40話 2-4 付き合ってる?

  完全にタイミングを失った。


午後の授業も蓮司は教室にいた。


昼から保健室に戻る予定が大人数の女子に囲まれ質問責めに合い横で質問を上手く捌く凛は流石にマネージャーだった。


授業中、窓から入る涼しい風が満腹の蓮司の眠気を誘う。


英語の先生の微妙な発音はあまり蓮司の耳に入って来る事は無かった。



「‥‥‥‥‥藤さん」


「‥‥江藤さん!」


ハッ!と気が付くと英語の先生が蓮司を呼んでいた。


「この英文を読んでみて?」


黒板を指差す。





『I know the man standing over there.』

(あそこに立っている男性を知っています。)




蓮司は黒板を読みながらその文章に誰やねん!と突っ込みをいれる。



先生は読み終わると蓮司を見て固まり、クラス全員も蓮司を見ていた。


何?


前の席から凛がノートの切れ端を蓮司の机に置く‥‥‥


切れ端にはメモが

ETOでそのネイティブ発音はマズい!

と書かれていた。


蓮司はサッと下を向き無意味に教科書をめくり誤魔化した。


普段、ETOで英語の歌を歌っている蓮司はぼんやりしていた事もあり無意識にETOを出してしまっていた。



ハリウッド女優のような声と発音は誤魔化しが効かないレベルだったようだ。


そもそも英語の授業を受けた事か無く独学で得意だった蓮司に高校生レベルの英会話など知るよしもない訳で‥‥



翌日から外来種のツチノコと呼ばれていた事に蓮司は気付いていない。




結局

その日は教室から出る事が出来無かった。


放課後になっても蓮司を見に集まる女子は後を絶たない。


「行くよ蓮司!」


凛は捕まるとキリが無い女子の間をすり抜け蓮司を連れて生徒玄関へと向かう。

時折聞こえる「江藤くんバイバイ!」

蓮司は受け慣れない声掛けにいちいち反応しニッコリと会釈しキャーキャー悲鳴を浴びせられる。


生徒玄関の下駄箱で靴を履き替える時、凛の所に女の子が駆け寄ってきた。


「凛チャ途中まで一緒に帰って良い?」


シノが、遠慮がちに凛に聞いてきた。


「シノ!良いよね?蓮司!」


「うん良いよ」


彼女は篠原さん。見た目はそんなに目立たない人見知りっぽい感じだ。凛と同じ中学校卒業でずっと仲が良かったらしい。


三人は凛を挟んで下校した。


「久しぶりに一緒に帰るよね~凛チャ」


「そだね〜!最近ずっと蓮司と帰ってたし」


「‥‥‥‥‥」


シノはクルッと蓮司と凛の前に立ち塞がり二人の顔を交互に見て


「‥‥‥‥二人 ‥‥もしかして付き合ってる?」


いきなりの言葉に蓮司と凛は咄嗟に距離を取り


「「ない!ない!」」


同時に顔と手をブンブンと横に振る。


「え〜〜!見てると凛チャの距離が異常に近いんだけど?お弁当だって凛チャが作ったんでしょ?江藤くんにあげてたし。卵焼きあ~んしてるのも見た!」


「‥‥‥あ!っと‥‥‥ん~~‥‥」


言い訳出来ない現場を見られており凛が言葉に困っていた。


マネージャーの件とETOの事は話せない‥‥


「‥‥っと僕のせいだよ‥」


蓮司が話す


「僕がご飯をあまり食べないから凛が、わざわざ作ってくれてるんだ。おせっかいだから普通に食べさせたりあるっていうか‥‥」


「っ!そうそう!蓮司ご飯食べ‥なくて‥‥‥」


く‥‥‥苦しい‥‥

言い訳にもなってない‥‥


ジッと見るシノから目を反らす‥


「まっ、良いんだけどね!」


凛の隣に並び歩き出すシノに二人はホッと胸を撫で下ろす。


その後、三人は何気ない雑談をしながら帰った。


シノは駅前で二人に


「私、電車だから!また明日ね」


笑顔で手を振る。


「うん!また明日!」


凛と蓮司も手を振って別れた。

少し歩いた所で凛が蓮司の耳元でコソッと



「ちょっとヤバかったね‥」


「だね‥」


「‥‥‥‥‥」


二人が寄り添ったように帰る後ろ姿を見てシノは


「‥‥‥‥。 凛チャ‥‥‥‥」


少し悲しそうな目で見つめていた。



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