第34話 幕間3 僕はETO‥

 凛は突然立ち上がり蓮司に向かって強くお辞儀をした。


「‥‥やります‥‥‥‥マネージャーやらせてください!」


蓮司は困惑して


「あ‥‥ぃや‥‥‥頭を上げて?凛‥‥‥」


凛はそのままの体勢で


「違うの!‥‥今日の歌コンで自分の無力さを知ったの‥‥悔しかった‥‥アタシはただのETOのでしか無かった事が‥‥」


「昨日まで蓮司のマネージャーは正直楽しくて‥‥ずっとこのままで良いと思ってた。」


「おせっかいなアタシに向いてると思った。」


「でも‥‥‥ETOは違った。蓮司なのに、蓮司でもあるのにマネージャーとして付き添っていたのは東さんや丹羽さん‥‥」


「カッコ良かった‥‥」


「そして今の話を聞いて分かったの‥アタシに足りないのは蓮司が困っている時に一歩踏み出して寄り添える強い責任だって!‥‥それだけが足りない訳じゃ無いけど‥‥‥」


見ていられなくなった母さんが凛の横に来てお辞儀したままの肩を優しく抱き上げ椅子に座らせた。


「‥‥‥‥‥蓮司君?」


東さんはニコッと笑い蓮司の言葉を促す。


蓮司はお茶を一口飲み口を潤すと



※『私も凛に寄り添って良いのかしら‥』


ETOの声だった


凛は驚いて見つめる。


『私は蓮司を苦しめて来た存在‥‥あなたに会う前の蓮司は私を消したくて、隠したくてたまらなかった。』


『私は動画の中でだけに許された存在』


『それで良かった‥』


『でも‥あなたと出会って‥蓮司として触れあって行く内に変わってしまった。』


『私も友達が欲しいって。』


『蓮司は無意識にあなたの前に私を出したわ。』


『‥‥‥覚えてる?凛と初めて行ったカフェ‥』


『あなたは蓮司に女子力が高いって言ったの‥‥』


凛は思い出した。あの時の感覚は蓮司とではなく女性と食事をしている感覚だった事を‥‥


『あの時、凛が私に気付いてくれて‥‥嬉しかった‥‥』


『変よね‥‥男なのに‥女の声‥‥‥』


「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」



「変じゃないよ‥アタシからしたらETOを隠していた蓮司がずっと変。」


「言ったじゃん!蓮司の過去なんか興味無いって!今、蓮司とETOが共存してる!それがアタシの普通だし何より大切な事なの!二人ともアタシの友達でETOはアタシのアイドル!」


「ダメ?」



「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」



不器用ながら気持ちの伝わる言葉‥‥

凛は初めから言ってた。過去じゃない今を大切にしたいと‥‥

そして今、『蓮司だけ』『ETOだけ』じゃない、二人まとめて一人の人間だと‥‥‥

僕の抱えていた辛く暗い過去はETOを分離する事で楽になっていたつもりだった。

辛い気持ちはETOに押し付ける事で、蓮司は直接痛みを受ける事でお互いを守っているつもりだった。

僕は男だと安っぽい虚勢を張っていた。


普通ってなに?


切り捨てて良い存在なんて無い。

二人でも普通だよ!




蓮司は涙を流していた。

大粒の涙を‥‥‥


「ねぇ‥‥凛‥‥‥‥  僕はETOでも良いのかな‥‥‥‥」


凛は蓮司の手を強く握りしめ


「うん!」 


凛は蓮司の顔にグシグシとハンカチを押し付け満面の笑みだった。


蓮司は立ち上がり深いお辞儀で



「僕の‥‥‥‥僕らのマネージャーに‥‥

なって下さい‥‥」



東さんと母さんもそれを見て涙を拭い


「良いマネージャーさんに巡り会えたわね!」


と母さんが僕に向けた笑顔は小学校以来見ていなかった母さんの素の笑顔だった。


「きっと、私や丹羽部長よりずっと凄いマネージャーになるよ!」


東さんは凛の頭を撫でた。





凛はニッコリ笑い


「二人とも甘やかさないから覚悟して!」



『‥あんまり厳しくしないで?』



凛は一瞬デレッとなるもプイッとソッポを向き

「アタシは丹羽さんじゃ無いからその手は通用しません!」


江藤家に久しぶりの大きな笑い声が響いた。



後日、ETOはVision動画の正式雇用に、凛は正式なマネージャーになる為の手続きを始めるのだった。







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らくがき


  にじむです。



打ち明けた蓮司と受け入れた凛。


ETOを守る仲間として、これから新しいストーリーが始まります。


次回

  番外編・【歌姫誕生の秘話】を二話分、公開します。表に出なかった裏設定のストーリーです。


新章まで少しお待ちください。




※『』中抜きの蓮司のセリフはETOモードです。

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