第6話 知っている

「‥‥うわっ」

時計を見た江藤は突然声を上げた。

凛は目を丸くして「どした?」と聞く。


「あ‥ごめん‥‥今更だけど僕メッチャ寝てた?」


「あ〜ね、昨日夜更かししてお昼食べたら眠くなったんでしょ?気持ち良さそうに寝てたし放置してアタシは教室戻ったよ?」


「途中からこっそり戻って来たけど保健の久保先生も結局来なかったし」


「そうなんだ‥」


時計は16時過ぎを指していて窓の外はいつの間にか部活中の生徒の声が騒がしく響いていた。


確かに昨日は新曲の編集や最終チェックなんかでほぼ寝て無く、今日は昼で帰って一旦寝る予定だったが、まさかよりによって学校でこんなに寝てしまうとは‥‥


「帰ろっか!」

凛は僕のバックを両手で渡して来た。


「‥うん」

保健室を出ようとした時、


「失礼します!」ガラッっと入れ違いに女子生徒が入って来た。


「‥‥上田さん?」


「あ‥森永さん‥どうしたの?久保先生なら居ないけど?」


「‥そう‥‥あなたがムダに保健室を使うから保健日報を出さなきゃいけなかったの。」


森永さんは先生の机に日報を置いた。

凛は小声で江藤に

「ウチのクラスの学級委員長」

‥見たままの真面目そうな人だ。ひとつ結びの黒髪に縁無し眼鏡、目つきは鋭い。

森永さんはキッとこっちを睨み


「無駄な仕事を増やさないで!」


「「ごめんなさい。」」


江藤と凛は同時に謝った。森永さんは黙って保健室を出ようと扉に手を掛けて止まる。


「江藤くんの事は先生から聞いています。保健日報とは関係ありません。」


それだけ言うと保健室から出て行った。


ふと凛は思った、あれ?委員長って蓮司の事知ってたんだ?



帰り道。



「蓮司はいつからETOのファンなの?」


江藤は少し戸惑いながら


「えっと‥ファンって言うか‥歌を聴いてるだけって言うか‥」


凜はムスッとした顔で


「何?ホントはリエル推しだとか?」


江藤は焦りながら


「いやいや、歌は好きだけどETOはあまり知らない‥かな‥」


江藤は自分の事をあまり知らないと言ったみたいで少し悲しい顔になる。


「り、凛は?」


凜はよくぞ聞いてくれたと言わんばかりに自慢げに


「実はね?みんながETOを知らない時から知ってるんだ〜」


まさか!‥江藤は小さい頃のリンちゃんが頭を過ぎりドキッとなる。


「私さ!ETOのリリース曲のコメント1号なの!フフッ‥イチコメ者!」


「っ!!」


マジか‥‥江藤はものすごく驚き、上がりそうな奇声を必死に抑え固まる。


毎回、斜め上の驚きに心の準備が追いつか無い。

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