第5話 触らないで

今でも夢に出てくるなんて。

あの時の私は、自分を否定するしか出来なかった。本当は何が起きたのか分からない。ただ、誰かが泣いていたことと、私が傷だらけだったことは今でもしっかり覚えてる。


『なんだか、昨日のことを思い出すと憂鬱…』

(さすがに今日は会ったりしないよね)

謎の元アイドルと初めて話してから、1週間。なぜか毎日私に会いにくる。その度に、いろんな言い訳をして、避けて、逃げての繰り返し。

きっとこの傷のこと知りたいんだろうけど。

この事はなにがなんでも知られないように、守らなくては。

「みきてぃー!おっはよー!!」

『お、おはよう!朝から元気だね、』

「そんなことないよ~!そういうみきてぃーは、なんか元気ない??

あ、もしかして!れん君のこと?!」

『え、!あー。うん。』

「なんかれん君、みきてぃーのこと追っかけ回してるよね~!

ね~もしかしてさみきてぃーのこと好きだったりして!あ!それか、もう付き合ってる!?」

『ないないないない!好きとか、付き合ってるとかない!ほんとにないよ!』

「そう~??私に隠し事しないでよ~!」

『ほんとに違うって!もうこの話終わり!』

「う~ん!わかった~」

(やっぱり相手が諦めるまで、避け続けるしかないな。変な噂だって立てられたら困るし。)


よりによって今日の化学の実験って、A組とB組合同なんて聞いてない!

いや、でもまぁ、一緒の班になるはずがないよね…

(なんで!!同じ班なの??しかも、席が隣って!あり得ない!)

「あ!やっと会えた」

『どうも…』

「なんか、最近、俺のこと避けてるみたいだけど、それはどういうことかな?」

『いやー。それは、ほんとにたまたまで。』

「そんなにこの傷って知られたくないものなの?」

『触んないで!!』

あ、ヤバイ。思わず、大声出しちゃった。

[どうしたー?何かトラブルか?]

『いえ!何でもないです。

先生、続けてください。』

(完全にやらかした…)

「大丈夫…?ごめん…」

『…いいえ』

誤魔化すのでさえ、苦しくなる

私はこれを一生背負わなければいけないのか

もう、下を向くことしか出来ないよ

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る