第7話 二人の歌姫

 江藤は初めてコメントをくれた「Rin」を良く覚えていた。

そして、小さい頃のリンちゃんの

「あたしのためだけに歌って!」

をRinに重ね歌を作り続けていた所もあった。


「す、すごいね‥イチコメなんだ‥」


「うん!」


今の江藤にはその笑顔が眩し過ぎた。


「初めて聞いた時、アタシ泣いちゃったんだ〜‥」


凛の顔は少し曇っていた。


「‥‥」


江藤は黙っている。


「アタシね?ちょっと変な子っぽいんだよ‥‥イジメられてるって訳じゃ無いけど、ちょっと他人との距離感ってか空気?を履き違えてるって言うか‥」


「馴染めない‥」


確かに、今日初めて会ったにも関わらず凛という子は不思議だと思ったが僕にとってはそれが変だとは思わなかった。


「昔からそう‥特に男の子は少し仲良くなるとすぐに言い寄って来たり、拒めば暴力を振るわれそうになったり‥」


「お前が悪いって‥」


江藤は胸がズキンと痛む。親や先生に相談しても普通にしてれば良いだけだろ?って媚を売るみたいにヘラヘラするから馬鹿に見られるんだって‥


「普通って何?」


「友達が欲しいだけ‥」


「‥‥」


「蓮司と一緒に保健室登校したいな‥」


ヘヘッ「なんてね!」


凛の似合わない愛想笑い‥きっとこう言う物言いが男を勘違いさせていたのだろうし、今のはそれに凛自身がやってしまったと気付いた感じだろう。


「アタシがETOを見つけたのは偶然だったんだけどね?動画サーフィンやってて新着で見つけた(笑)‥アタシの解らない自分を認めてくれた様な優しいキレイな声の歌だった‥」


江藤は知っている。それは自分‥当時、辛かったETOの存在を初めて認めた詩。

リンちゃんに‥僕はここにいると歌った詩。

まさか、こんな形で視聴者に刺さっていたとは‥歌い手冥利に尽きる‥と初めて感じた。


凜は続けて


「ETOはね!初代歌姫アユ!にイイネ付けられて大バズリしたんだよ!あの『浜中歩』に!」


「蓮司も知ってるでしょ?20世紀最高の歌姫!!」


『そのアユが次世代の歌姫って!』


凜はまるで自分の事の様に跳ね回る。


「嬉しかったな〜‥」


「ETOはそこからトント〜ンって超人気配信者に!」


「あ!でもリエルって敵も作っちゃったけどね〜。リエルも超人気配信者だけどアユの信者なんだって〜!」


凛はETOをすごくよく見てくれている‥

江藤は目を反らす様に苦笑いした。


「‥‥ねぇ凛?」


「ん?」


「なんで‥僕に話をしたの?その、自分の事‥僕も凛に嫌な想いさせる可能性だってあるじゃん?」


「ないよ?」


即答断言か‥

つまり凛も僕を男だとは思っていない‥


「他の男の人とは‥‥受け答えが違う‥」


「‥ん?」


「分からないけど‥蓮司は、他の男子とは違うの‥ちゃんとアタシの話を聞いてる。今も!ちょっとズレてるけど変な方向じゃないんだよ!‥‥‥これが友達って目線なのかな〜って伝わる‥」


そう言うと凛はフィっと嬉しそうに江藤の2、3歩先をスキップで歩き出した。


む‥ズレてると凛に言われたのは納得いかない!


ただ‥そんな凛だからこそ友達として、蓮司として側に居てもETOを気にしなくて良いのかもしれないと思えた。

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