第3話 お守り

 色白で整った顔立ち、薄化粧だろうか‥頬は微かにキラキラ光るピンク‥長い金色のツヤ髪が濡れてもないのに光を反射する‥


感覚がおかしい‥スローモーションだった‥

同じくらいの歳の子と近距離で目が合うのは初めてだ。学園モノのならここから始まるのだろう‥‥‥‥


「‥‥‥‥‥」


「ん?」


あれ?スロー?違う!ただ女の子は血の気の引いた顔でただ真っ白に固まっていただけ‥何も始まってなど無い!

女の子は薄っすらと青筋の出るような顔で


「もしかして‥全部聞いてた?」と声を絞り出す。


江藤は無言で目を反らしながら。


「い‥や?」‥バレてる‥


女の子はパッと笑顔になり、ふぅ~‥と諦めた表情で一息付き


「で?どうだった?」


江藤は許されたような安堵を覚え思わず


「ヤギが保健室で出産‥」

「うぐっ!」

言い終わる前に女の子は江藤の胸ぐらを掴み顔を真っ赤にし


「記憶を消すしかねぇ!保健室だしすぐに治療すれば命は助かる!」


と締め上げようとする。


「ちょっ!」ジタバタする江藤の足がカバンにあたり床に落ちる。


女の子は江藤の半開きのカバンからはみ出したウィッグの毛先を見つけるとゆっくりと引き出した。


江藤がお守り代わりにいつも持ち歩いているETOのウイッグだ。


女の子は「これ何?」と嬉しそうにニヤニヤしながら黄緑色のウィッグをヒラヒラさせた。


「それは!」と取り返そうとするがヒョイっと腕を上げて反らされる。運動能力の差が一瞬で分かる反応。


「アンタ、こんな趣味があるんだ〜」とイタズラっぽく笑う。


「‥‥」


女の子はマジマジとウィッグを見ながら沈黙する。


江藤の取り返そうとする腕から力がダラリ抜けた‥冷や汗が出る。血液が逆流しているみたいだ。身体が震えだす。過去のイジメの記憶やトラウマが呼吸を浅くさせる。


「もう終わった‥学校には来れない‥」


か細く消え入りそうに言うと登校拒否を決めバッグを乱暴に掴み保健室を出ようとする。


「待って!!」


と女の子が呼び止める。

江藤は振り返らず立ち止まる。


「アンタまさか‥ETO‥‥」


バレた?!!江藤はさらにゾワッと血の気が引く。


「‥‥のファン?」



「は?」


江藤は間抜けな声を上げポカンとなり、ゆっくりと振り向く。


「やっぱり!コレETOが使ってるのと同じウィッグだよね!すごい!」


女の子はキラキラの満面の笑みでウィッグを頬に付けた。


混乱していた頭の中がゆっくりと状況を理解してきた‥


何の悪意も感じられない子の天然の笑顔を見て江藤は生まれて初めて人前で心が落ち着いて行く感じを覚えた。

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