51話 2-15 研修、最終日

 昼休み、教室には異様な光景があった。


窓際の角の席に異常に開けた空間。席には蓮司を挟み凛とケンの三人が弁当を開いている。


それを見守る様に遠目にクラスの生徒が取り囲み弁当を食べている。


「なんでバンケンまで居るのよ!」


バンケンとはケンの昔からの呼び名で伴内健一郎を略した呼び方だ。


「俺はお姫と飯食ってるだけだ!嫌ならテメェが席外せ!」


「アタシが外す訳ないでしょ!ご飯が不味くなるからアンタがどっか行って!」


ピリピリした間でクラスの視線を浴び弁当を食べている蓮司。


「はい!蓮司!お野菜も食べなきゃダメよ?」


唐揚げを口に運ぼうと開いた蓮司に横から、野菜炒めを放り込む凛。


「あ‥ぅんぐ‥‥‥‥」


すると蓮司が食べようとしていた箸の唐揚げをケンが咥え食べてしまう。


「‥‥‥‥ぅん‥‥んめ〜な!」


「あ!僕の唐‥‥‥」


ケンは自分の弁当からつまんだブロッコリーを蓮司の口に詰める。


「お姫!お野菜食べなきゃ大きくならね〜ぞ!」


蓮司はケンを睨みモグモグと咀嚼する。


「アンタの弁当はお腹壊すでしょ!!ほら!蓮司!吐いて!ペッ!して!」


凛は自分のハンカチを蓮司の顎に添え背中を擦る。


「なっ!!テメェの不味そうな弁当よりマシなんだよ!お姫!美味かったよな?」


蓮司はお茶を飲みハンカチで口を押さえ


「‥‥‥‥‥僕の唐揚げ‥凛が作ったんだけど?」


「‥‥‥‥え?‥‥ぁ、、」


睨む蓮司に目を反らすケン。


クラス中の心の声が


「WINNER 凛!」


とハモった。




お昼休みが終わり五時間目。


空には少し雲が出て来て風は湿っぽい匂いを連れてきた。

もうすぐ梅雨だ‥‥窓の外を見上げる蓮司。


横で席にはつまらなそうに片肘を付いて蓮司を見ているケン。

視線に気付いた蓮司が見るとケンはニッと笑う。


このイケメンなんか腹立つな!


‥‥‥??蓮司はケンのイヤホンに気が着く。


「何聴いてんの?」


蓮司は耳を指し小声で聞いた。


「ん?‥‥‥ニルバ‥」


「マジ??良いじゃん!」


蓮司の目が輝く。


「お!お姫!洋楽イケる口か!」


「酒豪のオッサンみたいな言い方やめ!」


「お姫は?」


「僕はリンパークだな〜‥」


「見かけによらず渋いな‥‥だが神だ!」


「だろ?じゃあレッセルは?」


「ダメだな!」


「なんで!」


「‥‥‥‥‥‥‥レッセルは勝てる気がする。

だからライバルだ!」


「‥‥‥勝てないだろ!じゃイスコール!」


「あれは勝てない‥‥ケンカしても勝てる気しない‥‥‥‥」


「アッハハ‥‥‥」




「‥‥‥‥‥‥‥‥‥ゴホン!!!」


日本史の先生の大きな咳払いで我に帰るとクラス中が二人を見ていた。

いつの間にか声のボリューム調整を忘れて普通に話していたらしい。


恥ずかしくて真っ赤に小さくなる蓮司の頬を前から凛がムニッと摘み「メッ!」と口パクした。





今日の授業が終わり、SHR前。凛の様子はおかしかった。

噛み合わない話しにカラ元気、目を離すと表情はすぐに強張る。



実はこの日


凛のマネージャー研修期間の最終日で放課後に凛の親御さんと契約内容の更新と確認をする約束になっている。


凛は普通を装ってはいるものの時間が経つに連れて上の空になる事が多くなってきた。


蓮司は凛を気遣うように背中をポンポンと軽く叩くと愛想笑いとも苦笑いとも取れる表情を浮かべる。

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