続々・モブの俺に無自覚で構ってくる学年一の美少女、マジ迷惑なんだが?

なつめx2

第一話 賢者タイムは何処(いずこ)へいった!

 毎週一回の『班活動』の日がやってきた。

 今回は学園集合との事で俺は正直、ほっ、とした。

 まあ、あまり自慢できる話ではないが、俺の成績は、そこ、そこ、だ。一つや二つは赤点、ギリ、ギリ、の教科もある。

 『班活動』というのが成績にどれ程のウエイトを占めるのかは判らないが、そこで赤点を貰うのははなはだ宜しくない。

 先二回の『班活動』は、殆ど〝遊んでいた〟と同義語だ。クラス担任の革鍋かわなべが本当に許可したのか、総括の報告もOKだったのか、俺は川俣の言葉でしか確認できていない。


 とても不安だ ――


 だから今回の集合場所が学園だったので幾分安堵したのだが、前回も学園から遊園地に移動した事を考えると不安も覚えるのだ。

 しかも、当日持参するようにと川俣がLINEで知らせてきた内容だが ――


  飲料水(ペットボトル500ml、2本ほど)← まあ、良い。

  昼食用の軽食(サンドイッチなど)← まあ、弁当より良いかも知れない。

  ハンドタオル(汗を拭くため)← まあ、問題あるまい。

  水着 ← 何故だっ!


 当日俺は拭い切れない不安を抱えて指定された三階奥の特別教室Bに向かった。

 特別教室というのは授業用ではなく、会議とか、今年から始まった『班活動』などにも利用できる授業用の教室より小さめなスペースだとの話だ。

 入り口の引き戸には『2年A組、只野班』と書かれた紙が貼られていた。

(ま、まあ良いけど……班長にされてたし)

 引き戸を開けて中に入ると他の三人が既に揃っていた。

 メンバーは ――


  姫野ひめの 靜香しずか= 学年一の美少女。俺の〝推し〟。

  川俣かわまた 瑞乃みずの= スレンダーな筋肉女子。

  舘野たての 育美いくみ= ギャル。制服を着崩す天才。


の三人に、俺(只野ただの 凡男はんお)を加えた四人である。

 因みに三人は我がクラスのカーストトップ3でもある。

「遅れてごめん」

 俺が謝ると舘野がスマホを見て言った。

「大丈夫にゃ、まだ1分前にゃ♡ 」

(そりゃどうも……)

 室内を見廻すと確かにいつもの教室の半分くらいだろうか。教卓はなく机も会議などで見るような長テーブルが部屋の奥に積まれて(片付けられて)いた。

 そんな訳で手前の空きスペースはそこそこな広さだった。

 しかし、水着持参で教室に居ても仕方あるまい。

「それで、俺は内容を聞いてないんだが、屋上のプールに移動するの?」

 この学園には『全天候型温水(冬場のみならず夏場も快適に泳げる)プール』が屋上に設置されている。外部からは完全に隔離されていて、〝真っ裸〟で泳いでも大丈夫な安心設計だと学園の『入学案内』に記載されているのを見た気がする。

「まあ、まずは着替えてから説明するよ」

 川俣の言葉で俺は「えっ?」と思った。

「それじゃあ、俺が先に廊下に出ているよ」

「何故だ?」

「いや、拙いだろ?」

「只野は班員の信頼を裏切り〝のぞき〟をするような卑劣な男なのか?」

「し、失礼なっ! ……そんなコトしないっ!」

「だったら、男子と女子で逆の方向を向いて着替えれば、何の問題もあるまい!」

「い、いや……」

「なんの問題もナッシング~~~っ!」

 舘野もそう言った。

「ま、ま、待って…よぅ…」

 姫野だけは真っ赤になって慌てていた。

「よし、それじゃあみんな後ろを向け! ……始めるぞっ!」

 川俣の掛け声で女子三人が向こうを向いた。俺も遅れないように慌てて回れ右だ。


 ヤバい! ……会話が途切れ、静かになった部屋に衣擦れの音だけが聞こえる。

(…………賢者タイム、賢者タイム、賢者タイム~~~っ!)

 俺は心の中で必死に呪文を唱えた。


 その時、突然、姫野の声が響いた。

「な、何で二人とも……そ、そんな水着なのよっ!? 」

「えっ? ……シズちは違うにょか?」

「だ、だって……が、学園で着る水着ったら……」

「何だ? ……どんな水着だって? ………………うぷっ!? ……靜香さあ、授業じゃないんだから、それはないだろ?」

「大丈夫にょ! ……タダちには受けるにょ♡ 」

「それより、さっさと着替えないと、靜香だけ〝すっぽんぽん〟を晒す羽目になるぞっ! ……良いのか?」

「因みに、あーし、いま〝すっぽんぽん〟にょ♡ ……タダち、振り向いたら〝校内晒し者の刑〟にょ♡ 」

「あたしも、あとは下を穿けば終わりだ!」

「つまり、ミズちはいま丸見えにょ♡」

「うむ……手入れをしているから見られても問題ないぞ!」


(……だ、だから、そういう状況説明、要らないですからっ! ……賢者タイム、賢者タイム、!)


 俺は謎の呪文を唱えながら着替えを急いだ。

「ま、ま、ま、待ってよう!」

 一方で、一人だけ焦り捲っているようだ。

「良し、俺も着替え終了っと!」

 俺が水着を摺りあげ〝賢者(?)〟を隠し終えて(笑)終了を宣言すると、多分残った最後の一人が半泣きである。

「ひぃいいんっ!? 」

「だからバスタオル巻いたりしないで、ちゃっ、ちゃと、脱いで、ちゃっ、ちゃと、穿けば良いのにゃ♡ 」


(な、成るほど…流石は姫野さんだ! ……見える見えないではなく、見えていなくても、ちゃんと着替えているんだ!)


 それから、思ったより時間が掛かった。

 時折、「あうっ」とか「ひぃ」とか声が洩れて、漸く着替えが終わったようだ。

「タダち、お待たせ~~~っ!」

 舘野の声で振り返ると、まだ姫野がバスタオルを巻いていた。

「ええっ?」

 俺は慌てて身体の向きを戻すと舘野が笑って言った。

「タダち、大丈夫にょ! ……シズちは恥ずかしがってバスタオルを巻いてるだけにょ! …下に水着は装着済みにょ♡ 」

 俺はその言葉で改めて振り返って三人を見た。


(いや、あんたらそんな水着で恥ずかしくないのか?)


 川俣の水着はビキニのパンツのビキニラインの切れ込みが(笑)し、舘野に至っては………………海水浴場とか市民プールで着たら間違いなく〝痴女〟の烙印が押されるであろう!

「タダち、いまとても失礼なコト考えていないか?」

(何故、判る? ……いや、判るか(笑))

「それより、あーしの水着はどうにょ?」

「海水浴場とか市民プールとかでは『他人のフリ』します!」

「そうか? ……もっと水着が好みなのにゃ? ……では『マイクロビキニ』に着替えるかにょ♡ 」

「わたしが悪うございました! ……それだけは平にお許しくだされっ!」


 俺には姫野が居る。姫野はバスタオルでどんな水着か判らないが、彼女の清廉な佇まいが俺に〝賢者タイム〟を取り戻させてくれる筈だ。

「た、只野くん……わ、笑わないでよ」

 姫野が視線を泳がせながらそう言うとバスタオルを外した。


(す、スク水ですとぉ ―――― っ!? )

 賢者は150万HPヒットポイントのダメージを受けた。


 しかも、であるっ!

 この学園では水泳の授業は二組ふたくみ合同で〝男女別々で〟行われる。(当然だ! ……高校生にもなって男女合同の水泳授業などである!)

 そして、学園に友人の居ない俺は『その情報(白スク)』を共有できて居なかったのだった。


 白スクの破壊力、倍ドンっ!?

 賢者は300万HPヒットポイントのダメージを受けた。

 今日は俺の命日になるかも知れない……


 そして、川俣が壁際の長テーブルに置いてあったビニールシートを広げた。

(えっ? ……なにっ! ……『ツイスターゲーム』ですと?)

 『班活動』の内容は『創造性クリエイティブに富んだ』モノというお達しだ。

「これのどこが創造性クリエイティブに富んでいるのか?」

 俺は〝班長〟として些か不快感を滲ませて訊いた。

「今回、革鍋(クラス担任)に提出した趣意書はこうだ!」

 川俣が先ほどの長テーブルから一枚の用紙をとって読みあげる。

創造性クリエイティブな活動の為に一番に必要なモノは、柔軟な発想力である! ……例え遊びの中にあっても常に『柔軟な発想力』を養う事が大切である!」

「流石、ミズち! ……何の問題もナッシング~~~っ!」

 舘野がいつものように煽り、姫野が強く反論した。

「だ、だったら水着に着替える必要なかったじゃないっ!」

「なんだ? ……靜香は『コレ』をスカートでやりたいのか?」

 姫野が悔しそうに俺を見た。


 はい、我々の負けです!


 そして、何故か『グーパージャンケン』で、何故か、川俣と舘野、姫野と俺、の組み合わせと相成った。

 更に川俣が悪だくみを追加する。

「それぞれの組で、負けた方は〝罰ゲーム〟ありだ! ……何が良いかな?」

「勝ったら、負けた方に……というのはどうかにょ?」

「ダメだっ! ……靜香のが危ない!」

「おいっ!」

 俺の抗議をスルーして川俣が言った。

「それなら、一つだけ質問できる…でどうだ? ……ただし、嘘だったら全員で〝くすぐりの刑〟な(笑)」


 そんなこんなで、ゲームが始まった。


 一回戦は『川俣と舘野』の組だ。

 俺が審判で、姫野が書記(?)だ。後日クラス担任に提出する為の資料作りだそうな(何を書き残すのか? ……良く判らん)。

 二人の対戦は……なんというか『出来レース』に思えてならなかった。

 やたらと相手の身体へのタッチが多い、気がする……つまり、このゲームでは相手へのボディタッチは普通にあり得る ―― だから、お前も遠慮するコトはない……そんな声が聞こえてきそうだった。


( ……賢者タイム、賢者タイム、!)


 俺は念仏を……いや、謎の呪文を唱え続けたのだった。

 数分後、上になった舘野に押し潰されるようにして川俣が尻餅をつき、舘野が勝った。(反則っぽかったが……まあ、いっか?)

 ―― で、敗者への質問タイム。


「姫野さんの今日のぱんつの色は何色ですか?」


(おいっ!)

「白のレースで、ちょい透けでした」

「す、す、透けてなんか、ないモンっ!」

「ウソダト、クスグリノケイ、デスヨーっ!」

 審判の俺は『棒読み』で川俣に訊いた。

「はい、嘘をついているのは姫野さんです」

「それじゃあ、シズちを〝擽りの刑〟にょ♡ 」

「それは越境行為で認められませんっ!」

 俺が割り込むと姫野が、ほっ、と息を吐いた。


 そして、二回戦は『姫野と俺』の組で、審判は舘野が、書記は川俣が担当する。

 ゲームが始まり、次第に距離が近づく。

 白スクの姫野が間近に居るというだけで、俺の〝賢者〟が危機にひんしてゆく。

 いよいよ身体が接触するほどに近づいた。

 姫野の右手が俺の両足の間にある『黄色』に置くしかない位置取りだ。

 姫野が身体を沈める前に俺の耳元に囁いた。

「身体が触れちゃったら、ごめんね」

 彼女はこんな時でもゲームをしている。

 そして、姫野の右手が俺の両足の間にある『黄色』に置かれた。

 彼女の肩が俺の股間を押しあげる。


( ……賢者タイム、賢者タイム、!)


 俺の〝賢者〟は俺の呪文をした。

 ヤバい!

 俺は勝負を捨て、後ろに尻餅をついた。

「参りました(笑)」

 俺の敗者宣言に審判の舘野が言った。


「いまのは故意の尻餅と判断し、只野くんの『不戦敗』となります ―― よって、タダちは擽りの刑にょ♡ 」


 言うが早いか舘野と川俣が二人掛かりで俺に圧し掛かり押さえ込まれた。

 そんなルールなかったぞー、と言うより……色々ヤバい状況だ。

 舘野の〝痴女の衣装〟が俺の〝賢者〟の上で早くもズレかかり、川俣の〝切れ込み鋭い衣装〟が俺の顔を跨いで押さえ込んでくる。

 更に、姫野まで〝擽り〟を担当だ!


 俺の〝賢者〟は5000万HPヒットポイントのダメージを受け、全てを放棄したのだった。



 その後、俺が意識を取り戻すと、が目に入った。

 それから、掛けられた毛布と、そこからだされた右手を両手で握っているに気付く。

 制服姿の彼女は、すや、すや、と寝息を立てていたのだった。


 どうやら本日の『班活動』も、無事(?)終了……したらしい?


               【つづく】

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