二章 翠色の歌姫

37話 2-1 プロローグ

 ピンポーン


「おはようございます〜!」


すっかり空気も暖かくなりブレザーの要らない陽気になっていた。


玄関からニコニコと顔を出す蓮司の母、すみれさんはバッチリスーツを着こなして仕事に出かける所だった。


「おはよう凛ちゃん」


「いつもありがとね。れんくんまだ寝てるけど後お願い出来るかしら?」


「任せて下さい!」


ニッコリと笑う凛


家に上がった凛と入れ替わりですみれさんは玄関でパンプスを履くと両手を広げクルッと回る。


「どう?」


「バッチリです!すみれさん!」


「ありがと〜今日も凛ちゃん可愛いわ!」


「じゃ、行ってきます!」


「いってらっしゃい!」


すみれさんは玄関を出て扉を閉める時、ヒョイっと顔を出しニヤニヤしながら手を振り


「今日も帰りが遅くなるから、れんくんの事よろしくね?」


凛はニヤニヤの意味が分からずヒラヒラと小さく手を振りながら苦笑いで首を傾げる。


最近はこのやり取りが日課のようになっていた。


凛は真っ直ぐにキッチンに向かうと手際よく料理に取り掛かる。



しばらくすると家中に朝食の良い匂いが漂う。



テーブルの上には二つのお弁当箱。



「出来た!」




トットットッと階段を登る音




勢いよくカーテンを引き窓を開けると部屋一杯に朝日と若い葉っぱの香りを取り込む。



「蓮司!起きて!」


トントンと肩を軽く叩く。



「ん~~‥‥」




蓮司は目を閉じたままフラフラと立ち上がり部屋を出る。



「ほら!蓮司!ちゃんと前見て!」


寝起きの悪い蓮司はこの状態で放おって置くとよく階段を踏み外す。



凛は寝ぼけた蓮司を慣れた様に一階まで誘導すると洗面所に押し込みパタパタとリビングで朝食の準備をする。




しばらくすると歯磨きと洗顔を済ませた蓮司がトイレから出てきた。



ぼんやりまだ眠そうな蓮司はリビングのソファーに寝転がる、凛は蓮司の隣に座りボサボサ頭を撫で頬をムニムニと突付く




「蓮司!朝ごはん出来たよ?」



長いまつ毛でゆっくりとしたまばたきの蓮司ど目が合う。



「おはよう蓮司」


「おふぁよ」


「起きた?じゃ‥いつもの!」



凛はゆっくりと顔を近づけ‥‥‥










「ETO!おはよ!」






返事がない‥‥


「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥そう‥いい度胸ね‥」




凛は素早く蓮司の服を脱がそうとパーカーの裾を掴む。蓮司は慌てて飛び起き凛と距離を取る





※『おはよう凛ちゃん‥今日も美人よ?』




凛フィルターの掛かるETOはキラキラの超絶美少女スマイルでニッコリと微笑む。




「や〜ん!ETOちゃんおはよ〜〜!初めから素直にしてればいいのよ〜」

「これがなきゃアタシの朝は始まらない〜」



凛はETOに抱きつき胸元に頬ずりをする。




『っ‥‥‥ちょっと凛! ‥もっ!‥‥離れて!』




ETOは真っ赤になり凛を引き剥がす。

凛はETOに肩を擦り寄せ


「朝食はETOのリクエストのトーストとコーヒーとスクランブルエッグだよ?」


「食べて学校行こ?」




『私、スムージーが良かった‥‥‥』



ソッポを向き再びソファーに寝転がる‥‥‥‥



‥‥‥‥‥‥‥‥




「蓮司!‥‥‥‥ヤなの?」





すぐさま蓮司は飛び起き朝食の並ぶテーブルに座ると




「うわぁ~‥美味しそう!」




わざとらしく目を輝かせる。

凛は寝癖直しのスプレーを持って蓮司の隣に座ると


「良いから早くたべる!」



髪を解かされる蓮司の頭が小さく揺れる。



蓮司はパリパリとトーストを食べながらコーヒーを飲む。



「‥‥前髪が無きゃ落ち着かない‥‥‥」



不満そうに言うと


「今日から教室に行くって約束でしょ?」


「第一印象は大切なの!ちゃんとして!」



凛は蓮司の髪をキレイに纏めて覗き込む。



「‥‥‥‥‥‥‥」




「‥‥‥‥??」



トーストを加えた蓮司と目が合う。


どんな髪型にしても美少女な蓮司に見惚れる凛。

ちゃんとしろと自分で言った手前、目立ち過ぎる美少女蓮司にやり過ぎた感があり、思わず前髪をクシャクシャ!と崩す。



「あっ‥ちょ何!」



‥‥‥‥まぁ乱れた前髪はそれはそれで反則だった。



食べ終わってダラダラする蓮司を凛は部屋に戻し支度をさせる。

その間、凛は戸締まりや火元の確認を済ませておく。



支度を済ませた制服姿の蓮司が玄関に来て



「やっぱ、明日から教室行く‥‥」

「ダメ!」

「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」




二人で玄関で靴を履くと凛は蓮司の制服のネクタイを整える。


「あ!お守り持った?」


蓮司はバッグから先日届いた真新しい翠色のウィッグを取りだした。


今まで長く使っていたウィッグは照明焼けや劣化で黄緑色に色落ちしていたが、本来は鮮やかな緑色だった。



蓮司は大事そうにバッグにウィッグをしまう。




「じゃ!行こっか蓮司!」




この凛と、蓮司と言う天才歌姫ETOを宿した二人の朝のルーティンはお決まりになっていた。




凛のマネージャー研修期間は

もうすぐ終了期限の一ヶ月が経つ。元々体育会系で体力があり、手先の器用な凛には『蓮司のお世話』はお手の物みたいでマネージャーとしての才能もメキメキと発揮していた。



蓮司とETOにちゃんと学校生活を送らせてあげたい!とリハビリでは無いが根気強く寄り添う事でようやく教室に入る一歩目が見えてきた。






あの歌コンから一ヶ月。



ここから新しい物語がはじまる。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

らくがき


にじむです。


いつも応援してくれている皆様、ありがとうございます!


二章【翠色の歌姫】も

よろしくお願い致しますm(_ _)m

           ↓↓↓↓


※『』中抜きの蓮司のセリフはETOモードです。

二章以降「蓮司」と『ETO』のモード切り替えが多数存在します、それを踏まえ物語を読んで貰えるとお楽しみ頂けます。




近日中に登場人物のプロフィールを近況ノートに書いて行きます。

そちらを見て頂くと、より分かりやすく読めると思いますのでぜひ!


更新日

 2/9

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