44話 2-8 思い出せない
リビングにはいつも通り朝食の支度がしてあった。心配そうに蓮司を見つめながら寝癖を整える凛、髪を解かされユラユラ揺れる蓮司の頭
「‥‥‥‥蓮司、落ち着いた?」
「‥‥‥うん」
蓮司は今日の夢で忘れていた大事な事を思いだそうとしていたが‥‥‥ぼんやりとしか思いだせない‥
はっきりと思い出せないが罪悪感だけが蓮司の気持ちを刺す、そして喉元まで思い出しかけたETOのウィッグが翠色な理由‥‥‥‥
蓮司は目を強く閉じ、まるで見たく無い物を避けるような表情になる。
凛は隣で黙って蓮司の頭を優しく撫でた。
「‥‥‥いただきます」
蓮司が朝食を食べていると、凛が
「今日は保健室登校にしようか‥」
「‥‥‥‥一人で居るより凛と居たほうが気が紛れる‥‥‥」
「‥‥‥そう‥無理しないでね?」
朝食を終え、着替えに自室へ戻るのも心配そうに目で追いかける凛。
視線に気が付き凛に目を向ける‥‥‥
ゆっくりと凛に近づき
『なんで昨日帰っちゃったの?』
切なそうなETOに思わず抱きつく凛
「ごめんね‥‥‥」
『ちょっと寂しかった‥‥‥』
ETOは小声でそう言うと速歩きで自室に着替えに行った。
着替えながら、蓮司の本音をETOに言わせた恥ずかしさがこみあげる。
蓮司が支度を済ませて出て来るといつも通り蓮司は凛にネクタイを直され
「お守り持った?」
「‥‥‥‥‥‥‥‥今日はいい‥‥」
「蓮司?」
「今日は要らない。」
蓮司は逃げる様に玄関を出た。
学校に着くと昨日と同様に女子生徒から
「江藤くんおはよう!」とあらゆる角度から声が飛んでくる。
元気の無い蓮司は薄い反応で会釈をする。
下駄箱で靴を履き替える時、パラリと紙切れが落ちてきた。
「‥‥‥‥‥??」
蓮司は首を傾げながら拾うともう一枚奥に入っていた。
‥‥
凛の方を見ると同じ様な便箋を三枚ヒラヒラさせ
「勝った!」
とゴミ箱にまとめて投げ捨てた。
蓮司の二枚も取り上げチラッと差出人を見るとまとめてゴミ箱へ‥‥
蓮司は心配そうに
「いいの?」
「いいの!いいの!いちいち相手にしてたらキリが無いって!」
凛はスタスタ教室に向かう。
「あ!蓮司ちょっと職員室に付いてきて?」
職員室に着いた凛は学年主任と何やら深刻そうに話していて、深く頭を下げていた。
先生は凛に向かって何か話すと嬉しそうに職員室から出て来た。
「行こ!蓮司!」
気になりはしたが、機嫌が良さそうなのでそっとしておく事にした。
教室に入るとシノが嬉しそうに凛に駆け寄る
「凛チャおはよ〜」
「おはよっシノ!」
「今日もラブラブ登校だねぇ〜‥」
小声でシノが凛をつつく。
「シノ!」
顔を膨らます凛に聞こえて無かった蓮司は不思議そうに凛を見る。
「江藤くんおはよう!」
「‥‥あ‥っと、おはよう篠原さん」
「シノで良いよ?江藤くん!」
シノはクスクスと笑っていた。
席に着くと凛が蓮司に
「そう言えば‥」
何か言いかけた時、突然横から
「え‥‥‥江藤!‥おはよう‥」
見ると蓮司より二十センチは大きいであろう男子だった。
彼は顔を真っ赤に直立不動だった。
教室のどこからか
「勇者行った〜〜〜〜!」
と、声がした。
「‥‥ぉ‥おはよう」
蓮司が返すと別の女子が蓮司に
「江藤くん、おはよう!」
と声をかけられ挨拶を返した。
勇者とおぼしき男子は既にどこかに消えていた。初めて男子が声をかけてきた事で忘れかけていた自分が男子だと言う事を思い出し慌てる
「あぶない‥‥」
今日も平和に学校生活がスタートした。
午前中の三時間目までは無難に勉強に集中出来た。やっぱりクラスでの授業は楽しい。
今日の四時間目は移動教室だ。
その前の休み時間中に凛は蓮司を階段に引き連れて来た。
「蓮司!」
「何?」
「次の時間‥‥さ‥」
「うん!音楽だよね!楽しみ!」
満面の笑みの蓮司に
「保健室に行ってて?」
「え?」
「ごめん蓮司、音楽はETOを庇いきれなくなる‥‥見つかると‥学校が大変な事になる‥‥‥」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」
「‥‥うん‥‥‥‥分かった‥‥」
悲しげに俯く蓮司
キーンコーン‥‥‥‥‥
始業のベルで凛は申し訳無さそうに走って音楽室に向かって行った。
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