39話 2-3 ETOの破壊力

 ようやく乗り切った午前中の授業。

担当教科の先生は漏れなく蓮司を見ておなじリアクションで固まった。



凛は授業疲れでグッタリしていたがもっと疲れる事が‥‥


学年恒例の新顔、またはツチノコ見学会。


3組の教室前には蓮司を見にものすごい人集ひとだかりが出来ていた。


蓮司は困った様に廊下を見ると複数の女子生徒の悲鳴が上がる。


なぜ悲鳴か分からないと首を傾げると


凛が少しムスッとお弁当を二つ取りだし蓮司に箸を渡しながら‥‥


「あれが黄色い声援よ!」


「は?」


「蓮司、自分の顔が怖いとか思ってる?」


凛は前のめりに蓮司の耳元で


「顔出してるとETOでしょうが!メイクしてないからバレて無いだけ!」


そう言う事か‥


「やっぱご飯食べたら保健室行くよ」


疲れた様に蓮司が言う。




その時、



「あなた達!昼食の邪魔なの!」


「見世物じゃないのよ!」


「帰りなさい!」


廊下側の窓と扉を次々と閉めて行く。



学級委員長の森永さんだった。



普段は怖いっぽいけど、こう言う時は物凄く心強い。



ふと気づくと数人の女子生徒が蓮司と凛の周りにいた。



「私達も、お昼一緒に食べて良い?」


凛は蓮司の様子を伺う。


『どうぞ?』


凛は瞬間的に卵焼きを蓮司の口に詰めた。


「みんなで食べよ?」


凛が言うと女子生徒は顔が緩み二人の周りに集まってきた。

凛は横目で蓮司を見ながら声を出さずにETO!と口パクで注意をうながした。


おそらく蓮司は女子が多いと自己防衛的にETOを出すのかも知れないと凛は察した。


女子の中には女子で居た方が目立たないと思っているのかも知れない。


ニコニコと愛想笑いを浮かべてお行儀良くお弁当を食べる蓮司は、まさにETOだったが女子の中に溶け込むというより女子として際立っていた。


そして、こじんまりと可愛らしいお人形フォルムは、女子のお気に入り‥‥


「凛?食べないの?」


「‥‥うん!食べるよ!」


ニコッと笑う蓮司は周りの女子から穴が開くほど見られている。


正直こうなる事が分かってはいたが、ちゃんと学校生活を送らせてあげたいと思う凛の気持ちが揺らぐ程のETOの破壊力。


蓮司を見慣れた凛の感覚が麻痺していたのか‥‥‥


凛はETOがバレて大騒ぎになる前に何とか手を打たねば本当に蓮司が学校に来れなくなるかも知れないと、焦りと不安を抱えるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る