54話 2-18 凛を返して‥

 ガタッ!!


蓮司が立ち上がりテーブルが揺れる。


パリン‥と落ちた湯呑みが割れる音がした。


「いったい何やってるんですか丹羽さん!!守るだ?偉そうな事言って何にも出来てやしないじゃないか!こんな事なら何もしない方がまだマシだった!」


蓮司の怒号がオフィスに響く


慌てて止めに入る東さんを手で静止する丹羽は

黙って蓮司の目を見続ける。



「すまない‥‥‥」



「凛は毎日僕と居て泣き言一つ吐かなかった!あなた達大人よりよっぽどETOを守って来た!!三年だと?三年後にETOが存在する保証なんてねぇよ!‥‥‥‥‥ゴホッゴホッ‥」


「ハァ‥ ハァ‥」


蓮司は普段使い慣れ無い言葉使いと声で喉が痛かった。

焦って心配する東さんと落ち着かせようと手を伸ばす丹羽さん


蓮司は丹羽の手を突き飛ばす様に


「もういい‥‥‥僕の正式雇用も契約破棄です‥僕との契約をアンタらが破った」


「言ったよね?凛がマネージャーでなきゃ雇用契約しないって」


「‥‥‥‥‥‥‥」


「賠償とか要らないから凛を返して下さい‥もうVisionの研修マネージャーじゃないでしょ?‥僕の個人のマネージャーです。だから関係ないですよね‥」



応接室から出る直前蓮司は立ち止まり




『凛を‥‥‥‥ 返して‥‥‥』





ETOは悲痛な声で訴え

扉を強く閉じ会社を出て行った。


東さんは割れた湯呑みを片付けながら声を殺し泣いていた。


静まり返る応接室で丹羽は


「東も‥‥‥‥悪かった‥‥‥友達だったよな‥」


東さんは鼻をすすり笑顔で


「いえ‥‥仕事です‥私情は挟めません」


丹羽にお辞儀をして応接室から出て行く東


蓮司はタクシーを拾い、帰りながら何度メッセを凛に送っても既読は付かなかった。


電話をかけたらやはり電源を切っている。


凛は初めから正式マネージャーは無理ゲーだと感づいてた‥

なのに黙って僕達を見守ってくれていた。


朝からケンの膝枕に反応し、取り乱したのだって‥‥‥最後に甘えたかったから‥


放課後‥‥ETOを抱きしめたのは充電なんかじゃ無い‥‥‥


お別れだった‥‥‥


‥‥‥‥‥悔し涙が出た。


世間知らずの自分の甘さ‥

凛の強い優しさに甘えるだけ甘えて守られて‥

情けない‥‥

もっと凛を甘やかすべきだった‥


守るべき存在でもあると気づけなかった‥


凛に会いたい。



家に着くと家がやけに寂しく感じた。


朝から凛のいたキッチン‥


普段帰ってから洗う食器まで綺麗に片付けされシンクまで磨かれていた。


いつもは簡単に畳まれている凛のエプロンも綺麗に畳まれテーブルに置かれていた。



エプロンを広げるとノートの切れ端がフワリと落ちてきた。


「蓮司へ

ごめんなさい。アタシのマネージャーはたぶん今日で終わります。もしかしたら怒ってるかな‥色々あってもしかしたらもう会えないかもだけどマネージャーだったこの一ヶ月、とても幸せでした。大好きなETOの側に居れた事、ずっと大切な思い出にします。体に気をつけて元気でね。    凛」


蓮司は全身から力が抜けた感じでその場で崩れ落ちた。


‥大切な光を失った‥‥‥‥



翌日、朝から凛は来なかった。



既読の付かないメッセ‥



また、凛と出会う前と同じ薄暗い朝に戻った。



リビングに降りると、母さんがスーツ姿のまま悲しげに俯いていた。


母さんは蓮司に気が付くと駆け寄り無理矢理な笑顔で「おはよう、れんくん」

母さんは僕の頭をギュッと抱きしめた。



テーブルには僕宛と同じノートの切れ端が置かれていた。母さん宛だったのだろう‥



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