45話 2-9 膝枕
蓮司は誰も居なくなった教室の窓を少し見つめ保健室に行こうと階段を降りようとすると階段上からフワッと風を感じた気がして見上げる。
‥‥‥‥
「そう言えば屋上行った事無かったな‥‥」
蓮司は少し悪い事をする様な気分で辺りを見回し小走りに屋上に向かう。
屋上の少し重たい扉を開けると風が気持ちよかった。
高い所から見る自分の街はジオラマみたいに小さく見えた。綺麗だった。
広い屋上をゆっくり一周して景色を楽しむ。
さっきまでの音楽の授業に出られないという大きなショックが少し収まっている気がした。
ふと屋上入り口を見ると更に一つ上の貯水槽に行けるハシゴを見つける。
一番高い所から見たい!
蓮司はハシゴを登ると思ったより高かった。
降りられるか心配になりながら見回すと更に街は小さく見える気がした。
貯水タンクの横に座り風の香りを感じる。
ふと横を見ると人の足が見えビクッとする蓮司は恐る恐る顔を覗く。
赤茶色の髪の男子生徒が気持ち良さそうに寝ていた。
起きそうに無いので少しホッとして空を見上げる。
目を閉じゆっくりと息を吸い
‥‥‥‥‥‥‥
♪『Amazing grace! How sweet the sound! That saved a wretch like me! 』
『I once was lost, but now I am found; Was blind, but now I see.』‥‥‥‥‥‥‥‥♫
蓮司の歌う小さくも重厚感のある澄みきった歌声は風に流されて屋上に響く‥‥‥
‥‥自然に出て来たアメージンググレイス。
‥‥音楽か ‥‥クラスのみんなで歌いたかった‥‥
こんなに気持ち良く歌える新曲が出来たらな‥‥
気が着くと隣で寝ていたハズの男子生徒が遠い目で同じ方向を見ていた。
『わっ!ごめんなさい!起こした?』
男子は蓮司をジッと見る。
初めて見る顔は、誰もが見惚れるほどのカッコ良い顔だった。
「女?」
「‥‥‥‥‥‥‥‥ え?‥‥‥いゃ‥男だけど!」
「ふ〜ん‥‥サボり?」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」
「お前、歌スゲェのな!」
蓮司は真っ直ぐに目を見て言われた言葉に真っ赤になり
「ぁ‥ありがとう‥‥」
ネクタイもせず、Yシャツの裾は出し、ボタンも止めず下から真っ赤なTシャツで風貌は見るからに不良。でも、不思議と目だけは綺麗で優しそうだった。
「一年だよな?何組?」
「‥‥‥三組」
男子は少しびっくりして
「今、音楽の授業じゃね?出ね〜の?」
「‥‥‥‥‥‥‥」
男子は突然、蓮司の膝を枕に横になり
「出ね〜なら俺に歌ってくれ‥‥同じの‥‥‥」
蓮司はビックリして
「やめろよハズかしいだろ!」
「何が?」
「膝枕だよ!なんで男にさせてんだよ!アホか!」
蓮司は男子の頬をペシペシ叩き動かそうとするがこれ以上前に動かれたら下に真っ逆さまになる。
「‥‥‥‥‥‥‥」
男子は気にせず気持ち良さそうに寝息を立てていた。
『‥‥‥っもう!』
‥‥‥‥‥‥‥‥‥
♪『Amazing grace! How sweet the sound! That saved a wretch like me! I once was lost, ‥‥‥‥‥‥‥』
小さく歌う透明な美しい声は子守唄になる‥
そよそよと緩い風で子供の様に眠る男子の髪を少しだけ触る‥‥
僕の声をすごいと言ってくれた初めての男子だった
変な人だけど印象は良かった。
遠目に見ると膝枕をしているカップルのそれに見えるとは蓮司には思いも寄らなかった。
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