第32話 幕間1 〜それから。

 「ここで大丈夫です。」


家の近所の公園横にハザードを付けた車が止まる。

丹羽はビジネスバッグからA4サイズの封筒を取り出し


「これは親御さんに見てもらえ。後、分からない事は俺か東に連絡すると良い。」


「あまり期待しないで下さいね。」


「蓮司か車から出ようとすると」


「マネージャーにどれ位、払ってるんだ?」


蓮司は丹羽が何を言ってるのか分からなかった。


「何を?」


「お姫のマネージャーって無給でやってんのか?」


「‥‥‥‥‥‥」


考えた事も無かった‥


「チャンネルに収益が発生しない内はゴッコ遊びでも構わんが、お姫の場合は違うだろ?今後お前がマネージャーとちゃんとやって行きたいなら話をしろ!分からなければ、その為の相談ものる。」


「‥‥‥‥‥じゃ無ければサッサと縁を切れ!」


蓮司は丹羽を睨みつけた。


「今まで散々見てきた‥‥‥最初は仲良しチャンネル‥‥だが、金が絡むと人は変わる」


「本人じゃ無くてもだ!お前らのお遊びに金が絡んでると分かった途端、相手の親御さんの目は変わる‥‥」


「お前を知らない大人は居ないと思え‥‥」


「そして、お前に対しての他人のイメージは金を産むという事‥‥‥」


「丹羽さんもですか?」


「何も産まないヤツに莫大な資金を賭けてマリンドームを用意したりはしない。」


「‥‥‥‥‥‥」


「何も知らなかったろ?これは現実だ!

‥‥‥だから俺達がいる‥‥守れる!」



蓮司は自分の置かれている立場に怖さを感じていた。


「丹羽さん‥‥また、連絡していいですか?」


「いつでも良い‥連絡しろ!」


「‥‥はい、お疲れ様でした。」


疲れた‥‥‥


蓮司は車を降りると疲れ切った感じでフラフラと帰った。

家に着くと鳴るスマホ、もう取る元気も無い。

そのままベッドに倒れ込み眠ってしまった。




何時間経っただろう。

蓮司はリビングの騒がしい声で目が覚める。


スマホを見ると19時を過ぎていた。外はもう暗い。ぼんやりしているとリビングから母さんと話す聞き慣れた声‥‥‥


蓮司は目を見開き飛び起きる!



凛だ!!



なんで?


リビングに降りるとテーブルで食器を出す凛とキッチンで並んで料理をする母さんと東さん。


その光景を呆然と見ていると凛が蓮司に気付いた。


「あ!蓮司、起きた?」


「おはよっ」


東さんも洗った手を拭きながら、


「お邪魔してます蓮司君。」


「はぃ‥‥‥え?母さん?これ‥‥」


凛は蓮司の腕を引っ張り


「座って!」


とテーブルに座らせる。


「いやいや、なんでウチにいるの?」


凛と東さんを交互に見る。


凛は自分のスマホを差し出して蓮司に掛けた大量の発信履歴を見せた。


「ずっと出ないから心配で家まで来たのよ!」


頬を膨らます凛。


東さんも腕を組み


「部長は部長で家の近くで落として来た!って言うし!ちゃんと家まで送らなきゃ危ないの!何の為に囮まで使ったのか分かんないでしょ!」


「そうよ!朝からナンパされたのもう忘れた?」


「「二人して危機感が無さ過ぎ!」」


「ごめんなさい‥」


それを見てニコニコ笑う母さん。


「さ!れんくんも起きたし冷めない内に夕飯にしましょ!」


久しぶりの賑やかな自宅のリビングにホッとするような感覚があった。

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