第35話 歌姫誕生の秘話 番外編1

 Vision動画 東京支部



慌ただしいオフィスに社員の声が響く


「丹羽部長!2番リエルさんです!」


丹羽は面倒臭そうに2番の回線電話を取った。


「丹羽さん!!」


リエルの大声。受話器を離す丹羽。


「なんだ、やかましい!」


「丹羽さんいつになったらアユを紹介してくれるの?」


丹羽は面倒臭そうに


「忙しいんだよ!」


「ウソ!どうせ変な女の動画とかチェックしてたでしょ!」


丹羽はギクッと図星な顔で


「うるせぇ!アユが忙しくて無理に決まってんだろ!」


「‥丹羽さんは暇だったんだ‥変態!スケベ!!」


ブツッ電話が切れた。



「何なんだ一体‥」


受話器を投げ置き、使い古されたイヤホンを片耳にねじ込む。


横から


「部長、これチェックお願いします!今日中なんで!!」



「あいあい‥」



聞いてない感じの生返事。スマホで動画を見ている。



「ETO‥登録者17人‥か‥」



丹羽は小さく呟く。


女子社員の会話がヒソヒソと聞こえる。



「丹羽部長って大丈夫ですかね‥毎日あんな感じですけど‥」


「大丈夫じゃない?リエルをスターに引き上げてV動画をメジャーコンテンツにした人だし、噂じゃ

元ネオ(NEOTUBE)の社員でアユをスターダムに押し上げた敏腕プロデューサーらしいわよ」



「本当なんですか?ネオの社員とか超エリートじゃないですか!‥‥でもなんで、こんな小さいV動画なんかに?」



「まぁ‥噂でしか無いけど‥‥アユと付き合ってたとか、ネオを乗っ取ろうとしたりとかで飛ばさ‥‥」

「そこ!!くっちゃべってないで仕事しろ!」



「「すみません!!」」



女子社員はそそくさと散って行った。


「東!ちょっと来い!」


「はい!」


丹羽のデスクに駆け寄る東。


「‥お前、これどうやって見つけた?」


東にスマホを向ける丹羽。


「あ!ETOちゃん!見てくれたんですか?」

「まだ出来たて生まれたてチャンネルですけど、歌!良いでしょ〜!」



丹羽は手に持った書類でポスッと軽く頭を叩く


「質問に答えろ!」


「聞いてもつまんないですよ?」


「良いから!」



「え〜っと‥こうやって動画サーフィンしてます‥」


東はスマホを指でサラサラとスワイプさせた。



「‥お前、担当は?」


「ネルキプですけど‥」


「ネルキプも同じように?」


「はい‥」


丹羽は少し驚いて思った。

こいつ‥耳が良いのか?直感が良いのか‥ネルキプだってプロを隠した息抜きチャンネル‥



「東‥ETOを担当するか?」



東は苦笑いして、


「いやぁ‥ETOちゃんまだ小さいですからまだ先ですけど‥いつかやりたいですね」


丹羽は少し笑った。





時計を見た丹羽は

「ちょっと出てくる!東、この書類に俺のハンコ押しとけ!」



オフィスから出ていく丹羽。


「え!!ちょっと部長!これ部長が見てハンコするや‥つ」


丹羽がドアから顔だけ出して、


「誰が押したって変わんね〜だろ!」


丹羽は行ってしまった。

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