第2話 出会い

 のどかな街の風景‥当然この時間に登校している学生は僕以外いない。学校まで徒歩20分って所だ。


いつもならひっそりと辿り着くはずの通学路がいつもと違う気がする。誰かに‥いや、みんなが自分を見ているような感覚‥実際は見ていないのだろうがビクビクしてしまう。


それは街中に漏れ出す音楽のせい。

バス、コンビニ、どの人のイヤホンやヘッドホンからも同じ曲、ETOの歌声が漏れている。


街中のETOの存在感は江藤自身をチクチクと刺してくる。


苦手な感覚だ。


登校中ポケットからはみ出したスマホの画面には「コメントが投稿されました。」の表示が慌しく点滅する。


学校に着くと江藤は足早に保健室に向かう。授業中で1階の廊下には誰も居ないのに校舎に響く授業音がうねるような人の存在感を感じさせる。


保健室を静かに開けると保健の先生は不在だった。いつもなら課題を届けてくれているが今日は無い。1階は外の視線が気になるので開いた窓はそのままにカーテンだけを静かに閉めると少し落ち着いた。


ソヨソヨと春風が少し気持ち良い。仕方なく自習を始めようと首から掛けていたヘッドホンをカバンにしまい勉強道具を取りだす。


ふと気づくとベッドのカーテンが1つ閉まっていてボソボソと声がした。急な人の気配に背筋がヒュッとなる。誰か具合が悪くて寝てるのかもしれない。江藤は静かに準備をする。


すると突然、カーテンの向こうで女の子の歌が聞こえてた。それは練習するような、歌を覚えようとする拙い歌だ。江藤はそれを聞き、これは僕に気付いていないのか?聞いてる方も恥ずかしいのだが…咳払いでもしたほうがいいのかな?と恥ずかしさで引きつった苦笑いになりながらも自習をはじめる。


カーテンの向こうでは「違う」とか「あれ?」とかボソボソと聞こえ続ける。全く集中出来ない。

しばらくすると静かになった。


突然


「やっぱETOの新曲はサイコーね!」とギャル風の女子が元気良くベッドカーテンを掻き分け飛び出して来た。と同時に強い春風でカーテンがフワリと日差しを取り込んだ。

江藤は偶然重なったキラキラとした日差しに輝らされた彼女に釘付けになった。



運命の出会い‥

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る