猫おじさんのエンタメ巡礼

奈良原透

『この子は邪悪』〜予想を裏切りるしっかりとしたサイコ•ホラー

『この子は邪悪』。


私の周囲のジャニオタ(もうこの言葉は死語となっているのだろうか?)の皆さんが、なにわ男子の大西流星の出演作と騒いでいたので、てっきり、最近多産のアイドルを中心に据えた青春ホラー系かと勝手に思っておりました。


見終わりました。


自分勝手な先入観で考えていてごめんなさい、、、と、素直に言います。


いや、面白かった。


なぜにこの作品がもっと評価されぬのか?と素直に思った。


“サイコ”系としては、とても良く練り込まれた作品だと思う。


この作品は、予備知識を持たずに見た方が良い。


ただ、心優しい方は、見終わった時に心を削られていることを覚悟した方が良い。


クライマックスのキーポイントで、“結局、それはどうやったらできるの?”(ネタバレ回避のために伏せます)というツッコミはあるのだが、その点を横に置いておけば、淡々とした前半に張られた伏線がクライマックスで立て続けに回収されるストーリー的に見応えのある作品だった。


いわゆるJホラーの系譜とはテイストが異なり、新しい方向を切り開いた印象のある作品である。


個人的には『ミッドサマー』や『アス』のテイストを思い出し、好きだった。


導入部、嫌な違和感が身の内に残るような人々の姿が切り抜かれ、話がどこに進むかわからないモヤモヤの中、訳のわからぬまま世界に引き込まれる。


何を調べているのかわからない少年(大西流星)、奇怪な行動をとる(おそらく)精神を病んだ人達、仮面の少女、その中で唯一精神的に普通の少女(南沙羅)、一癖ありそうな精神科医(玉木宏)。


いわゆる観客が悲鳴をあげたり、目を背けるようなショックシーンはない。


淡々とした場面の積み重ねのみで、見ている者の不安感を煽り画面に引き込む演出が上手い(監督•脚本 片岡翔)。


事故にあい、妹が顔に火傷を負い、母親は意識不明状態だった家族のもとに意識を取り戻した母親(桜井ユキ)が戻ってくるあたりから、観客側の違和感を煽る場面が続く。


平凡で幸せそうな家族の場面が見ていて居心地悪い。


そして、少年と少女が、少しずつ事件に近づく鍵を発見していく。


それとともに、誠実そうな精神科医の家族愛の深さが浮き彫りにされていく。


何を考えているのかもう一つ掴めない玉木宏と、異常な行動を取るわけではないのに不穏な雰囲気を醸し出す桜井ユキの存在感が見事。


主演の南沙羅も清楚で、彼女が家族に感じる違和感と、観客の不安がシンクロする。


驚いたのは大西流星がアイドルアイドルせず、きちんと作中にハマり、存在感を見せていたこと。


演技が上手い人なのだなと感心した。


詳細はネタバレになるので避けるが、タイトルの“邪悪”とは裏腹に、“強すぎる愛情•正義感”が巻き起こした事件•事象ということがズンと心にのし掛かり、強い余韻を残す。


そして、“この子”は“邪悪”というタイトルを考えると、幸福なラストシーンがそのまま受け入れてはいけないのか、、、と思ってしまうのだが、考えすぎだろうか。


見終わった後に、“邪悪”と“愛情”と“正義”の相関関係を考えてしまった。










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