『ムーラン•ルージュ』〜映画と舞台の相違
『ムーラン•ルージュ』
久々にどハマりした映画だった。
初めて見るバズ•ラーマン監督作品。
軽妙でスタイリッシュで、軽くふざけていると思えば芯にはしっかりとした物語が貫いている。
そして、監督のセンスに貫かれた映像美。
さらに、ジュークボックスミュージカルというのだろうか、規制のヒット曲、名曲が次々と登場する豪華さに、上演中、気を抜く暇なく没頭した。
エッジの効いた作品ゆえにダメな人も多かったようで、何回か熱くなって議論をしたこともあるけれど、私がこの作品を好きという事実は揺るがなかった。
ちなみにその時の否定派の意見としては、
•物語が古すぎる
•音楽が有り物
•ゴチャゴチャしすぎ
•史実と違う
等々。
そこでの私の意見
•物語が古すぎる
↓
ダンス、歌、映像美を詰め込んだ映画である。
これで、物語を複雑にすれば、観客の脳みそは飽和状態になってしまう。
そのため、客に馴染みの深い三角関係の悲恋物にすることにより、ストーリーをすんなり受け入れ映像の美学に溶け込むことができる。
否定するよりも『椿姫』のような古典を現代的にリブートした作品として解釈すべき。
•音楽が有り物
↓
ジュークボックスミュージカルという言葉にまだ馴染みのない頃。
テレビシリーズ『glee』も、『マンマ•ミーア』、『SING』もまだ作られてない時代。
あったとしても、アーティストの伝記的作品で本人の曲を使うという有り物を使う理由がしっかりしている作品ばかり。
だから、オリジナルのナンバーではないということで、バッテンマークをつけるミュージカル映画ファンも多くいた。
が、観客としては、面白く、楽しめれば、有り物だろうがオリジナルだろうが良いわけで、作品に書き下ろされたオリジナル楽曲か否かは作品としては問題ないと私は思う。
さらに、適材適所にヒットチューンからクラシックまで様々なメロディを持ってきたことは評価に値するのではないか。
もちろん素晴らしいオリジナル楽曲で名場面を作り上げることの素晴らしさを否定するつもりはない。
•ゴチャゴチャしすぎ
↓
それがこの作品、そして、監督の持ち味で、それを楽しむべき。
•史実と違う
↓
この作品は歴史物ではなく、ムーラン・ルージュという実在のキャバレーを舞台にした恋愛ものなんだから、野暮なことを言っちゃいけない。
なんて、今思えば、青臭いが、結構、ムキになって議論した。
まぁ、主役2人の歌が下手と言われると、そんなに強くは言い返せなかったけれど。
(ファンの方には申し訳ないが)
が、前述したが、オリジナルの物語にABBAのナンバーを使用したミュージカル作品である『マンマ•ミーア』が各国でヒットし、映画化されてまたヒットした辺りから、ジュークボックスミュージカルの流れが変わった。
そして、テレビシリーズの『glee』、アニメ映画『SING』などで、完全な一分野を確立した。
(余談だが、ジュークボックスミュージカル映画では、トム•クルーズ、キャサリン•ゼダ=ジョーンズがかっ飛んだ演技を見せる『ロック•オブ•エイジズ』が私は大好きなのだが、世間的にあまりメジャーじゃないことが悲しい)
『ムーラン•ルージュ』の舞台版を観たいと公開時から切に願っていたが、半ば無理だろうな、、、と諦めていた。
なぜかと言えば、全編に溢れる出どころの違う音楽の数々。
著作権の切れたクラシックなら問題がないが、ヒット曲の数々を舞台版で使用するには面倒な権利処理と莫大な著作権料がかかることは想像に難くない。
実現するとして『天使にラブソング』のように、オリジナル楽曲を使用する形になるのかな、、、と思っていた。
ブロードウェイでの上演のニュースも入ってきたが、ヒット作の舞台版、ミュージカル化は割と多く有り、その中で出来の良いもののみが日本で翻訳上演されるので、ま、日本で上演されたら観に行きましょ、、、ってな感じでそんなに真剣には読まなかった。
そしたら、コロナ禍の2021年、いきなり東宝で2023年の上演とオーディション開催の告知。
これには驚くとともに嬉しかった。
こりゃ、観に行かなきゃなと思った。
この時は、2年の期間がとても長く感じた。
で、昨年の初演だ。
ハズれた時の落胆を和らげるため、期待しすぎちゃいけないと言い聞かせながら向かった帝国劇場。
もう終演時には完全に沼の中。
この『ムーラン・ルージュ!ザ•ミュージカル』といく舞台版は、完全に映画と舞台の手法、魅力の違いを分かった上で制作されたのだな、、、と感心させたところが一番スゴい。
まず、物語の構成。
映画はクリスチャンの回顧からトゥールーズ達との出会い、そして、一盛り上がりした後にムーラン・ルージュが登場する。
ところが舞台版は、観客がムーラン・ルージュの世界に行き、そして、登場したクリスチャンの導きで、まずムーラン・ルージュのショーを楽しんだ後、アメリカからフランスに訪れたクリスチャンの背景を描く。
これは、物語を追う映画と、ライブ感の強い舞台の性質の違いをしっかり踏まえた上での構成の変更と思う。
かつて、世界的な演出家の蜷川幸雄が、幕開き3分間が勝負と演出術を語っていたが、まさしく、幕開きすぐ(幕開き前から始まっているが)、『レディ•マーマレード』で客をムーラン・ルージュの客席に誘い込んでしまうのである。
そして、映画版では冒頭で印象的だった“Nature Boy”が、しっかりとパリの街並みで歌われる辺り、映画版が好きな観客へのフォローも効いているように思う。
さらに驚いたのは、舞台版では技術的に無理だから出てこないと思っていた序盤に登場する緑の妖精(私はこのおとぎ話のパロディ感溢れるこの存在が好きだった)が、しっかりと2幕で登場すること。
これは1幕のラストのエッフェル塔と並び、お見事と思った。
そして、私自身の年齢を感じてしまったのが音楽である。
映画版は2001年制作のため、出てくる曲、出てくる曲、好きな曲ばかりだったのだが、2018年制作のミュージカル版は、聞いたことはあるけど、曲名は知らない新たなナンバーが増えていた。
初演時には、20代半の友人と言ったのだが、古いヒット曲は私が解説し、新しい曲はその人に解説してもらうという感じだった。
流石にレディ•ガガの“Bad Romance”は知ってたよと言ったら、“それ、古いですよ”と言われ、頭痛が走った。
確かに、聞き覚えがあると思っていたら“Firework”、“Chandelier”などはCMなどでガンガン掛かっていた。
使用される曲のアップデートも、時代を感じ刺激的だった。
面白かったのは敵役のデュークの描き方が悪役としてしっかりとしていたこと。
映画版では、コメディリリーフのような扱いだったのに。
そして、デュークに割り当てられたナンバーがまた、カッコいいのである。
映画版のデュークのナンバーといえば、男だけで歌い踊るマドンナの“Like a Virgin”の悪ふざけ(いい意味で)の場面であり、舞台版では見事にカットとなっていた。
この場面は、実力者が真剣にコメディナンバーを歌い踊ると盛り上がるということの見本のようで、私は大好きだったが、舞台版のデュークのアプローチとは違っていたんだろう。
また、クライマックスとなる舞台の場面の違いも面白かった。
映画版はボリウッドを彷彿とさせる豪華な大ミュージカルナンバーで魅せたが、舞台版はセリフのみの場面。
2幕の途中の稽古の場面で、クライマックスに大ミュージカルナンバーを期待していた私としてはあれ?という感じだったのだが、2幕の半ばからサティーンに裏切られたと思い込んだクリスチャンの内面の苦悩と嫉妬に焦点をあてたナンバー、そして、そこに、死を目前にしたサティーン、アンサンブルのナンバーが重なり、頂点に達した時に静かなセリフ劇が始まるという構成で、これもまた、舞台の観客の気持ちの流れを上手く掴んだ手法で、感服っ!という感じ。
もちろん主たる物語は同じだけれど、映画版と舞台版で見せ場が違うのだ。
映画版でシドラーが歌うQueenの“The Show Must Go On”も良ければ、クリスチャンの“Crazy”“Rolling in the Deep”のメドレーも痺れる。
『ムーラン・ルージュ』という一つの物語で、二つの喜びを味わえるのは嬉しい。
そして、舞台版の良いところは、ダブルキャストというところである。
映画の場合、一度作られれば、別のキャストで見てみたいと思っても、それはほぼほぼ無理である。
映画版『ムーラン・ルージュ』は、ニコール•キッドマン、ユアン•マクレガーのものとなるのである。
(もちろん、この2人が悪いというわけでなく、映画版はこの2人有りきの作品と思っている)
が、舞台版は、ダブルキャストのそれぞれを見ることにより、その人ごとの味、魅力を楽しむことができる。
これは、舞台版の大きな強みであると思う。
ただし、舞台版のデメリットは上演されなければ観ることが出来ず、観たくてもチケットが取れないことが往々にしてあるということだ。
だから、リピートしたくなり、リピートするたびに、どんどん沼に入っていくのだけれど。
(この作品の場合は、英語版だがキャスト盤を聞いて飢えを満たすことが出来るのと、映画版を楽しむことが出来るのが救いだ)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます