『ムーラン・ルージュ!ザ•ミュージカル』〜6月21日公演

『ムーラン•ルージュ』、、、


もともと大好きな映画の舞台版だったので、ハズレはないと思っていたけれど、あまりの出来にどハマりしてしまった去年。


嬉しいことに早くも再演だ。


ロビーに足を踏み入れ、あの気怠げで耽美なメロディを聞いた途端に、一年の時が埋まる。


懐かしいような、全く時が経過せずここに来たような不思議な感覚。


客席も全体が熱い。


再演の舞台であれば、初演を踏まえた練り上げられた舞台、、、という感想がまず生まれるが、本作の場合、開演前から客席も育っちゃったのね、、、と実感する。


この作品の場合、ロビーに入ると頽廃的なメロディが流れ、客席では、本家ムーラン•ルージュのアイコン的像と風車、そしてシャンデリアと真紅を基調としたセットが観客を迎える。


開幕前から作品世界に迎えられる作りだ。


私は15分くらい前に客席に入ったのだが、もう、客席が静かな熱気に包まれているのを肌で感じる。


おや?と思ったのが、舞台上に人が登場すると撮影禁止のボードが出るのだが、それが出る前に皆さんが撮影をやめた事。


昨年の初演時は、結構な人が撮影を続けていたのだけれど。


みんな、判っているリピーターさん(ボヘミアンズというべきか)なのねと思った。


そして、ゆっくりと頽廃的でスタイリッシュな衣装を纏ったキャスト達が舞台を動くのに合わせ、客席の熱さが増す。


開幕が間近と告げる2人の女性の剣のパフォーマンス時に起こった拍手の激しさといったら。


ここで完全に客席は熱気で包まれ、続く主人公クリスチャン登場時の爆弾拍手。


演じる甲斐翔真さんの顔に驚きと喜びの素の表情が一瞬浮かんだのが見える。


カーテンコールの挨拶(私が観たのは2日目、甲斐×望海コンビの初日)で、その瞬間の喜びを語っておられたが、やはり、演じ手の方にも想定外の熱気だったのだろう。


サティーンを演じた望海風斗さんも、開演前は緊張していなかったが、進行するにつれ客席の想像以上の熱い反応に、登場シーンに向けてどんどんと緊張し怖くなっていったとおっしゃっていたが、望海さんほどのキャリアの方でもそんな状態になるのだなと思うと同時に、それだけ私を含め観客の期待が熱かったのだろうと感じた。


私は、ミュージカルだけでなく、観劇自体が初めてという若い友人と一緒に観たのだが、歓声、手拍子が乱れ飛ぶ客席に、ミュージカルってこんなに熱いんですね、、、と驚いていた。


勝手にミュージカルの伝道師の指名を自分に課し、良い作品にはビギナーを連れていことにしているのだが、最初に良すぎる作品紹介してしまったかな、、、と軽く思った。


今年の私の目玉は、サティーンの望海風斗さんだった。


初演時は、チケットを入手することのみに専念し、各所の先行抽選に申し込み、2公演確保したところで満足。


特にキャストを確認せず初回を迎えた。


この時点では、ここまで自分がどハマりすることなど考えてもいなかったのだが、想定以上のクオリティの高さに終演時にはどハマり。


望海サティーンの公演を買っていないということに気付き、サイトを見るとこの時点では、平日ならまだチケットは取れる状態。


自分のスケジュールと合わせ、補助席でも関係ないやと買った平日の公演の時間帯に、抜けられない仕事が入り、泣く泣く友人に譲り、望海サティーンを見逃してしまった。


なので、コロナ禍の今、いつ何時公演中止にもなって良いように公演の前半と後半に1公演ずつチケットを入手。


満を持しての観劇だ。


望海サティーン、見事な存在感だった。


もちろん昨年観た平原綾香も見事だった。


この2人のサティーンが全く違うアプローチ、存在感、魅力で、この2人を観ることで『ムーラン•ルージュ』という作品の奥深さが増した。


ダブルキャストという演劇ならではの手法が見事に活きている。


これが映画だと、サティーンはニコール•キッドマンしか存在し得ず、印象は固定化される。


考えてもみれば、このお二人は、どちらも実力者だがこのサティーンに至るまでの道のりが違う。


平原さんは芸大卒の歌手出身。


その後、舞台にも進出。


『メリー•ポピンズ』では、映画版とは違い大人のための童話として、少し毒のある家政婦を上品に演じ、驚きのダンス力をみせた。


この時の動きの軽快さに驚き、『フィスト•オブ•ノーススター〜北斗の拳』でのユリアが歌のみだったのが少し物足りなかった。

(原作ファンのしては、いきなりユリアが軽快にダンスを始めたら、それはそれでイラッとしたかもしれないという自己矛盾は自覚している)


そして、彼女のサティーンは、儚げで肺を病んでいる設定が前面に出ていた。


コケティッシュで日陰の花というような影を漂わせ、悲劇性を醸し出していた。


一方の望海風斗は、言わずと知れた宝塚歌劇団出身。


私は、この人のルキーニ(『エリザベート』の狂言廻し)が大好きだった。


トップスターとしても『ドン•ジュアン』を始め傑作続き。


最近、少なくなった骨太で大人の色気を出せる男役さんだった。


特に、コロナ禍のせいで中途半端な上演期間で終わってしまった『ワンス•アポン•ア•タイム•イン•アメリカ』の圧倒的な存在感は見事だった。


1幕のラストの真っ赤な薔薇を効果的に使った場面は鮮明に脳裏に焼き付いている。


その後も、配信で『エリザベート』のコンサートバージョンでのトートを見たのだが、これも歴代のトートとはテイストの異なる妖しい色気を見せ、本公演で見たかった〜と心底思った。


退団後も『ドリーム•ガールズ』などで活躍されたのは記憶に新しい。


そして、彼女のサティーンは、とにかく強い精神力が伝わってくる。


立ち姿はさすが宝塚出身と思える姿勢の良さ。


その分、前半では肺病で死を目前にしている儚さは少ないのだが、2幕のクライマックス前、鏡台を前に歌う場面で見せる強く鬼気迫るほど鋭い眼力が、気力のみで身体の不調を抑えているという望海サティーン像を明確にする。


ムーラン•ルージュという店を守るために気力だけで背筋を伸ばしているのが伝わり、また、クリスチャンに対する態度も彼を守ろうとする包容力からのように感じられる。


対する平原綾香は、クリスチャンを愛する故に、彼のために身を引くという側面がより強く感じられた。


また、歌に関しては、2人とも抜群の歌唱力だが、声質•歌唱法が違うため、ソロとなる『ファイヤーワーク』など、全く違う世界が広がってくる。


前述したが、ダブルキャストの醍醐味、演じてによって、同じ演出でも世界が違うというところを見事に味合わせてくれた。


勝手な印象を言えば、平原綾香さんは繊細な蘭、望海さんは大輪の薔薇というような感じである。


両者とも美しさには変わりはなく、あとは受けての好みに委ねられる感じ。


よくダブルキャストの場合、どっちを観ればいい?という質問を受けるのだが、この2人の場合、チケットが取れるのなら、早めの公演で見てください、どちらがキャスティングされてても満足できますよ、そして、ハマったらもう1人を観てください、さらにハマるから、、、と自信を持って答えられる2人であった。


昨年の公演で平原サティーンを観、望海サティーンを観たくなり、今年、それを観、今度は平原サティーンを観たくなり、そして、観たらまた望海サティーンを観たくなるという財布に厳しい無限ループが始まるのだろう。


今年観たクリスチャンは、甲斐翔真さんだった。


実は、昨年の『ムーラン•ルージュ』では、これまで観てきた甲斐翔真さんの役者としての変遷とクリスチャンが重なって見え、予想以上に物語に引き込まれてしまった。


甲斐翔真さんは、『仮面ライダーエグゼイド』の出身である。


私は、初代ライダーから欠かさずライダー物を見続けているのだが、各作品を一年身続けると出演する俳優さん達に愛着も湧き、その後の活躍が気になってしまう。


甲斐さんの場合、ライダー後、あまり露出は多い方ではなかったが、いきなり栗山民也演出の『デスノート』の主役ライトに抜擢され、驚いた。


そして、この『デスノート』が青春モノとして、出色の出来だったのである。


ライバルのLは高橋颯さんだったのだが、抜擢された若手俳優同士のガチンコ対決とでもいうのだろうか、2人の気迫がぶつかり合っていたのである。


特に、原作漫画でも名場面であるテニスの試合のシーンの迫力は鳥肌モノだった。


ついつい、お得さに釣られて、リピーターチケットを買ってしまった。


次に観た『レント』のロジャーは、個人的にはベストキャスト。


その後も『ロミオ&ジュリエット』、『エリザベート 』などで、メキメキと実力をつけていくところを観た。


そして、昨年の『ムーラン•ルージュ』である。


若い直向きな情熱でパリに乗り込んできた若者が、年上の女性に惹かれ、恋に落ち、傷付き、成長する。


それが、若く上り調子の俳優甲斐翔真に被り、また、大人のエンターテイナーであるサティーンの平原綾香にリードして成長していく過程が、見事に物語とリンクしていた。


この構図は、望海サティーンでも同様で、観ていて納得出来る。


昨年と比較すると、ダンスのキレが増し、また、静の演技の陰影がよりはっきりしたように思う。


特に、サティーンに裏切られたと思い込んでしまったあたりからの手負の獣のような演技は思わず観入ってしまった。


再演ということで、他の役者さん達もグッと存在感を増していた。


シドラーの松村雄基さんは軽妙さが増し、見事にショーを盛り上げる。


サンティアゴの中河内雅貴さんは、渋さとキレが増し、ニニの加賀楓さんも役に深みが増していた。


2幕の冒頭の2人を中心としたダンス、私の大好きなナンバーで待ってましたという感じで観ていたのだが、ナンバー終わりの爆発するような拍手、歓声に、みんな、好きなナンバーなのねと嬉しくなった。


上川一哉さんの歌声は心に沁みる。


伊礼彼方さんは、若手イケメンスターのイメージが私には強いのだが、もうこんな渋い悪役もこなすようになったのねと感慨に耽る。


カーテンコールで、デュークが楽しそうに歌い踊る姿は何度観ても楽しい。


そして、アンサンブルも最高。


ベイビードールのシュート•チェンさん、見事!


休憩時間、一緒に行った友人に男なんだよ言っても半信半疑で、終演後に驚いていた。


何度でも、何度でもリピートしたくなる作品だ。


映画版との相違について↓に記しました。

よろしければお読みいただけると幸いです。

https://kakuyomu.jp/my/works/16818023212267784612/episodes/16818093082143684272














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