第20話 すぐ近くにいた光

 蓮司はスマホを見て目を疑う‥‥


『 エトウ リン様

この度、【Vision動画】企画による歌コン 一般の部にご応募頂きありがとうございます。当社による厳正な審査結果、エトウ様の歌コン出場が決定致しました事をご報告いたします。詳細は‥‥‥‥』


蓮司は思わず周りを見渡し足早に自宅に向かう。

実は、凛に黙って新しいメールと動画アカウントを立ち上げ、修正した凛の動画で応募していたのだ。


全く期待していなかったが、それが通過してしまった。


うそだろ‥‥‥


翌日の放課後、保健室に凛を呼び出していた。

別に呼び出さなくても凛は毎回迎えにくるのだが‥


「あの‥‥凛さん‥お話がありまして‥」


凛は蓮司の目の前に座り首を傾げ


「どうしたの?改まって」と聞き返した。


蓮司はゆっくりスマホを凛に向け昨日届いた歌コンの審査通過の画面を見せた。



「‥‥‥‥‥‥‥‥」


「なぜか出場が決まってしまいまして‥」


凛は信じられないという顔で口元を両手で押えると


「えぇ!!すごい!いつの間に応募したの!!」


「え〜!どうする?!てか蓮司歌えたの?」


「何歌うの?」


と言葉が渋滞気味に興奮する。 


「待って!凛、ちょっと落ち着いて?」



「‥‥‥出るのは凛だよ?」



蓮司は審査通過した動画を凛に見せた。

全く違う声で歌う凛の動画をしばらく黙って見てゆっくりと笑顔が消える。

突然‥


「バカにしないで‥‥」


凛は蓮司にスマホを突き返し、表情はものすごく怒っていた。

凛は当然喜ぶと思い込んでいた蓮司は真逆の反応に驚き自分の顔が引きつるのが分かった。


「‥‥‥‥‥」


「ご、ごめん‥‥その‥凛が‥ETOに会えるかも知れないって頑張るから‥応援したくて‥」


凛は真っ直ぐに蓮司を見つめて


「これはアタシじゃない!」


「ズルしてETOに会いたくないよ‥‥それに‥」


何か思い詰めるように俯き


「それにアンタがアタシの歌声が好きって励ましてくれたから自力で頑張りたかった!!」


「次の歌コンで蓮司とETOに歌声を届けたかった!」


「下手でも気持ち‥伝わるんだよね?」


蓮司は今までに受けた事の無いショックを受けた。


凛の伝えたい気持ち‥そこにETOだけで無く、僕も含まれていた。 


伝えたい気持ち‥この言葉の意味を誰より分かっていたはずなのに‥凛の言葉で目が覚めたと同時に自分に対する恥ずかしさと情けなさが混じり合った気持ち悪い感情が込み上げてきた。


『誰に届けたいの?』

真っ暗で辛い記憶と思い出の中のリンちゃんという光‥‥‥‥それしか無かった‥小さい光。


なのに‥いつの間にか近くにあった眩しい光。それに気が付かなかった。


確実に僕に届けられていた凛の思い‥‥

ETOはこの光に気付いていたのかも知れない‥‥


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