53話 2-17 契約違反

 丹羽さんはエンジンをかけ車を出す。

蓮司は後ろから丹羽さんを覗き込み


「ウソでしょ?丹羽さん、更新に決裂とかある訳無いじゃん!」


「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」


表情を変えない丹羽さんを蓮司は冷たい目で見て座り直した。


「そう言う事か‥‥‥‥わさわさ凛の家から外して車を止めたり敢えて車から出ないよう釘を差したのはこれが理由だね‥‥‥‥」


僕は凛の家を知らない。


「説明してもらえるよね?」


「‥‥‥‥とりあえず事務所に行こう。」




車はVisionオフィスに着いた。


蓮司は丹羽さんに連れられ事務所に入る。

数人の社員がまだ残っていて


「部長!お疲れ様です。」


社員に声を掛けられ軽く手を挙げ応じる丹羽さん。


「東!」



「‥‥‥‥はい!」


給湯室から東さんが出て来た。


「あら!蓮司君!こんばんは!」


「こんばんは、東さん」


相変わらずの東さんに少しホッとする。


「今から、お姫と応接室を使うから、誰も通さないでくれ!」


「分かりました」



蓮司は奥にある応接室に通された。


「座って」


蓮司は高級そうな皮の柔らかいソファーに座った。


目の前のソファーに丹羽さんも深く座り疲れたように背もたれに寄りかかって


「はぁーーーーーーーーーっ」


と、すごく長いため息を付く。


コンコン‥


東さんが三人分のお茶を持って来てくれた。

蓮司は東さんに笑顔で会釈し


「ありがとうございます。」


と言った。


少しすると丹羽さんは切り替えた様に座り直し真っ直ぐに


「蓮司‥‥‥‥‥‥‥‥ すまん‥」


頭を下げる丹羽さん。



‥‥‥‥‥‥




「分かりません‥ 契約違反ですよね?‥」


「‥‥‥‥‥‥‥」



隣で口を押さえたまま状況を理解した東さん。


「‥‥‥‥上田には悪い事をしたと思っている‥‥」


丹羽さんはゆっくりと説明を始めた。


「マネージャーには管理者としての責任がある事は分かってるよな?」


「はい。だから今回の契約更新が必要だったと聞いています。」


「‥‥‥上田には、ご両親に誰のマネージャーをしているのかを口止めしていた。それだけじゃ無い。仕事内容の全てを伏せさせていた。」


「え?‥‥て事はご両親は凛が朝から晩まで何をしていたか本当に知らなかったって事ですか?」


「そう言う事になる。‥‥強制はしてない。」


「ただ、ETOのマネージャーとしてお前の存在を隠す義務がある‥‥」


「管理者契約‥‥ですか?」


Vision管理者契約とはクリエイターの不正や規約違反など会社の不利益にマネージャーが加担しないために作られた会社との契約。違反すれば重い処罰が待っている。


つまり丹羽はETOの存在を隠せと凛と管理者契約を結んたのだろう。

言わなくとも親に黙っておく様な圧があったに違いない。





「‥‥‥そうだ‥」


「研修期間に‥‥未成年にして良い契約ではないです!!」


「‥‥‥これもVisionの研修の一つだ‥それに実際親御さんに漏らした所で上田には何の責任も問わない‥‥正直期待してなかったし、未成年のマネージャーなんて無理な話しだからな‥」


「守ったんですね‥‥‥凛は辛くても契約を守るとは思わなかったんですか?」


「すまん‥‥甘く見ていた‥‥‥」


凛が家でどういう状況だったかは想像も出来ない。きっと辛い思いをしたはずだ。



「トップクリエイターを守るのは、かなりの経験と知識、忍耐が要る。その中でも歌姫ETOを守るってのは‥‥更に高いレベルで能力が問われる事になる‥誰にでも出来る訳じゃ無い‥‥何も表に出せないからな‥」


「今更どうだって良いです。僕には‥凛の換えは効きません。」


蓮司の目は恐ろしく冷たくなっていた。


「自社の利益を守る為か知らないですが研修で両親に無理矢理、隠し事をさせた訳ですね‥アホですか?‥決裂して当然の話しです!!」




「未成年の上田にはこれ以上俺達から手出し出来ん

‥‥‥‥‥三年くれないか?」

「海外から戻り次第、必ずウチで引き取る!」



「は?」



「海外?」



「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥チッ‥‥」


丹羽は項垂れたように頭を押さえ


「‥‥‥聞いて無かったのか‥‥

‥上田の親は今年から海外赴任だ。当初、上田だけを慣れた日本に置いて行くつもりだったがで状況が変わった‥‥‥‥‥」


「一人置いて行く事は出来ないと‥」


「連れて行くつもりらしい‥‥‥‥‥」





凛が不安がってた最悪のシナリオだった‥




「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る