拡大していく夢の中

海虎DX

第1話 

何やら最近、姉さんが怪しい宗教にはまっている。


普段の姉さんは明るくて元気な性格だったが、最近はおかしな行動ばかり取っている。

露骨に怪しい水素水をこれ見よがしに飲んでいるし、普段アクセサリーは邪魔になるといってピアスや腕輪は一切つけないのに数珠を三、四個腕に着けていた。


普段おしゃれにさほど興味がない姉が数珠なんかをつけているというだけで不気味なのに、最近は週に二回のペースで美容室に髪を切りに行っているらしい。


だがそれも嘘だとわかっている。なぜなら美容室に行っても髪の長さが微塵も変わっていないし。

(まあそれに関しては俺が違いに気づけていない可能性もあるが)

だとしても休日に頻繁にどこかに出かけていたりと不自然な点が多すぎる。


極め付けは、俺の部屋で姉が変なことを口走っていたことだ。

俺はあの時あまりにもおかしすぎて絶句してしまったが……


「え?隊長が呼んでる?」


「え?なにいきなり」

「ん?ああごめんごめん。ちょっと考え事してて……」


姉さんは俺の言葉を聞いて部屋の隅で独り言を再開した。


「え〜っと、日時は明後日の午後に集会ですね。」


「集会?」


「それで誰が来るんですか?私の能力でも相手によってはだいぶ厳しいんですけど」

「……能力?相手?姉さん何の話をしているの?」


「……え?覚醒が近いから大丈夫?そうですか。なるほど……」

「………」


どう考えても姉さんは頭がおかしくなっていた。普段独り言なんて一切しないのに、最近は独り言どころか誰かと会話しているような挙動をするし。

姉さんは俺をからかっているのだろうか?でも本当に宗教にはまっていたら大変だし……

……今姉さんは誰かの相手をすると言っていたけど、もしかしたら何かヘンなことをさせられている可能性もあるし…


「覚醒」やら「日時」、「相手」などと言っている以上、確実に宗教関連であるが。

俺は姉のことが心配なので、暇を見て彼女の行動を探っているが……なかなか尻尾がつかめない。

もし本当に宗教にはまっているのだしたら俺にその宗教を進めてきそうなものなのに、宗教の名前すら出さないし、思わせぶりなことばかり言って俺の反応を楽しんでいるのかもしれないし。


だが、ついにしっぽを出した。どうやら、彼女は怪しげな宗教の集会に呼ばれているらしい。

郵便受けの中に姉さんあての封筒を発見した。

宛名は『日本雲外教団』。なんかガチっぽくて怖いんだが…。


だがこれは決定的な証拠だ。

今までは姉さんが俺にいたずらで変なことばかりしていた可能性があったが、実在している教団からの手紙は洒落にならない。

まるで気分は成歩堂弁護士……これは、 あきらかにムジュンしています!


(さすがに怪しいし、姉さんが帰ってくるのを待って宗教について問いただしてみよう……)

俺はそう思い、リビングでそわそわとしながらテレビを見ていた。

するとガチャリと音がして、ドアが開く音が聞こえる。

(来た!)

俺は即座に立ち上がり姉さんの方に歩いていく。

「姉さん?俺に何か隠していない?」

「え?別に何も隠してないけど」

「姉さん宗教にはまっているんだろう?日本雲外教団に」


すると姉さんは驚いた顔で俺のことを睨んできた。

「…なんでその名前を?」

「やっぱりはまっているのか……」

「いやいや、別にそんなんじゃないって!私が信者だって証拠でもあんの!?」


姉さんは俺のことを睨みながら詰め寄ってきた。俺は姉さんの肩をつかみ、力強く言った。

「証拠ならある!」

「……え?」

「郵便受けの中に封筒があったよな?その中に日本雲外教団からの手紙が入ってたんだけど」

「……え?いやそれちょっと!」


姉さんは般若のような形相でいきなり俺の手紙を取り上げた。


「あんた私宛の手紙を勝手に読んだの!?あんた最低ね!」

「いや別に読んでは…」

「家族にもプライバシーっていうものがあるでしょ!?」


そういうと姉さんは顔を真っ赤にして外へ出て行った。


……俺は本当に読んでないんだけどな……。

まあこうなってしまっては何を言っても逆効果だ。俺は一旦部屋に戻って考えることにした。


(それにしてもなんで姉さんはあそこで態度を変えたんだろうか?確かにプライバシーの問題もあるけど、それだけじゃないような気がしたし)

もしかしたら姉さんは嘘をついているのかもしれない。俺が教団の名前を出したときの姉さんの反応も怪しいし。あれはどう考えても異常だった。


(しかし、もし本当に宗教に関係しているとしたらそれはそれで問題だな)

姉が怪しげなカルト集団に洗脳されてしまい、俺の知らないところで日常が壊されようとしている。

そんなことは決して許されるものではない。

こうなったら、もう俺一人で何とかするしかない。

(まずは情報収集だ。姉さんが本当にカルト集団に洗脳されているなら、その情報はネットで広まっているはずだ。

その情報を元に教団の本部まで出向いて、姉を救い出すんだ!)


俺は決意を固めると、パソコンで日本雲外教団について検索をした。俺は片っ端から教団のことを調べ上げてみた。

だが日本雲外教団についての明確な情報はなく、大抵はゲームやらアニメやらの無関係な情報ばかり……。


そして夜も遅くなってきた頃……。

(……大して有益な情報はなかったな、こうなったら後はもう)

その教団とやらに直接行くしかない……。

姉さんの封筒に書いてあった住所は写真を撮っていたから、そこに行けば何かあるはず……

いざ、カチコミっ……!!

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