきか考えていた。
転校手続きを急ぐってどれくらい猶予があるのだろう‥‥
ガッツリETOの格好でウロウロ歩き回る事は流石に出来ない。
タクシーもリスクがある。
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
放課後、蓮司はケンと下校していた。
遅刻して昼から登校したケンはそのまま屋上で寝ていたらしく教室に入ってない。保健室登校を知らなかったケンから下校時間の少し前にメッセで「一緒に帰ろうぜ!」とお誘いがきた。
「今日はずっと保健室いたのか?」
「うん‥凛いなかったし。」
‥‥‥‥‥‥‥‥‥
「‥‥なぁ ‥‥‥アイツと何かあったのか?」
「ん?」
ケンは空気を読む力というか、何故か洞察力が高い。
「いや、昨日様子おかしかったろ?」
「普段からおかしくね?」
「ククッ‥‥‥ 言えてんな!」
「‥‥‥‥‥‥‥‥」
「お姫もな‥‥」
「僕も?」
「ひでぇ顔してるぜ?」
「‥‥‥‥‥‥‥」
「俺さ?バンドやってんだ‥ギター!
ケッコー自信あるんだ!」
ケンは元気のない蓮司に気を使って話しをしてくれているのだろうな‥と思った。
「まあ、色んな楽曲聞いたり弾いたりしてて‥‥で、コイツには勝てる!
だとかコイツみたいになりてぇ!
とか、超えてやる!とか考えてるんだけどさ‥‥‥」
「‥‥絶対に敵わねぇな‥って思うヤツが一人いるんだよ‥‥‥‥‥」
「‥‥ETO‥‥‥‥‥ ‥お前だろ?」
蓮司は突然振られた質問に驚き息を飲んだ。
「‥お前の歌、初めて聞いた時すぐ分かったよ‥自分が敵わないって思ってるヤツの声なんて分からない訳無いだろ?」
「生で聴いたアメージンググレイス‥マジで鳥肌ヤバかった。」
「それも男だったんだぜ?神だろ!」
子供みたいに熱弁するケンに蓮司は凛と近い安心を感じた‥
と同時にケンにならETOを知られても大丈夫と思える落ち着きもある。
「これが人を動かす声なんだろうなって、言葉ではそうしか言えねぇけど、体感すると言い表す言葉なんて無かったよ‥‥‥」
「‥‥‥‥‥」
「な!ケン! ‥‥‥友達として‥お願いがあるんだ‥‥」
蓮司の真剣な顔にケンも只事では無いと思ったらしく真顔で蓮司の目を見ていた。
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