43話 2-7 寂しさとスランプ
18時半過ぎ、早い夕飯を済ませた蓮司は一人。
久しぶりにお気に入りの音楽や本を楽しんだ。
凛は夕飯を温めると見送りは要らないからと、まだ明るい内に帰宅した。
冷蔵庫には遅くに帰って来る母さんの食事も用意してあり添えてあるメモに、すみれさんお疲れ様。と書いてある。
‥‥‥‥‥‥‥‥‥
普段なら21時過ぎまで蓮司と居る凛だったが今日はどうしたんだろう‥‥
スマホを覗く蓮司‥‥
何週間も前が最後のメッセだった履歴を見ていた。
‥‥‥寂しい?
姿見に映るETOの顔は元気が無かった‥
蓮司は振り払うように自室から作曲室に移動する。
最近、新曲の制作を夜遅くまでしていたが上手く行かない‥‥‥
あのステージで、僕の歌が何千、何万の人を熱狂させていると実感してプレッシャーを感じているのかも知れない‥‥‥
みんなをガッカリさせたくない‥‥
今までは何万のイイネが付いてもただのコンピューター上の数字でしかなく、他の周りなど気にしないで気ままに作曲出来ていた。誰がどう感じようがどうでも良かった。
所詮ETOのハケ口でしか無いと思っていた。
キーボードを好きに叩いてみる‥‥‥
好きに歌ってみる‥‥‥
‥‥‥‥‥‥はぁ‥‥
「‥‥‥凛‥」
‥‥‥‥‥凛か‥思わず口に出た言葉に妙に納得してしまう。
新曲が出来る場合、大抵思わず出る言葉がキッカケになったりする。
今回は凛の為に作曲したい‥‥‥分かってた‥でも出て来ないのは自分が今の凛との関係、距離感に満足しているからかも知れない‥満足出来ているパターンから曲が出来た試しがない。
凛に会いたくて寂しくなっても明日には凛が家に来る事が分かっているから‥‥‥もうひとつ歌の出てくるパンチが効かない。
「はぁ〜‥‥」
初めてのスランプかも知れない‥‥もしくは、まだその時では無いか‥‥‥
リンちゃんに作曲してみるのはどうか‥‥‥
これで失敗した記憶は無い‥‥‥
手書きで楽譜を雑に作る。出だしさえ出来ればあとは感性で勝手にレールが出来、滑らせるだけでいい!‥‥‥‥いいぞ!そうだ!
‥‥‥‥‥‥‥何時間経っただろう‥‥‥
楽譜は破り棄てられていた‥‥
リビングから物置がした。時計を見ると夜中の1時を指している‥
一階に降りると母さんが既に寝る直前だった。
「あら、れんくん起こしちゃった?」
「んーん‥‥」
「作曲してたの?」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」
「行き詰まってるんだよね‥‥」
母さんはお茶を入れてくれた。
‥‥‥‥‥‥‥‥
「凛ちゃん?」
「‥‥‥‥‥‥なんで分かるの?」
「ふふっ‥」
「母さん‥‥‥‥ あの‥‥‥」
「やっぱ、いいや‥‥‥おやすみ!」
お茶を一気に飲み干した蓮司は自室に戻って行った。
また小さい頃の夢だ‥‥‥‥
今は無い近所にあった雑木林?リンちゃんに連れられて良く遊んだっけ‥‥
木登りや虫取り、そして歌ったりそれに合わせてフワフワ踊る可愛らしいリンちゃんも覚えている‥‥‥‥
なんだろう‥‥‥‥胸騒ぎ‥‥‥
「えとくん見て!ここ通れる!」
「通るって‥‥怖いよ‥‥‥‥」
リンちゃんは低い木の枝に全身でぶら下がり緑の曲線を作る。子供が一人通れる小さなアーチだ。
キシキシと音を立てる。
「じゃあ代わって?リンが通るから!」
「僕の力じゃむりだよ‥」
「大丈夫だよ!一緒にここ掴んで?」
ダメたよ‥‥‥‥‥‥‥‥
リンちゃんが掴んでいた隣の葉っぱの塊を掴む蓮司
やめてくれ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
「持っててね!」
やめろ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
リンちゃんが手を離した瞬間、蓮司は足を滑らせた。
枝はバリバリと音を立てムチの様にしなりリンちゃんを襲う。
「リンちゃん!!!」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥じ!!!」
「蓮司!!」
「大丈夫?」
目の前には泣きそうな顔の凛がいた。
蓮司は浅く早い呼吸で目に涙の跡があった‥‥‥
蓮司の頭を抱える様に撫でる凛とそれにしがみつく蓮司‥‥
慌てて入って来たのが分かる開いたままの扉と脱げた片方のスリッパ。
閉まったままのカーテンの隙間から朝日が溢れていた。
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