第27話 不安だった‥‥

 東は出てきた蓮司に「そのままメイク室に案内します。必要な物は全てこちらで準備できますので。」


「‥‥‥‥すみません。どうしても必要な私物を取りに行きたいのですが」


「分かりました。メイク室はあちらです。私は丹羽部長と少し打ち合わせしてメイク室に向かいます。」


蓮司は控え室に向った。


「蓮司〜!」心配そうに蓮司を探し回る凜。


「凜!」駆け寄る蓮司。


「どこ行ってたのよ!探したし‥ あ‥‥ウィッグは?」


「ごめん、あれで男子トイレは目立ちすぎたから‥」


蓮司は手に持っていた金髪のウィッグを凛に手渡した。



「だよね~」


凛はケラケラと笑った。


「あ!聞いた?運営さんが必要な物、全部用意してくれるんだって!まさか蓮司ってVIP?ちょっと手厚すぎじゃない?」


ギクッとする蓮司、ここでも天然で核心をクリティカルヒットさせてくる。


「ハハッ‥まさか」

蓮司は苦笑いするしかない。


「用意してくれるのは聞いたけど‥‥‥凛の衣装を借りられる?‥‥凛の衣装で出たいんだ。」


「‥‥‥良いけど運営さんの方が良い衣装を揃えてくれてるんじゃない?」


蓮司は黙って首を振る。


「‥‥分かった!じゃ、はいっ!これ!」


凛から大きな紙袋と自分のバッグを受け取る。


すると突然





「‥ごめん」





凜は蓮司の袖をギュッ掴みひたいを蓮司の肩に押し付けた。


「‥‥‥蓮司、帰って来なかったから‥歌うの怖くなっちゃったのかって思って‥不安だった‥」


凜はうっすら涙が滲む。


「ごめんね、もともと歌わない、目立ちたく無い蓮司をアタシのワガママに付き合わせちゃったから‥」


袖を掴む凜の手が震えていた。


「凛?ちがう‥」


蓮司の声に被るように「エトウさん!」


後ろから来た東が呼びかけた。


凜はスッと袖から手を離し


「頑張って!ここで待ってる!」


鼻をすすり頑張って作った凛の笑顔は目元が赤くなっていた。

蓮司は凛を見つめながらゆっくりと数歩後ずさり何か言いかけた言葉を飲み込むと、東さんの誘導で速歩きでメイク室に向かうが、急に立ち止まり‥


凜に向かって走り出し凜の手を掴む。


「東さん!マネージャーを舞台袖に案内して下さい!」


蓮司は凜を引っ張り走り出した。


呆気に取られる凜。

蓮司は東さんの横で凜の手を離すとそのまま振り向かずメイク室へ向かい扉を開ける前にサングラスを外し小さな声でスイッチが入る。



※『行くわよ‥』




メイク室に入るのを見届けると東は凛の肩にそっと手を添えて


「マネージャーは関係者だからね?そばで‥一番近くでちゃんと見てあげて?」


と東は凜にニコッと笑った。




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※『』中抜きの蓮司のセリフはETOモードです。

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