第2話

目覚めの悪い朝…

昨日からカオスワールド教団について調べていて、わずかだが情報を見つけた。

まず俺は日本雲外教団本部の住所をGoodle Earthで見てみた。


教団の住所は東京都○○区□□の××○-△-◎…

そしてそこには普通に『宗教法人 日本雲外教団 総合本部』と書かれた建物があった。

住宅街にあるその建物はグレーのレンガで建てられていて、外観はとても新しく、外にある生垣はきれいに手入れされている。

ほかの一軒家と比べて高さはそれほどないがとても洗練されていて中も広そうに見える。


こんなにちゃんとしている組織のように見えるのに、インターネットのどこを探しても『雲外教団』の文字が見当たらなかった。ホームページもなければWikipedioにも情報がない。

だがしかしY(旧Tmitter)にてすでに削除されたアカウントに対するこんなリプライを見つけた。

「雲外教宇宙人やんw」


そのアカウントはただのゲームの情報をリツイートするだけのアカウントで、そのリプライ以外は何も投稿していなかった。

結局何時間もネットを探して見つけたのはこれだけだった。


(とりあえずは電車で向かうか……)

俺は電車に乗りながら、姉のカオスワールド教団について考えていた。

(まずあやしい集団であることに間違いはない。そして姉さんがそこに入信しているのも確かだ……)

だとしたら姉さんを救い出すには、その宗教の実態を暴く必要がある。


だがどうやってその組織を暴くべきか……。

例えば、教団の人を捕まえて拷問するとか

(……ダメだな。そんなことすれば悪目立ちするし、何より現実的じゃない)


そんなことを考えているうちに目的地である「日本雲外教団 総合本部」に到着した。

Goodle Earthで見た通りの外観、実際に見てみると意外にでかい。

姉さんは昨日出て行ってから帰ってきていない。もしかしたらここにいるかもしれない。俺は携帯の録音機能をオンにしてジャケットの外ポケットに入れた。


俺はひとまず宗教の人のフリをして建物に入ってみることにした。

(まず建物の内装はどんな感じなんだろう)

中はかなり広々としていて近代的で、中に入ると大きなカウンターがありそこには受付と書いてある。

その奥にはガラスの自動ドアが二つあり、手前にはエレベーターがある。


カウンターのお姉さんは暇そうにスマホをいじっていたが、俺が来ると笑顔で迎えてくれた。

受付のお姉さんは黒髪ロングの清楚な女性で、ビジネススーツを着ている。年齢は二十代後半から三十代前半といったところだろうか? その義務的な笑顔に俺も愛想笑いを浮かべて受付嬢に話しかけることにした。

(だいぶ無計画に入ってきてしまったがまずは情報収集だ)

俺はあくまで何も知らない体で、入信希望者と言えば内部の実態をつかめるだろうか。

もし困ったら姉の名前を出して聞くこともできるだろう……


「あの、すみません」

「はい?」

(姉の名前を出すのはあまりにもリスクが大きいな。まずは俺自身でこの教団について調べて……)

「ここ宗教に興味があって……」

俺がそう言うと受付嬢は笑顔で言った。


「そうですか!ありがとうございます!初めての方ですよね?こちらにお名前を記入していただいてもよろしいですか?」

(ん?)

受付嬢から手渡された書類にはフルネームと生年月日、電話番号を書く欄がある。記入したほうがいいのか……

俺は電話番号、生年月日だけ本当のを書き、名前は別の偽名を書いた。

「ありがとうございます!ではこちらが入信証明書になります。入会するときに必要になるので、お忘れにならないようにしてくださいね」

入信証明書には『日本雲外教団 会員番号887397 鮮良太(クジラリョウタ)』と書かれていた。


(え?入会?)

「あの入会費とかって……」

俺がそう聞くと受付嬢は笑顔を崩さずに答えた。

「え?いやありませんよ。ここは基本で入れます」

(無料!?怪しすぎるだろ……しかも基本無料って何だよ)

まあ怪しんだが、これは俺にとって好都合な話だ。ここは話を合わせておくか……

「そうですか……」


(まあ入会費がタダでも入会するつもりなんてさらさらないけどな)

俺がそんなことを思っていると、受付嬢が

「あ、今さくらホールで説明会をやっているんですけど、よかったら参加してみませんか?」

「そうなんですか。じゃあお願いします」

「かしこまりました。ではこちらへどうぞ!」

(ん?)


俺がさくらホールとやらに向かおうとすると、後ろから受付嬢がついてきた。

(え?何この人ついてくるの?)

……なんか少し嫌な予感がするな……まあ深く考えても仕方がないか……。とりあえず案内をしてもらうことにしよう。

受付嬢は俺を誘導しながら俺をエレベーターに乗せた。七階から地下二階のボタンが白く光っている。

俺はそのことに違和感を覚えた。

この建物の外観から見てどう考えても七階もあるようには見えない……。

そして地下二階……?


「あの……」

俺がエレベーターに乗ろうとボタンを押している受付嬢に話しかけると、彼女は微笑みながらボタンを押した。

(いや……)

俺は聞かないことにした。説明会が始まっている会場は地下二階だそうだ。

…地下か…逃げづらい場所だけど大丈夫かな…


…地下二階につきエレベーターの扉が開くと、受付嬢は俺を誘導しながら俺をその場所まで連れて行った。そこは普通のホールだった。パイプ椅子が並べられた壇上にはプロジェクターが設置されている。


だがホールの広さは尋常ではなかった。おおよそ一辺が三百メートル以上はあるだろうか。見渡す限りの広大な空間と、それに隣接する階段。会場には窓一つなく、外の様子は全く見えない……外からの光が全く入ってこないため室内はとても薄暗かった。


そして壇上には教団の人と思われる人たちが並んで座っていた。

(百人はいそうだな……)


この人数で座ると結構な広さだが、パイプ椅子だとちょっと狭そうに感じる……

俺はそんな中ホールの真ん中あたりに座らされた。

(それにしても異様な光景だな……)


これだけの大人数が集まっているのに誰一人として喋らないし物音一つたてない。不気味なほどに静まり返っている。

そんなことを考えていると突如会場が暗転した。

そして壇上にスポットライトが当たり、そこにいる一人の人物を浮かび上がらせた。

その人物はスーツをきっちり着た、白髪の混じった初老の男性だった。


「教団説明会へようこそおいでくださいました。私が代表の長谷川です」

(こいつがボスか……)


俺がそんなことを考えながら座っていると、長谷川の説明が始まった。


「まずはじめにこの日本雲外教団についてご説明いたします……」


要約するとこうだ。この教団は宗教団体ではなく一種の会社のようなもので、表向きは宗教法人だが実態は無宗教法人として届けられている。

そしてこの教団では宇宙の真理を解き明かすべく日夜研究を行っているとのことだった。


(宗教法人ではないのか…?じゃあ姉さんはなぜあんな…)


「そしてこの教団には少しの秘密がございます…」

(秘密?)


長谷川は少し間をおいて言った。

「簡単に申し上げると、私たちは『夢の世界』に入れるのです」


やはり宗教なんてそんなものか……

俺はあきれて思わずため息をついたが、壇上にいる長谷川は気にしていない様子で説明を続けた。


「では、今から実際にご説明します」

すると、壇上のスクリーンが上へと移動し、スクリーンがあった場所には巨大な扉が現れた。


その扉はまるで鏡のように磨かれた重厚な銀色の扉で、表面には太陽の模様が彫られている。


「これは『夢の世界』の入り口です。」

長谷川は説明を続ける。


「この入り口をくぐりますと、異世界へと足を踏み入れることができるのです」


正直俺は頭が混乱していた。Y(旧Tmitter)に書いてあった謎に意味深なツイートを思い出して、こいつらはみんな実は宇宙人で俺をだましてるんじゃないか……

そんな荒唐無稽なことを本気で考え始めたころ、壇上の長谷川は言う。


「では、この扉を開けてみてみましょうか。」

そういうと長谷川が指を鳴らし、その巨大な扉がゆっくりと開く。


「越太郎さん、見てくださいよこの景色を!」



そして瞬間、辺りの景色は緑色へと変わり、俺は広大な野原の中、長谷川が笑顔で俺を見つめていた。


「なぜ俺の名前を」


「あれ、越太郎?」

そこには不思議な恰好をした姉さんがいた。


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