第二話 わたしをカラオケに連れてって!

 学園のである『班活動』が3週終わった。

 美少女三人と行動を共にした……と言ってもアレは『班活動』である。モブの俺と、クラスカーストトップ3の間に進展など有りようもない。

 唯一有ると言えば、昼の『弁当タイム』だろうか?

 三人の『おかず交換』の力の入れようがアップした……ように思う。

 美味しくなったのだ。殊更、姫野の上達が抜きんでていた。俺も負けてはいられない。密かに俺もスキルアップを目指している(笑)。


 さて、その『班活動』だが、俺の感触では3週とも〝ただ遊んだだけ〟のように思うのだが、どうだろうか?

 1週目はともかく(材料費とかは内々で賄ったと思えば、まあ良いが)、2週目の遊園地代を払うと言うと『会計』(← いつ決まった?)の川俣が『公費』で支払ったから大丈夫だと言った。

 『公費』って、何だよっ!

 学園側と癒着とか、ないよな?

 そして、3週目の『アレ』―― 何も言うまい。


 しかも、4週目は『カラオケ』だそうだっ!?


 今回は現地集合である。

 俺は少しだけ迷ってから学園の制服(まともな私服が前回姫野宅に伺った時のモノしかないので、同じ服など着れない(笑))で向かったのだが、他の三人はの私服姿だった。

 姫野の私服が見れたから、俺的にはOKだが(笑)。

 本日のコーデは、白のニットセーター にレッド系統のハイウエストのミニ、その上にベージュのショートダウンコートを(袖を通さずに)肩に羽織っていた。足元は淡いピンクのスニーカーに白のアンダーアーマーソックス(リボン付き)だ。


(ヤバい、惚れるっ! ……勿論、何を着ても〝超絶〟可愛いが、服のセンスもマジぱねえっ♡)


 川俣と舘野も…………ま、まあ、良いか。

「タダち、いますっごく失礼なコト考えなかった?」

(だから、何故判る?)

 俺は首を、ぶん、ぶん、振って否定した。

 すると舘野が寄ってきて俺の耳元で囁いた。

「失礼なタダちだが、一つ耳寄りな情報をあげるにょ♡ …今日のシズちは〝勝負下着〟をお召である♡ 」

「なっ!? ……しょ、しょ、しょうびゅしちゃぎ……あ、あぅ…」

 俺は慣れない〝上級者用言語〟に舌を噛んだが、気を入れ直して訊いた。

「しょ、勝負下着というと、あれか? …だ、男子に見られても……お、お、おっけーな……」

「それは『見せパン』な……落ち着け、タダち(笑)」

 舘野が笑いながら続けた。

「『勝負下着』というのは、特別な男子を悩殺したい時、とか……ある男子の前で自分の心にスイッチが入るような意図で、身にまとうモノにゃ♡ 」

「べ、勉強になります、師匠っ!」

「うむ、その心掛けは良しっ!……あーしがスカートを捲ってやろうかにょ?」

「いえ、いえ、そのような大それた行いは自重くだされたく……わたくしめは想像するだけで充分でございます」

「控えめな男よのう……ならば、一つだけ追加情報にゃ…色は〝黒〟にゃ♡ 」

「はうぅ♡ 」

 俺は100万HPヒットポイントのダメージを受けた。

「何してる? …部屋決まったぞ」

 川俣の言葉で我々はドリンクバーをとって部屋に入ったのだった。


 今回、何故カラオケかと言うと、学園からの依頼だそうな。

(ますます川俣と学園の癒着が心配である。)

 依頼内容は、例の3バカが羽目を外した後始末的なコトらしい。

 どういうコトかと言うと、姫野たちに班活動を断られた3バカは、カースト4~6位を抱き込み(しかも、実際に抱いてしまった(笑)らしい)このカラオケ店で羽目を外したのだった。

 しかも、『班活動』の時間中にである。

 更に最悪だったのは、彼等が退出した後の部屋の有り様だった。白い液体がそこかしこにばらまかれ、使用済みの『0.01ミリ』まで床に捨てられていたそうだ。

 当然、即『出禁』となり損害賠償を請求された。

 学園側も退学を考えたそうだが、彼等の親の寄付額が多大だった為、今回だけは一か月の停学と相成った次第であった。(因みにカースト4~6位は最下層に転落したのは言うまでもない。まあ、一度も話した事のない女子の事などどうでも良いのであるが。)

 それと今回の我々のミッションは、『事件』の正確な状況の把握と、『我が学園にも真面目な学生が居る』という事を知らしめ、このカラオケボックスの信頼を高める為だそうだ。

 まあ、姫野が居れば大丈夫だろう。

「……って、まさかここがその部屋か?」

 俺が恐る恐る部屋を見廻すと舘野が呆れたように言った。

「莫迦をお言いでないよっ! …〝ウチの姫〟を、あ奴らの不埒な液体がぶっかけられたシートに坐らせる訳がないにょ!」

 ま、まあ、そうだよね。

 そこで、ふと、俺は二週前のを思い出して訊いた。

「俺の上に坐らせたのは良いのかよ!」

 俺のツッコミに舘野は不気味に笑った。

「むふふふぅ♡」

(おいっ!)

 俺が、ちらっ、と姫野を見ると、速攻目を逸らされた。

 ダメやん! ……あれ(『観覧車』での、ずん、ずずん、事件)以来、姫野に目を合わせて貰えて居ない。

 いや、先週のほぐもヤバかっただろう。あの時も絶対、パオ~ン、していた筈だから。

 姫野の攻略難易度がしていた(がっくし!)。


 まあ、俺の事は今日は良いや。

 皆んな早速得意な歌を入れて歌い始めた。

 トップバッターは川俣で、何とアイドルソング……らしい。

 いや、『らしい』というのは、俺がアイドルをまるで知らないからだ。48だの46だのいうグループの名前も知らなければ歌も知らない。だから舘野に教えてもらった情報でそれが『アイドルソング』だと知ったのだった。

 しかし、あの筋肉女子の川俣が派手な振り付けで踊りながら歌う姿は圧巻だった。

 是非、保険医の嘉藤かとう(女性、29歳、独身)に見せたかった。


 二番手は舘野だが、何となく通りアニソンだった。

 二曲続けて歌いあげた後の三曲目は俺も知っていた。俺が口ずさんでいると、それに気づいた舘野に舞台(?)に引っ張り込まれた。(三年前に流行ったアニメで去年新作劇場版が公開され、俺も久しぶりに映画館に出かけた作品だ。)

「二番を一緒に歌うよ」と言われ、腕を交差させて握った一本のマイクに顔を寄せて歌うという〝辱め〟を受けたのだった。

 ふと見ると正面に坐っていた姫野が羨ましそうな顔をしていた。不可解なり。

 もしかしたら姫野も歌いたかったのだろうか?


 そして、〆は姫野だ。

 演歌なのはイントロが流れて直ぐに判った。いや、誰の歌で、何というタイトルかは知らないが。

 ショートダウンコートを席に置いて、和装ではないがコブシをきかせた振りと、背筋を、すっく、と伸ばした立ち姿は素晴らしかった。声も良く通って演歌の醍醐味を味わった。


 その後、皆んな代わる代わる好きな歌を歌い、拍手しあって盛りあがったのだった。


 そして、少し歌が途切れた時だった。トイレから戻ってきた姫野が、ぽふん、と俺の隣に坐った。

(ヤバい、何話したら良いか判らん)

 横目で、ちらっ、と姫野を見ると柔らかい白いニットのセーターに包まれた(こちらも柔らかな ←『お化け屋敷』イベントで確認させて戴いた)ふたつの膨らみが盛りあがっているのが見えた。

「いま、胸を見てたでしょ? …えっち!」

「ご、ご、ごめん!」

「まあ、只野くんなら良いけど」

(良いのか?)

「あの三人の視線はもう怖気おぞけふるうレベル」

 『あの三人』とは『例の三人』だろう。

「停学になって、ほっ、としたわ」

 そう言って実際、ぶるっ、と身体を震わせてから、ちらっ、と俺を見た。

「男子って、まず胸を見るよね?」

(いや、それはあなたの持物が『推定88cm、Fカップ』というサイズだからです!)

「か、顔を見るのが恥ずかしいからです…よぅ…」

 俺はそう言い訳をしてから、ふと、あるマンガのシーンを思い出した。『ぱんチラ』を見た男子に〝その他大勢モブの女子〟は「スケベ―」となじり、〝本命女子〟は「えっち」とはにかんでいた。

 さっきの姫野はろう?

「タダち、次はこれ歌うよ~」

 舘野が寄ってきてそう言ったが、俺は先ほどの姫野の『回答』を思い出そうと必死だったので「ちょい待って」と手を差しだした。

 その俺の手が、むにょんっ、と過って覚えのないをした。

「スケベ―っ!」

(あ、こいつは『モブ』だ)

「タダち、いますっごく失礼なコト考えてないかい?」

(ど、ど、どうして判る?)

 俺の動揺をスルーして舘野が言った。

「シズち、旦那さん借りるよ~」

「どうぞ~」

 俺を席から引っ張りあげて舞台に向かいながら舘野が不思議そうに言った。

「いまシズちさあ……なんか、『旦那さん』って言葉に、すんなり、返事してなかった?」

 俺は未だ思い出せない先ほどの姫野の『回答』に気もそぞろでそれ処ではなかったのであるが。

「うわあっ!? 」

 しかも横合いから腕が飛んできた。

 見れば川俣がスマホで次の曲の振り付けを確認していた。


 皆さんそれぞれ今日の『班活動』を満喫なさっている。良きかな、良きかな!


 トコロで、実は俺は『持ち歌』と呼べるモノは一曲しかない。だから今回の『班活動』がカラオケに決まった時、多いに悩んだ。

 しかし、舘野のお陰で何とか誤魔化せた ―― 筈だった。

 ―― が、姫野に見破られてしまった。

「只野くん、まだソロで歌ってないよね?」

 姫野がタブレット型の機器(『デンモク』とか言うらしい)とタッチペンを差しだしてきた。

「えっと、俺……これ使った事がない、んだけど……」

(母親に連れられてきた頃は、こんなハイカラなモノはなかった。分厚い雑誌みたいなモノで探した…ような気がする。)

「それなら、わたしが入れるよ……何を歌う?」

「ああ、えっと……エディット・ピアフという人の『愛の讃歌』っていうんだけど、知ってます?」

 姫野が驚いた顔をしていた。

「勿論、知ってるわ……凄い、楽しみ~~~っ♡ 」

「えっ? ……あ、あんまりプレッシャーを掛けないで……」

 俺は、マイクを握って立ちあがった。


 この『愛の讃歌』は亡くなった母の十八番おはこだった。いや、この一曲しか、母は歌わなかった。

 仲の良い夫婦だったがケンカも良くした。そして、ケンカすると母は俺を連れてカラオケ屋(『カラオケボックス』などではない、街に一軒ある『カラオケ屋』だ)に行った。二時間、ただ、ただ、『愛の讃歌』だけを歌い続けた。

 多分それが母のストレス解消法だったのだろう。

 二時間歌い続けて家に帰るとニコニコ顔で父の世話を焼く母だった。

 そんなおしどり夫婦らしく、横断歩道を仲良く手を繋いで渡っている時に、赤信号に突っ込んできた暴走ダンプに跳ねられて……逝ったのだった。

 俺は ―― 最近流行りの『異世界転移』とかして、ダンジョンを攻略している父と母の姿を。

 ガタイの良かった父はデカいロングソードを担いで先頭に立つタンクだろう。母は見掛けより若く見えるし、すらっ、としていたからローブを羽織り杖など持った魔法使いが似合いそうだ。

 そして、二人の恩(いま一人きりで生きていられるのも父と母のお陰だ)を忘れないように、俺は毎月のには二人が逝った交差点の脇に花を供えている。


 俺がこの歌を人前で歌ったのは二回目だ。

 前回は二人の葬式で別れの言葉の代わりに歌った。


 歌いながら俺の脳裏を父と母との色んな想い出がぎり、気持ちがあがり過ぎてしまった。

 気が付くと俺は涙を流しながら歌っていた。

 そして、歌い終えると、しんっ、と静まり返った部屋で、俺を見詰める三人の美少女が一箇所に寄り添い肩を寄せ合って静かに涙を流していた。

 俺の歌が彼女たちを感動させたのかと思うと、素直に嬉しかった。

 ステージを降り、ソファーに坐り、マイクをテーブルに置くまで、三人が視線で追い掛けていた。

 やがて川俣が、ぼそっ、と言った。

「まだ時間残ってるけど、このまま帰らないか? ……何だか皆んなで夜の街を歩きたい気分だ……」

 姫野と舘野も涙をぬぐいながら頷いていた。

(いや、いま真っ昼間だけど?)


 こうして、『班活動』の4週目が終了したのだった。


            【おしまい】

         【続篇、あるかも(笑)】

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続々・モブの俺に無自覚で構ってくる学年一の美少女、マジ迷惑なんだが? なつめx2 @natume_x2

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