第10話 彼女の友達とは友達になれますか?
昨日今日と、立て続けに突拍子もなく何かが起こっている。運命様が僕に悪戯を始めたんだろう。良いこともあったけど、悪いことの方が格段にショックが大きい。どうしてこんなことをするんでしょう。運命様、どうかご慈悲を~。
なんて思ってても時間の無駄か。起きてしまった事実は変えられない。なら、今できることをやるだけだ。ということで放課後どうするか佳奈ちゃんに聞いてみよう。
『放課後どうする? 実家には来てもらうことになるけど、少し遅い時間になるかもしれない』
数秒待つと、返信が来た。やっぱり授業中ずっとスマホで遊んでるんじゃないか? これは後でビシッと言ってやらないといけないな。
『遅くなるのは大丈夫ですよ。色々話したいこともあるので、一緒に帰りませんか?』
帰りも一緒に……か。密かに憧れていたシチュエーションではあるけど、今日は僕は部活に行かないですぐ帰る日だ。時間が合うかわからない。それに、正直なところ初めて佳織さんがいい……なんて言ったら怒られるよね。
『今日は6限が終わったらすぐ帰るんだけど、時間は大丈夫?』
『大丈夫ですよ。先輩と一緒に帰りたかったので、嬉しいです』
少し恥ずかしいことを言ってきたけど、多分からかってきているだけだろう。
『嬉しいこと言ってくれるじゃん。そう言ってくれるのは光栄だね。なら、迎えに行くから待ってて』
なんて冷静に返しているけど、内心はかなりバクバクしている。偽とはいえ、彼女にこんなことを言われて嬉しく思わない人はいないと思う。
『はい! ありがとうございます。大好きです!』
……危ない。吹き出しそうになった。まさかそんなことを言ってくるとは思ってなかったぞ。チャットでまでそういうムーブをしてくるなんて……入りきってるな。なら僕もそのやる気に答えるまで!
『ありがとう。僕も好きだよ』
よし。これでいいでしょ。放課後が楽しみだ。……引っ越しは不安だけどね。
※※
(うう……まさか返してくるなんて……)
私は今、机に突っ伏して叫びそうになるのを我慢している。さっきの先輩とのやりとりが原因だ。というか、先輩が悪い。
私と違って他に一番がいるのに、そういうことを言ってくるのは駄目だと思う。私が勘違いしても知りませんよ?
「この問題の答えを……美月さん」
「えぇ!? は、はい!」
先生に名前を呼ばれた。どうしたんだろう。先輩の事で頭がいっぱいで、何も話を聞いていなかった。何をすればいいの? もしかして怒られる?
「えっと……美月さん?」
「はい」
「この問題をですね……」
「え、あ……わからないです……」
「そうですか……ちゃんと話を聞いておくように」
「はい……」
ため息をついて、先生に呆れられる。クラスのみんなにもクスクスと笑われている。顔の熱さが変わることはないけど、すごく恥ずかしい。
「何してたのよ佳奈ち。珍し……くはないけど、いつもより顔赤いよ? 体調でも悪い?」
「ううん。違うよ。ちょっとね」
「あ、なら件の先輩か」
「ち、違うよ」
なんでバレてるの……私が麗奈に先輩について言ったのは1回だけのはず。なのにわかったの?
「わかりやすいねぇ佳奈ちは。そんなに顔を真っ赤にしてたらすぐわかるよ?」
「そんなぁ……」
隠そうと思ってたのに……気を抜いちゃったかな。いや、今日のは仕方がないと思う。考えてみてほしい。自分の想い人で、自分のことを意識してないと思っていた人から突然好きだと言われる。それがどれだけ嬉しいことで、恥ずかしいことなのか。
「ほんとにその人のことが大好きなんだね。そんなに好きになれる人がいるのは、羨ましいなぁ」
「う、うるさい!」
このままだとこうやってずっと言われそうだ。寝よう。
※
放課後になった。僕は今、1年生の教室に向かっている。上級生が1年生の階にいるのは珍しいからなのか、周りから好気的な視線を向けられているのを感じる。
そうだ。帰る前に佳織さんに連絡しとかないと。『今日は引っ越し作業があるので部活を休みます』……と。これだけ送って、カバンの中にスマホを突っ込む。普段なら返信を待ってからしまうんだけど、部活の時だけは別だ。先輩は本を読んでいるときは、そっちに集中して滅多に他の物を見ない。最初の特に仲良くもなかった時期は、入ってきたことにすら気付かれなかったぐらいだ。
だから、今は返信が帰ってこないだろうと踏んで佳奈ちゃんを迎えに行くのを優先した。それが原因でひと悶着起こるなんて、欠片も思わずに。
「佳奈ちゃん、いる?」
そうやって事前に教えられた教室に入ると、周りに人が群がってきた。なんだ?
「先輩が美月さんの彼氏ですか!?」
「どうやって出会ったんですか?」
「先輩! 彼女さんを僕に下さい!」
「あの鉄壁の美月さんを短期間で誑し込んだその手腕……ぜひ教えてもらいたいものです」
どうやらこのクラスはこの手の話題が好きな人が多いらしい。凄い質問攻めだ。まぁ、一部変なのもいるけど……
「ちょ、多い多い! せめて一人ずつにして!」
そう言うも、ドアの前から人が減る様子はない。これじゃあ中に中に入れないんだけど……
「先輩。行きますよ」
どう対応しようか困っていたところに、反対側のドアから出てきた佳奈ちゃんに手を掴まれた。と思ったらそのまま走り出した。
「ちょ、急に走り出さないで! 危ないから!」
「お、佳奈ち大胆だねぇ」
明らかに聞き覚えの無い声がして隣を見る。するとそこには、いかにもギャルっぽい恰好をした、明るめのピンク髪の女の子が並走していた。
「ん? にゃっぽー。彼氏先輩」
「にゃ、にゃっぽー? えっと……誰」
「先輩。麗奈の事は一旦放置でお願いします。早く学校から出ますよ」
「ああ、うん。了解」
「彼氏先輩酷い! 後で質問攻めするからね!」
扱いが雑だなぁ……それを受け入れてるような感じもするし、クラスで仲がいい人なのかな? それにしても……彼氏先輩ってなんだ?
少し走ると、校門が近づいてきた。うちの学校は学年ごとに教室の階層が上がっていくシステムだから、1年の教室からだとすぐ外に出ることができる。
そのまま学校を出て、スマホで新居の住所を調べながら家に向かって歩く。
「学校からは出れたけど、そもそも走る必要あった?」
「……確かに、普通に歩いてもよかったかもしれません」
「ほんとにね~。まったく、佳奈ちったら~」
やっぱり、ちょっと抜けてるよなぁ。最初の印象とは違って、手のかかる妹みたいに見えてきた。
「なんですかその温かい目は」
「いや、(妹みたいで)かわいいな~って」
「はみゅ!?」
「お~。彼氏先輩大胆っすね~。こうやって口説き落としたんですね」
麗奈? さんが茶々を入れてくる。ずっとついてきているけど、暇なんだろうか。
「だれも口説いたことはないよ。それで、さっきから気になってたけど君は?」
「私ですか? 私は口説くより口説かれたいですね~」
「いやそっちじゃなくて」
「あ、違いました? 失敬失敬。私は麗奈です!」
「そこは知ってるんだけど……」
「ありゃ、これも違いましたか。全く、彼氏先輩は何が聞きたいんですか」
ニヤニヤしながら聞いてくる。これ、絶対からかわれてるだけだよな。多分、何が聞きたいかわかってながらわからないふりをしてる。そっちがそう来るなら、僕もそっちに舵を切ってやる。
「彼氏はいるのかな〜って聞こうと思ってただけだよ」
「聞きたいことってそれだったんです? いませんよ〜。ほら、どうですか?」
「どうって……何が? いない事の感想を求められても困るんだけど」
「誰がそんなこと聞くんすか! そんな質問だと思う人いませんって〜」
凄い笑ってる。ひとまずファーストコンタクトは合格でいいかな?
「むぅ……先輩」
2人で中身のない会話をしていると、後ろから服を引っぱられる。何かあったのかな? なんて思いながら呑気に振り向くと、佳奈ちゃんが頬を膨らまして、いかにも『不機嫌です!』みたいな顔をしていた。
「ど、どうしたの?」
「麗奈とばっかり話してないで、私にも構ってください」
「お、佳奈ち嫉妬? 大丈夫だって~。先輩の事盗ったりはしないからさ。多分……」
嫉妬? 無いでしょ。僕たちは仮初の関係なわけだし、今はそういう感情はないと思う。これからどうなるかはさておいて、ね。
「嫉妬……確かにそうかもしれませんね」
「んゆっ!?」
予想外の言葉に、謎の言葉が出るぐらい動揺してしまった。さっきの佳奈ちゃんと同じような状況のはずなのに、何故か2人から笑われる。
「お、聞かせてよ」
「麗奈が先輩を盗らないって約束してくれたらね」
「もち! この
朝井さんか。覚えたぞ。何かを覚えるのだけは得意分野なんだ。
「うん、覚えたよ。朝井さんね」
「先輩。先に行っててもらえますか? 流石に今からする話を聞かれるのは恥ずかしいので」
「りょーかい。じゃあまた後で」
「すいません」
謝ってくるけど、こんなことで謝られてもなんて返せばいいかわからない。一緒に帰ってて途中で別れるなんてあるあるだと思うし、なんとも思わない。強いて言うなら、嫉妬の理由を聞きたかったな~。ぐらいだ。
「あ、彼氏先輩。連絡先交換しませんか?」
「あぁ、いいよ。ちょっと待ってて」
最後に朝井さんと連絡先を交換して、2人と別れた。別れ際に見えた佳奈ちゃんの少し怒ったような表情は、少し印象的だった。……一体何に怒っていたんだろう……
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