46話 2-10 お姫

 ブーッブーッブーッ!!


突然、着信で男子生徒は蓮司の膝枕から飛び起きる。


「‥‥‥‥?」


蓮司のスマホだった。相手は丹羽さん。


‥‥‥‥‥‥


「もしもし」


「おぅ!お姫!」


ばかデカい声の丹羽さん、蓮司は耳元から少しスピーカーを離した。


「うるさいです‥‥」


「すまん!昨日ちと忙しくて取り損ねた!」


丹羽さんの周りの騒がしい声や物音をスピーカーが拾う。


「僕も折り返しでしたので‥要件はなんですか?」


「あ〜‥なんだ‥‥っけ?」


「丹羽さん暇なんですか?」


「やかましい!どいつもこいつも!俺は激務だ!」


丹羽さんの後ろで女性のクスクス笑う声が聞こえた。


「あ!思い出した!お姫のトコのマネージャー‥‥誰だっけ?上〜」


「上田さんです。」


「あ~!それそれ!もうすぐ研修、終わるだろ?‥‥で‥どうすんだ?」


「どうするって?」


「決まってんだろ!正式採用するのかクビにするのかだ!」


「クビは無いです‥‥ただ‥少し迷っています。」


「迷う?」


「ええ‥‥東さんにも言われたんですがマネージャーと言う特殊な仕事と勤務形態を凛の親にどう説明すべきか‥‥‥」


「‥‥‥‥‥‥だろうな‥‥お姫は上田の親に会った事はあるか?」


「無いです‥‥‥」


「なので、大人なら分かりますが、僕みたいな子供が雇用に関して話をするのは、まともに取り合ってくれるのか心配で‥‥」




「‥‥お姫!来週空いてるか?」


「来週?‥‥‥大丈夫だと思います。」


「俺が一緒に行って説明してやる!」


「‥‥‥‥え?」


「東でも良いんだが相手がどんな人か分からない限り、ちと心配でな‥‥‥」


「‥‥そうですね‥では、お願いしても良いですか?」


「おう!また近い内に連絡するからよ!お姫は上田に軽く説明しといてくれね〜か?」


「分かりました。‥‥‥‥‥あと、今、僕 授業中なんで夕方以降の連絡の方が助かります。」


「ん?お姫って保健室登校じゃ無かったか?別に構わね〜だろ?」


「凛のお陰でちゃんと教室に通い始めました」


「‥‥‥‥そうか!有能なマネージャーだな!」


「僕はメールで伝えてもらっても構わないですが‥‥‥‥業務内容であれば社内に一斉送信しても怒られないのでは?」


「‥‥お姫‥‥‥‥‥‥それ誰から聞いた!」


「‥‥‥‥‥‥‥東ぁ〜〜〜〜〜〜〜!!」


あまりの五月蠅さに通話を切ってしまった。


隣を見ると、あぐらで片肘頬杖を付いてウトウトしている男子。


チラッと蓮司の膝を見たので慌てて体育座りでガードした。


「チッ‥‥‥はぁ〜‥」


「そんな残念そうにしないでくれる?」


蓮司の睨む顔は角度的に上目遣い、男子はスッと目を反らした。


伴内ばんない けん一郎いちろう


「俺の名前!ケンでいい!」


「今俺、謹慎中なんだよ!見つかったらメンドイし帰るわ!」


ケンは貯水槽の屋根からヒョイっと飛び降り


「じゃ〜な!お姫!」


「‥‥っ‥‥‥聞いてたのかよ!‥‥お姫って言うな!」


ケンはククッと笑いながら屋上から出ていった。


‥‥‥‥‥‥てか、この高さから飛び降りたの?バケモンじゃ無い?


蓮司は恐る恐る慎重にハシゴから降りていった。


キーンコーン‥‥‥‥‥‥


ちょうど四時間目が終わり、慌てて教室に戻る蓮司だった。

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